(4)イネの生長特性
1.栄養成長と生殖成長
幼穂形成までの栄養成長、開花より生殖成長という2つの成長期がある。前者は植物体を成長させる期間で、後者は子孫を残すための成長期間である。
栄養成長から生殖成長へスムースに転換し花・実をつけていくためには、幼穂形成を境(交替期*)に肥料(NPK)バランスを変えていく必要がある。
*交替期とは、栄養週期栽培理論において定義された栄養成長と生殖成長の過渡期を言う
図:栄養週期理論による生育ステージと肥料バランス
2.花芽形成に影響を与える要因
①日長
植物によって日長に対する反応が異なる
(光周性)花芽分化に必要な日照時間の長短を表す性質
→長日植物:大根、ホウレンソウ、麦、レタス
→短日植物:イネ、キク、コスモス、大豆
→中性植物:トマト、そば、ヒマワリ
②C/N比
・炭素(C)量と窒素(N)量の割合いで、炭素率という。
・生殖成長期に差し掛かってもC/N比が低い(<窒素)と、植物体は栄養成長に傾いたままとなり花芽形成が遅れたりバラつきが大きくなる。
・このため、栄養成長中盤以降でリン酸(P)を効かせておき、終盤にカリ(K)を与えC/N比を高めて生殖成長を促していく。
③温度
作物の花芽形成には、その種、品種に応じた積算温度が満たされることが必要となる。
出典:農業研究センター
3.早生・中生・晩生の特徴
品種の違いにより、栄養成長ステージの長さが異なる。
●感温性(高温により花芽形成が早められる)
●感光性(短日により 花芽形成が早められる)
・感光性の高い品種は収量性が高い。
(クイズ)
問い1
九州の品種「ヒノヒカリ」(感光性が高い)を北海道で作付けするとどうなるか?
(答え)
・ヒノヒカリの出穂期は8月下旬、9月以降秋の深まりが早い北海道では低温で登熟が不十分となり品質・収量はダウンする。
(補足1)
・九州に比べ北海道は稲作に適した期間は短いため、早生品種(栽培期間が短い)が作付けされている。
(補足2)
・九州平坦地では、ヒノヒカリ(中生品種)は6月25日前後に田植えが行われている。田植え時期を半月程度早めても、出穂時期は4~5日早まる程度である。
・つまり、感光性の強い中生品種は、その品種が持つ”日の長短条件”の到来を契機に花芽形成がスタートするからである。
問い2
北海道の品種「きらら397」(感温性が高い)を九州で作付けするとどうなるか?
(ヒント)
きらら397は、移植から出穂までの積算水温※は1000℃程度である。温暖な九州は北海道よりも数週間も早く積算水温に到達してしまう。
※積算水温とは、一日の平均水温を累積した値のこと。
例)一日の平均水温25℃ × 40日 =1000℃
(答え)
・温暖地のため稲体の生長が未成熟のまま積算水温に到達し花芽形成が始まる。
・栄養成長期間が短いため、分けつ、稲体の生長ともに不十分。品質、収量はダウン。
↓(対応策)
①気温の低い春先に田植え
天草では早生のコシヒカリを早春(3月)に田植えを行い、7月には稲刈りとなる。
なお、熊本の平地においての田植えは6月で、稲刈りは10月。
②高冷地での田植え
阿蘇では5月にコシヒカリを作付けしているが、これは高地のため気温が低いことによる。