6回キャリアインタビュー 辻本峻平

インタビュアー:伴場森一(LSE

 

キャリアインタビュー第6回は、国際NGOアドラ・ジャパン(ADRA Japan)でエチオピア現地統括として勤務されている辻本峻平さんです。日本の一般社団法人で勤務された後、Durham Universityへ進学し、平和構築について学びました。修了後、現在のポストで勤められております。

現在のお仕事、経歴について

伴場:今のNGOの仕事の内容について教えてください。

辻本:今はエチオピアの現地統括として勤務しています。今現在、私は日本で事業の準備をしておりますが、最近までは、エチオピア北部のアムハラ州で紛争被災者支援をしていました。アムハラ州は現在、紛争地帯になっており、アディス・アベバから現地スタッフと連絡しつつ、事業の進捗管理などをしていました。その前は、ガンベラのプロジェクトマネージャーとしてガンベラとアディス・アベバを行き来していました。そこでは南スーダン難民の支援をしていました。また、プロマネ以外にも業務としては、事業の計画、助成金申請などがあります。

ガンベラのクレ難民キャンプにて

             

伴場:エチオピアで働くうえで特に大変なことは何ですか。

辻本:紛争がよく起きるので事業が計画通り進まないのが大変なことですね。例えば、2021年11月当時、TPLFという武装勢力が首都アディス・アベバまで来そうになったことがありました。そのとき、政府が緊急事態宣言を出し、外国人の多くは国外に避難しました。首都アディス・アベバが紛争地になるかもしれなかったので、大変でした。他にも、ガンベラは民族対立があるので、誰かが殺害された際、加害者と被害者の所属する民族次第では報復も起きかねず、スタッフの安全のため活動を中断することもありました。また、私は幸い日本にいたのですが、2022年も2023年も街の中で大規模な銃撃戦が起きた際は、スタッフが外を出歩けなくなりました。また、アムハラ州では、紛争で治安が悪化し、州内で緊急事態宣言が出ていました。ネットが動かず、現地のスタッフとの連絡が取りにくく、事業が計画通りに進まないこともありました。支援をしようとしているのに、支援を届けられないという治安の悪さがエチオピアで働くうえでの困難なことです。

伴場:それに対処するには、安全管理マニュアルを作成して、事態を想定して活動するということが考えられますが、ほかにもしていたことはありましたか。

辻本:そうですね。ほかには、ADRA Ethiopiaのディレクターやセキュリティ管理の者と協議し、一番安全な方策を検討したり、私たちだけではなく、国連や他のNGOもいるので、そのようなネットワークに参加して情報を得たりします。

伴場:NGOだからこそ、活動しやすい/しにくいと考えたことはありますか。

辻本:NGOの良いところは現場に近い点だと思います。現場に近いというのは、より裨益者に寄り添った支援をしやすい立場にあるということだと思います。国連等は国際スタッフの場合、現場からの距離ができてしまう傾向にあると思いますが、NGOの場合、国際スタッフも現地スタッフとともに現場に赴き、事業を計画し、実行することができる点が強みだと考えられます。弱みとしては、規模の小さいことだと思います。国連やJICAは予算規模が大きく、インフラ関係等できることも多いですが、NGOは多くてもせいぜい年間1億円という規模なので、どうしても裨益者が限られます。例えば、緊急支援の際、緊急食糧支援を必要としている人が100万人いるのに、予算の都合上、20万人(たった20%)までしか食料を供与できないということがあり得ます。このように、限られた資金の中で活動しないといけないという制約が特にNGOは大きいように思います。

伴場:現在お仕事をされていような国際協力に興味をもったきっかけは何ですか。

辻本:高校生のとき、国連職員であった明石康氏の方が書いた本『国際連合-軌跡と展望』で国際協力の分野を意識し始めました。また、大学進学後、国際学部にて、政治学・社会学をメインに学び、この頃からNGOや国連を意識し始めていました。

伴場:大学ご卒業後のファーストキャリアについて教えてください。

辻本:港湾業界の検査員という仕事で、沖合の船や港に赴き輸出入貨物の数量や品質に関する調査をし、レポートを発行する仕事をしていました。

アムハラ州北ウォロ県にて

大学院について

伴場:そのようなお仕事を経て、Durhamの平和構築コースに行った理由は何ですか。

辻本:大学の頃から平和構築に関心がありました。新卒で上記のところで働いていたのは、社会人経験を積むのとお金を貯めるのが大きな目的で、十分な資金が貯まったので、大学院留学をすることにしました。

伴場:留学先をDurhamにした理由は何ですか。

辻本:大学の先生が理由です。平和構築には色々なアプローチがありますが、自分は「ローカル」に焦点をあてたいと考えていました。興味のある大学の先生を探した結果、Durhamにいることがわかりました。もう一人、某大学にも興味のある先生がいましたが、その方もDurhamに移ったので、自分にとってDurhamしかないと考えました。Durham以外の大学院にも出願しましたが、そこまで気になる先生はいなかったので、優先順位としては低かったです。

伴場:大学院での具体的な学びを教えてください。

辻本:ローカルに興味があったので、それをキーワードに学んでいました。例えば、ローカルとは何なのかということ、それに付随するリベラルピース、ハイブリッドピース、エブリデイピース等の理論を学びました。平和構築は伝統的には国際関係論から派生しているのですが、アメリカをはじめとする西側諸国が特定の紛争国に平和をもたらすため、民主化させたり法の統治をさせたりしたのですが、そのようなアプローチがうまくいっていないと批判されるようになりました。それと同時に、囃し立てられるようになった言葉が「ローカル」であり、紛争のコンテクストや現地の文化などを分析し、それに沿った平和構築を行うという考えが注目され始めました。

平和構築分野について

伴場:大学院の学びを今のお仕事で生かせられているケースがあれば、教えてください。

辻本:今は難民に関わる仕事をしていますので、大学院での学びは前提知識として役立っていると思います。また、今新しく事業を始めようとしており、一部の内容が大学院での学びに直結しています。業務の中で、「今この理論に該当するな」と思うこともあり、体系的な知識が役立っていると思います。

伴場:その他、現場の中で応用できそうな平和構築の考えを教えてください。

辻本:私がイメージしがちな平和構築は開発寄りの内容ですが、クロスカッティングな分野なので、何でも当てはめようと思えば可能な分野ではあると思います。例えば、人道支援の中で平和構築を考えるのであれば、難民キャンプの中での治安を守るためにどうするか考えるかに応用できると思います。クラン、民族、コミュニティ間で争いが起きることもあるので、トラディショナル・コンフリクト・レゾリューション・メカニズム(伝統的紛争解決の仕組み)なるものを活用して、いかに難民キャンプ内の平和を守るのかを議論することもできると思います。

最後に

伴場:最後に、この記事を読んでいる方々へのメッセージをお願いします。

辻本:何を成し遂げたわけでもないので偉そうなことは全く言えないのですが、本当に平和構築や人道支援等の分野に興味があるのなら、こうありたいと気持ちを持ち、そのためにやるべきことを継続するが大事なのかなと思います。国際協力業界を1度でも志したことがある人は少なからずいるのではと思うのですが、結局今の自分を振り返ると、継続したか、しなかったかの違いでしかないように思うことがあります。自分なりにこれからも歩き続けたいです。