雨乞い大蛇の民話

沈目地区に伝わる雨乞い大蛇

沈目地区に残る口伝を基に、城南町民話の会が 「沈目の郷の龍神様」の民話を作成しました。

文:城南町民話の会(監修:沈目自治会、沈目大蛇踊り保存会)

絵:西嶋好美(原画:城南町民話の会)

00雨乞い大蛇の民話

01のどかな沈目の郷

むかしむかし沈目の郷は、舞原台地から緑の布を広げたように、家々の田や畑が南の浜戸川へと下って行き、隣村へと続いておりました。

田や畑ではそこかしこに村人が働いており、四季折々の景色は、のどかで平和で時はゆっくりと流れ、人々はのんびり仲良く暮らしとりました。

ばってんこん沈目の郷も、時折り浜戸川の氾濫があったり、日照りが続きひどか干ばつに見舞われ、つらか苦しか時もありましたが、村人達は力ば合わせ、そん災害ば乗り越えて来ました。

01 のどかな沈目の郷

02日照り続きの村 

ある夏の朝早く、村長(むらおさ)の卵平は表戸をガラリと開け、空ば見上げて「ああ、今日も雨は降らんごたるなあー」と一人言ば云いながらため息をついた。

 すると隣の左吉が表戸から顔を出し「卯平さん今日も良か天気なあ、雨ん待ち遠しかなあ、水不足で稲ん穂の実入りん悪かごたる。」

と二人で話しよると、 家々から村人が集って来て、日照りの話でもち切りとなった。

02日照り続きの村 

03お小夜ばあさんの話 

すっと、村一番年取った、お小夜ばあさんが、「おどんが小(こ)まか時、ひいじいさんがいいよらした。裏山にある祠(ほこら)は龍神さんの祠ばい。

そんねきある龍神池ん底は浜戸川まで続いとってな、日照り続きの年にや、村ん衆が一心に祈っと、雨ば自然と按配よう降らせなはる龍神さんがおんなはる。ありがたか雨をくれらす竜神さんばい。

今頃(こんころ)ん村ん衆は、龍神さんのお祀(まつ)りばすっとば忘れとるごたる。こん日照り続きや、龍神さんの腹かいとんなはるにちがいなか。昔しゃ一日、十五日にゃ、いろいろお供えしてお祀(まつ)りばしよったなあ。」と空ば見上げてつぶやいた。

03お小夜ばあさんの話

04村人総出で祠の掃除 

村長(むらおさ)の卯平は、

「ほんなこつなあ、俺たちゃ大切なこつば忘れとったばい。今日はどぎゃんかい、龍神さんの祠(ほこら)と龍神池ば掃除して、お祀(まつ)りばしょうじゃなかかい。」

と村人に声ばかけると「そらあよかこつばい」とさっそく祠の掃除が始まった。

祠に注連縄(しめなわ)ばかざり、おかみさん達や米んダゴやら煮しめ、やらばお供えして、ささやかな龍神まつりが始まった。

村ん人達や「龍神さま、龍神さま、どうぞ雨ば降らせち下はりまっせ。」 「どうぞどうぞ、お願します。」と皆一心に祈った。 そして、その日の祀りは終わった。

04村人総出で祠の掃除

05龍神さんが現る 

その夜村ん人達が眠りにつくと、浜戸川の川上から 静かに霧が流れて来て、それが雨粒となり風にのって 川あらしとなった。ゴーッブーツ、ドドドドドーッと 地鳴が響き、濃い霧が龍の形となり空に舞い上がった。

赤や青や黄色など虹色の炎を吐きながら、沈目の空をぐるりぐるりと回り、稲を右に左にやさしくなびかせ ていた。

あたりの景色は虹色に輝いて、それはそれは美しく、この世の物とは思えない龍神さまの踊りだっ た。ばってんなー、こん光景ば見た沈目ん人達は、誰もおらんだった。

雨は音もたてず静かに降りだし、沈目の郷はしっとりと潤い、涼しい朝を迎えた。田んぼ の稲は水をすいあげ、生々と葉っぱを鳴らしていた。 

05龍神さんが現る 

06龍神さん(雨)の恵み 

今朝もまた一番早起きの卵平が、「わーつ、雨ん降っとるばい。

おーい、おーい龍神さんが雨ば降らせなはったぞー」と大声で叫ぶと、家々からわらわらと村人が出て来て「龍神さんに願いの届いたばい。」「恵の雨の降ったばい。」と村中の人々が大喜びした。

06龍神さん(雨)の恵み 

07五穀豊穣祈願祭 

それからいく日が過ぎ、一日になった。村ん人達や、龍神さんの祠に集まり、いそいそと祀りの準備を始めた。

村長の卵平は、お神酒とお頭付きの魚ば供え、おかみさん達や、手作りの煮しめやら米んダゴやらば供え、皆手を合わせ今までの不信心をお詫びして、豊作を願い心を込めて祈りの言葉を述べた。

家々の子ども達は、庭に咲く花を供え、口々に「龍神さまはえらかね。」「一ぺん見てみたか。」「ばってん龍だけん恐ろしかかもしれん。」とつぶやいた。

すると四つになる次郎吉が「龍神さまー、龍神さまー、一ぺん会ってみたかー、今夜出て来てはいよー。」と空に向かって叫ぶと、子ども達は一斉に「龍神さまー、出て来てはいよー」と声をそろえて叫んだ。その願いの言葉が唄となった。

-------------------------------------龍神さま 龍神さま 龍神さまは 沈目の郷の 沈目の郷の すくいの神様だ~雨を降らせ 雨を降らせ 田んぼも畑も ぐんぐん ぐんぐん 背伸びする~龍神さまありがとう 龍神さまありがとうあいたいなー あいたいなー -------------------------------------

子ども達が唄い、大人は手拍子を取り、皆上機嫌でその日の祀りは終わった。

07五穀豊穣祈願祭 

08龍の玉ははじけ四方の村々にも実り 

その夜、村人達が眠りにつく頃、浜戸川の上流より霧が流れ、その濃い霧が龍となった。ゴーツ、ブーツ、ドドドドドーッと地鳴りが響き渡り、村ん人達ゃたまがって外に飛び出した。

口から七色の炎をはきながら、龍がゆっくりゆっくり、沈目の空の上を回りはじめた。すると龍の口に黄金色に輝く玉が現れた。

その玉がバチッーとはじけて、その輝く光が、千や万や数十万の黄金のつぶとなり、 沈目の郷から周囲の村々まで飛び散り、キラキラ、キラキラと降りそそいだ。その黄金色のつぶは、稲の穂 の一つぶ一つぶとなり、生き生きと穂をもたげ揺れだ した。

大人も子どもも呆けたように口を開け、その光景にみとれていたが、ハッと我に返り子ども達は、龍神さまに会えた喜びと、幸運に心をふるわせ頂い出した。

-------------------------------------龍神さま 龍神さま 龍神さまは 沈目の郷の 沈目の郷の 恵の神様だー雨を降らせ 雨を降らせ 田んぼも畑も ぐんぐん ぐんぐん 実りだす黄金の光が 黄金の恵が キラキラ キラキラ 降りそそぎー甘いお米 つやつやお米 もちもちお米が実ります白いお米 おいしいお米 大地の大地の恵みだよ -------------------------------------

大人も子どもも感謝と祈りを込めて、手拍子を打ち明い踊った。いっときすると、龍はゆっくりゆっくり川 上に向かって消えて行き、また静かに雨が降りだした。 沈目の郷の稲穂はプチュプチュむくむくつ、プチュプチュむくむくっと太り出した。 

08龍の玉ははじけ四方の村々にも実り 

09沈目の郷は豊作の秋を迎えた 

やがて秋になり、沈目の田んぼでは稲刈りが始まった。村ん人達や、口々に「今年や、豊作ばい。」「ああ、 龍神さんのお恵みばい。」と喜び合い、黄金色の田んぼは、稲刈りにいそいそと精を出して働く、大人や子ども達の姿であふれていた。

こぎゃんしてな、沈目の郷にや甘(あもう)してもちもちした米の、毎年ぐっさり取れるごつなったそうな。

龍神さまの話はこっでしみゃ。

09沈目の郷は豊作の秋を迎えた