第3回勉強会

2008年1月26日(土)

第3回勉強会

「国連開発計画のアフリカにおける<Resource Mobilisation>戦略とその背景」

■講師: 小俣直彦氏(ロンドン大学SOAS博士課程)

■講師略歴:

東京大学法学部卒業後、民間金融機関勤務。タフツ大学大学院にて修士号取得。

2005-07年に国連開発計画(UNDP)ガーナ事務所勤務を経て、現在に至る。

■講演概要:

9.11以降、主要ドナーが自国の安全保障問題に力をいれる中、国際機関への援助拠出は縮小傾向にあります。一方、世界的な使命であるミレニアム開発目標の達成期限は2015年に迫っており、とりわけアフリカ地域での大幅な進捗の遅れが大きな懸念事項となっています。

国連開発計画(UNDP)のアフリカ局では数年前からこうした事態に対応すべく、独自のResource Mobilisation 戦略を構築し、いかにして自らの活動のための資源を確保し、ミレニアム開発目標の進捗を推進するかに取り組んできました。

過去2年間、UNDPガーナ事務所でResource Mobilisation Advisorとして勤務された小俣氏から、このResource Mobilisation戦略の概略をお話しいただきました。

■議事録

現在、講師は、ロンドン大学東洋アフリカ研究院(SOAS)博士課程に在籍している。2005 年から2007 年の間に、United Nations Development Programme (UNDP)ガーナ事務所にコンサルタントとして勤務した。

従って、今回の講演会では、その間の仕事(ARMADA Initiative: Resource Mobilisation Strategy、以下、アルマダプロジェクトと呼ぶ)が主題となった。このプロジェクトは、サハラ以南のアフリカが対象であり、UNDP 本部のアフリカ局が主導しているもので、2003 年に開始された。プロジェクトの柱はリソースモビリゼーションとデリバリーの二本である。まずリソースとはお金、つまりファンドのことを示すが、UNDP は、お金だけに絞らず、研究調査も含んだ幅広い定義を採用している。

OXFAM の研究調査もUNDP はもらったりするが、今日の話ではリソースはファンドのことを意味すると考えて欲しい。そしてそれをモビライズするということは、外部からお金を取ってくるということである。お金の仕組みは後述する。

UNDP 本部のマネージメントはコンサルタント、United Nations Volunteers(UNV)など5、6 人で構成されている。そのメンバーは、プライベートセクター出身で構成されており、プロジェクトの実施をするデリバリーは、弁護士、ロジスティック、ファイナンスで構成されている。

リソースを外部から持ってくるのは柱の一本目、そしてそれに基づきプロジェクトを実施に移すのはデリバリーである。これはアフリカのみで行っていることで、他の地域ではやっていない。通常UNDP には、貧困削減、環境系のプロジェクトのイメージがあると思う。Websiteにおいてもリソースに関する話は出てこない。しかしリソースの仕事はKey Areas すべてに関わり協力して働く。

例えば、貧しく、インターネットへのアクセスがないところにIT センターを作って情報へのアクセスへの仕組みを作るICT for Development プロジェクト、小型武器回収、海事産業を通じたガーナの若年層雇用の促進、シアバターの産業強化プロジェクト(日本政府支援)、鳥インフルエンザ対策、パリ宣言関連、韓国との南南協力推進プロジェクトなど、これまでに挙げたすべてのプロジェクトは外部から得たお金で行われたプロジェクトである。皆さんが持つUNDP へのイメージと違うと思うがご理解を頂きたい。

このプレゼンテーションでは、以下四つの点についてお話しする。一点目は、なぜこういう仕事が生まれたのか。この仕事はここ5、6 年で生まれた新しい仕事なので、UNDPでの位置付けについて述べる。二点目は、時代の変化に対するUNDP の反応について、三点目は、RMADA Initiative の詳細について、そして最後四点目にこのプロジェクトの意義についてお話したい。

まずは最初のパートであるが、このような仕事が生まれた背景には外部環境の変化が挙げられる。UNDP に限らず他の機関もこのような問題に直面している。

外部環境の変化と現状には二点注目すべきことがある。まず一点目は、お金の流れの変化がある。マクロのお金の流れについて、地域事務所で共有されていないことが多いので、コンサルタントとして説明することが大切になってくる。

二点目は、UNDP が抱える課題に関してである。開発業界の目標、それはMillennium Development Goals (MDG)に収斂される。この目標から外れるようなことはやらないことになっており、UNDP はMDG のプロモーターでもある。

まずは、一点目のお金の流れの変化について2003 年時点の情報を基にお話したい。アフリカへの援助はブームであり、前小泉首相がアフリカへのODA を増やすと宣言したことからも分かるように、お金は入ってきやすい状況にある。しかし資料を見る限り、短期的には金額は増えているが、長期的にはそれが望めないことが分かる。その予想では、ODA に関して言えば、2010 年以降は減って来ている。

なぜであろうか?

これは自国の安全管理にお金を使用したり、援助分野でのプレーヤーが増加していることに起因しており、実際NGO へお金が流れたりしている。それではどんなお金が増えているのか。Debt relief (債務免除) などである。これまではドナーがUNDP にお金を出してくれたが、現在はソースが多様化している。UNDP の予算は、ドナーから直接受け取るお金からなるコアとdebt reliefなどから構成されるノンコアから成り立っている。80 年代はコアの割合が9 割を占めていたが、2003 年にノンコアがコアを上回り(2003 年時点でコアは25%、残りは75%)、現在ではノンコアが大部分を占めている。

また最近の流れとして、Aid coordination (援助協調) やDebt relief (債務免除) が増え、それと同時にUNDP、またはUN 全体のname value が高くなくなっているため、昔は国連という名前だけで予算が集まったが、現在は他にお金が流れてしまう傾向になっている。したがって、割合としてコアの縮小が今後も見られるであろう。

ここから果たして何が言えるだろうか。

対アフリカのODA は短期的には増えているが長期的には期待出来ないということ、また新しい形態のファンドが増え、コアは予算の中で大部分を占めなくなったということが言える。

コア・ノンコアに関して、その変化を全世界的な話として述べてきたが、地域別にノンコアを見てみると、ラテンアメリカが断トツでノンコアを取っているのが分かる。それに対して、アフリカ局は一番コア獲得率は少ない。2004 年の情報によれば、アフリカはコア頼りのリソース確保になっており、ノンコアの資金を取れていないということが分かる。

お金の流れの他に大切なのは2015 年期限であるMDG である。UNDP のMDGへの予想として、アジアに関しては、カンボジア、バングラデッシュの目標達成は厳しいかもしれないが、概ね達成可能だろう、ラテンアメリカも大丈夫かもしれない、そして中東はコンテクストが違っているので除くとして、アフリカは達成が厳しいだろうという考えがある。むしろ達成とは反対に数値が悪くなるものもあるだろうと見込んでいる。

MDGは試金石であり、どのくらい到達出来るかということは非常に重要な問題である。これまでUN へ与えられた資金は果たしてどこにいったのか。これからUN に対し資金を提供する価値があるのか。UNDP はMDG 達成のためにプロモーターとしての役割を担い、そのような位置づけとして動いてきたので、MDG が達成されるかどうかは非常に重要な問題なのである。

それではこのようなコア・ノンコア予算の比率の変化に関するお金の問題、達成すべきMDG のアフリカでの進捗への遅れの懸念に対し、UNDP はどのように対応しているのだろうか。

このような背景でUNDP の対応策として生まれたのがアルマダプロジェクトである。このプロジェクトの二点の柱は、リソースを確保すること(Resource mobilisation)そしてそれをもとにプロジェクトに転化する(implementation)ということである。資金を得たが、プロジェクトに転化

されることがない限り、MDG の達成は難しいであろう。ガーナの戦略として、まず誰がプレーヤーかを見極めることが大切であり、それは世界銀行、アフリカ開発銀行、DFiD、オランダ政府などである。

UNDP の価値としては、中立性がある。UNDP は選挙などのセンシティブな問題に関して入りやすいので、UNDP に頼まれることが多い。カントリーオフィスのスタッフはこのようなUNDP の持つ中立性、透明性などの強みに関して把握していないことが多いので、コンサルタントはこの点のスタッフの理解の把握をサポートしている。

またService Delivery に関しての能力も強化しなければならない。しかし、プロジェクトを行う一連の流れの中で多くの障害が生まれる。

例えば、コンゴで選挙を支援した際、投票箱、数えることの出来るそして証拠として残せる質の高い用紙、移動手段(車、50台を調達)など用意しなければならなかったが、政府は出来ないことも多いので、UNDPがサポートした。しかしこれは容易なことではないので実行出来ないこともあるが、それを出来るように能力を強化する必要がある。

このアルマダプロジェクトの目標としては、UNDP=ドナーから資金をもらってプロジェクトを実施する機関というイメージを払拭することである。ノンコアの予算が大半を占める傾向にあるこの時代には、働きかけなしでは資金が集まらなくなって来ているので、サービスprovider 機関としてのUNDP を売り込みたい。

プロジェクトの肝としては、サービスセンターの働きがある。プロジェクトの実施を、法律、ファイナンス、物資の調達の三つの分野の専門家が集まる実行部隊チーム(service centre)に任せる。プロジェクトの実施をスピードアップさせるというのがこのプロジェクトの要になっている。

最後に大切なメッセージとして、コストシェアリングがある。UNDP はサービスプロバイダーとしての手数料をもらう。プロジェクトのコンセプトから始まり、調達物資に至るまで、UNDP が全部やる。政府が本来実行するはずなのだが、スピーディーに出来ない場合があるのでUNDP が代行する。従って手数料をもらう。ここではUNDP が営利機関ではないため、fee という言葉を使うことが出来ないが、その手数料を調達しないとUNDP が作動しない。というのもUNDP が提供するサービスは、専門家が提供するものなので、それに伴うコストを徴収する必要がある。

ではどのようにコストを徴収するのか。GMS という方法がある。何から何までUNDPで全部やるので、5-7%徴収し、その半分がカントリーオフィスに、残りの半分が本部に入ることになる。

UNDP が費用回収に動き出したのも、新しいビジネスモデルで金儲けしたいとい訳ではない。この努力は、UNDP としての活動の拡大、UNDP の価値付加(value addition)および地位向上にも役立つ。カントリーオフィスの収入になり、人件費がカバー出来る。プロジェクトも増やせ、またスタッフも雇うことが出来る。そして最終的には2015 年のMDG の達成に貢献することが出来る。

従ってこれまで、UNDP 予算のコア・ノンコアの割合の変化、MDG、アルマダプロジェクトについて説明して来たが、実行していく上で、UNDP 内部の問題が一番大きい問題として挙げられる。新しいことを掲げているものの、内部の能力が足りず問題となっている。カントリーオフィスは人員不足で、新しくスタッフを雇用しても、当人が何をしていいか分からない、トレーニングされていない、ファイナンスの部署にいてもアトラスの使い方が分からないなどの問題がある。

しかしUNDP は待っているだけでははや資金を獲得できなくなっているため、今までの仕事のやり方ではクライアントの要求・期待に応えることが出来ない。従って新しいタイプのビジネスモデルに対応できる人材が求められている。

<質疑応答>

質問1:どのような調査によって獲得出来る資金がどこにあるのかを知るのか?

どのようにアプローチするのか?

回答1:特別な方法はあまりなく、ガーナにおいては、様々な機関のサイトをチェック、その機関の受付に行き資料をもらいfocus area、approach などをチェックする。それをエクセルに落とし込むことにより、誰がどのくらい資金を持っていて、どの分野にそれを使いたいのかを大体把握出来る。実行能力が乏しい機関が多いので、その機関が必要としているサービスを把握した上で、プレゼンテーションをする。このように意図を持った上でプレゼンテーションをし、うまくいけば資金を調達出来る。(例えばDFID からは小型武器回収に関する資金を調達。)Fund Raising とは違う。UNICEF はname value がUN の中で一番なので、資金を収集し易いがUNDP は違う。

質問2:

①国連改革UN One それが背景にあるのか?

②UNDP はサービスプロバイダーといっていたが、テクニカルアシスタンスに関してはどうか?

回答2:

①ある。それに向けてやっているはず。このプロジェクトに関しては、直接は関連しないのではないか。なぜならば他の機関ではやっていないことであり、強みが少ないところが吸収されてしまうと思うが、このプロジェクトはNDP の強みであり、UNDP にValue addition をするものである。

②UNDP が自分でプロジェクトを実施する場合と、パートナーを使用する場合がある。プロジェクトの契約まで行い、後の作業をパートナーに渡す。現場の実施はパートナーに任せるが、UNDPはその後も関与する。

質問3:UNDP がやっているという通関、shipping などのロジスティックは日本では通常、商社がやっていると思うが、UNDP はそれをアウトソーシングするのではなく自分でやる仕組みになっているのか?

回答3:ガーナはすべて自前でやっていた。というのも、六、七十人スタッフがいて人数が結構いるかなり大きい事務所。operation の人を雇っている。選挙などの大規模のプロジェクトは外に出すのかもしれないが。

質問4:

①世界銀行との関係の話で世界銀行はクライアントであるという話があったが、世界銀行とUNDP の関係、棲み分けはどうなっているのか?

②UNDP の場合は、中立性の観点で何か問題はあるか?UNCTADは、途上国の意向が強く反映されたりするが、UNDP はどうか?

回答4:

①世界銀行は独自性の強い機関で、難しいパートナー。ボス間の人間関係がとても良かったおかげでうまくいった。世界銀行は、ローンは出せるがオペレーションのサービスは一切行わない。

② オフィスで働いているスタッフのトップはinternational staffだが、後は主にガーナ人である。代表(セネガル人)、副代表(フランス人、パキスタン人)はpermanent staff で、その下にunit の代表(すべてガーナ人)がいる。通常はunitの代表も外国人の場合が多いが、ガーナの場合はその国を反映する傾向にあるのかもしれない。