趣旨:
動物の視覚は、エサの探索や交配相手の選択など、さまざまな場面でその役割を果たしている。それゆえ生物の世界は、視覚がもたらしたと考えられる様々な現象に満ちあふれている。異性の目を引く鮮やかな体色や捕食者の目をあざむく擬態、色とりどりの花などは視覚の産物であり、多くの生態学者の興味を引きつけてきた。こうした現象を扱うとき気をつけなければならないのは、「生き物に見えている世界はかならずしも私たちと同じではない」ということである。たとえば花を訪れるミツバチには、私たちには見えない紫外線が見えている。ある花が目立つ、目立たないといった議論ひとつをとっても、虫の眼をとおすと違った結論にたどりつくかもしれない。私たちは「生き物に見えている世界」を考える必要がある。
その手助けとなるのが視覚生理学の知識である。動物がどのような構造で光を受け取り、どのように神経系で処理をしているのかについては日々、新たな成果が報告されている。こうした視覚についての知識を身につけ、生き物の眼をとおして対象に向き合うことで、これまで見えなかった世界が見えてくるにちがいない。本シンポジウムでは、視覚にまつわる現象を、生理学の視点、生態学の視点、さらには両方の視点から研究されている方々にそれぞれ話題を提供していただき、分野の融合によって広がる研究の可能性を探りたい。