Makino & Sakai (2004) の解説

卒業研究 (Makino, Ohashi & Sakai 2007) で行った野外調査では、送粉者が、同じ植物集団を利用しているにもかかわらず、個体ごとに異なる空間利用パターンを示していました。同様の傾向はほかの研究でも観察されているものの、個体の空間利用パターンがどんな要因によって決まっているのかはほとんどわかっていませんでした。その手がかりを得るにはまず、いろんな個体の空間利用パターンをじっくり観察する必要があると考え、野外に 20 m x 20 m、高さ 2 m の網製のテントを建て、そのなかに農業用に生産されているクロマルハナバチのコロニーと、キバナコスモスの鉢植えを持ち込み、個体識別したハチを1日およそ8時間、のべ21日間にわたって徹底的に追跡しました。その結果、 ハチの空間利用パターンは、完全ではないものの、個体どうしの重なりあいがきわめて小さいものになっていることがわかりました。この結果は、送粉者の空間利用パターンが個体どうしの競争を緩和し、採餌効率を高めている可能性を示唆しています。またこうした空間利用パターンの調節は、花粉の運搬先を強く制限する可能性もあり、植物の交配様式を考える上でたいへん興味深いものです。

同じ日に観察されたハチ3個体の空間利用パターン

円の大きさは訪問回数を表す。個体ごとに頻繁に訪れる株が異なっている。

この研究ではほかにも、ハチ個体の空間利用パターンが日をまたいで維持されるいっぽうで少しずつ変化していくことや、ハチを個体レベルで見ると、かならずしも花数の多い株ばかりを頻繁に訪問しているわけではない(花数の少ない株を頻繁に訪問することもある)ことなどもわかりました。

Makino TT and Sakai S (2004) Findings on spatial foraging patterns of bumblebees (Bombus ignitus) from a bee-tracking experiment in a net cage. Behavioral Ecology and Sociobiology 56:155-163 [link]

左:キバナコスモスで採餌するクロマルハナバチ 右:網製テント