Makino & Yokoyama (2015)の解説

赤いツバキや黄色のヒマワリ、青いリンドウなど、野外では様々な植物が色んな色の花を咲かせます。この研究では「どうして花の色は多様なのか?」という謎の一端に迫ろうとしています。

花の色が多様であることの説明として「花粉を運ぶ虫に見つかりやすくなるよう目立つため」という理由を思い浮かべる方がいるかもしれません。でも、目立つだけならばどんな植物の花も、たとえばタンポポのように鮮やかな黄色一色であっても問題なさそうに思えます。なぜ様々な色が存在するのか、その説明のひとつに「同じ時期に咲く他種の存在」があげられます。チョウやハチといった花粉を運ぶ虫たちはしばしば花の色を覚え、気に入った花の色を続けて選ぶことがあります。このとき植物が、他種とは異なる、自分の仲間にだけ共通する色の花を咲かせれていれば、虫たちが同じ種のあいだを行き来する可能性が高まり、花粉を効率良く届けることができるでしょう。そのため「同じ地域で同時に開花する植物は、互いに異なる色の花を咲かせるのでは?」という予測が浮かんできます。

ところがそうした傾向は稀にしか見つかっていません(Gumbert et al. 1999, McEwen & Vamosi 2012)。その理由のひとつとして考えられるのが外来種です。外来種が在来の植物種とよく似た色の花を咲かせる例はままあります。もしかしたら外来種が「互いに花の色が異なる傾向」を打ち消しているのかもしれません。

そこで本研究では山形県上山市の林縁・湿地・耕作地などから、のべ約2.4kmにおよぶ調査路を定め、そこで開花する植物種を、2014年の4月下旬から11月上旬にかけて、週1回のペースで記録しました。また、花を咲かせた全244種の花が、それぞれどんな色をしているのかを分光器という機械を用いて測定し、虫の目にどのように見えているのかを数式(視覚モデル)を使って数字に置き換えました。そして、花と花との色の違いが、偶然では説明が付かないほど大きいのかを、プログラムを組んでパソコンで解析しました。

その結果、この調査地では、同じ時期に花を咲かせる種ほど、花の色が互いに異なることがわかりました。また、32種いた外来種を取り除くと、互いに異なる傾向(過分散と呼びます)がより顕著になることも明らかになりました。花色の過分散はこれまで1例しか見つかっていません*が、今回ふたつ目の例が見つかったことを考えると、やはり自然界に存在するルールのひとつである可能性は高そうです。そして本研究ではさらに、外来種に関する新たな発見がありました。外来種は、花色の過分散を打ち消す方向で、在来植物の集まりに割り込んでいたのです。外来種はよく似た色の花で在来種から虫を横取りしているのかもしれません。

*近縁種に限るとMuchhla et al. (2014)が花色の過分散を検出していますが、今回の研究は様々な植物種で構成される群集レベルの解析という点で異なります。また、群集レベルでこれまでに見つかった1例というのはMcEwen & Vamosi (2012)によるもので、彼らは5つの植物群集を調べて、そのうち1群集でのみ統計的に有意な過分散を検出しています。

Makino TT and Yokoyama J. (2015) Nonrandom composition of flower colors in a plant community: mutually different co-flowering natives and disturbance by aliens. PLoS ONE 10: e0143443 [link]