Makino (2008) の解説

送粉者の空間利用パターンは、花数や蜜量などの株レベルの形質や、他の送粉者などの競争だけではなく、植物集団やパッチレベルの環境の違いに影響されるかもしれません。たとえば、植物が生える地面の「傾斜」が、送粉者の空間利用に影響する可能性が考えられます。いくつかの鳥で知られるように、送粉者にとって水平飛行よりもななめ方向への飛行に余計な時間がかかるとすれば、斜面では餌あつめの速度が低下してしまいます。こうした状況において送粉者は、斜面よりも平面に咲く花を好んで訪れるようになるかもしれません。そこで、室内ケージ内に斜面と平面をつくって人工花(株)への訪問をくらべたところ、クロマルハナバチは平面の株を好んで多く訪れました。さらに、斜面では花から花への移動に時間がかかり、餌あつめの速度が下がることもわかりました。これらの結果は、植物をとりまく微小スケールの「地形」が、植物の繁殖成功や、植物集団間の遺伝子交流に影響しうることを示した初めての事例です。

平面と斜面の訪問数を比較した実験の写真

黄色の球は 32 cm 間隔に並んだ人工花(株)。ハチは平面に並んだ株を好んで訪れる。

Makino TT (2008) Bumble bee preference for flowers arranged on a horizontal plane versus inclined planes. Functional Ecology, 22:1027-1032 [link]