第1回キャリアインタビュー 古本秀彦様

インタビュアー:安達正之介(サセックス大学)

岸田和香(エセックス大学)

柳澤ちさと(サセックス大学)

キャリアインタビュー第1回目は、JICA(国際協力機構)上級パートナーシップ専門官の古本秀彦様です。UNHCR(国連難民高等弁務官)から出向され、現在は両機関の連携の促進に努められていらっしゃいます。ウガンダ、イエメン、イラン等様々なフィールドで、紛争に影響を受けた国への支援に携わっていた経歴をお持ちです。また、英国サセックス大学にて修士号を取得されていらっしゃいます。

現在のお仕事、経歴について

  安達:現在のお仕事の内容について教えて下さい。

  古本:現在はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の職員として、JICA(国際協力機構)に上級パートナーシップ専門官として出向中です。企画部国際援助協調企画室とガバナンス・平和構築部平和構築室の二つに所属しており、業務の内容としてはUNHCRJICAの連携をポリシーレベル、そしてプロジェクトレベル双方から促進しています。ポリシーレベルでは両機関のハイレベルミーティングのアレンジ検討、またプロジェクトレベルではアフリカやアジア等における両機関連携の取り組みを整理しつつ、新しい連携の可能性を探っています。

そしてUNHCRJICAの連携という枠にとらわれず、より広く国際機関とJICAの連携の促進にも携わっています。例えば、平和構築室として世界銀行、UNDP(国連開発計画)と連携の可能性について協議の場を設けつつ、可能な取り組みについて検討を進めています。

個別のプロジェクトに関しては、現在はザンビアにおける元難民の現地統合支援プロジェクトに携わっています。UNDPとザンビア政府によるプログラムを支援する形でJICAのプロジェクトを担当し、開発コンサルタントの方との調整、プロジェクトの進捗、予算管理、支払い、契約管理等も含めて行っています。

最後に、難民・国内避難民支援という側面から広報にも取り組んでおり、JICA地球ひろばで難民関係のセミナーを企画、また大学の講義にてJICAと国際機関の連携について紹介等を行っています。

  安達:色々と幅広く業務を担当されているのですね。イギリスの大学院を卒業後、NGOからキャリアをスタートされたと伺いましたが、具体的にどのような業務をされてきましたか。

  古本:おっしゃる通り、NGOからキャリアをスタートしました。大学院卒業後、あるNGOに声をかけて頂き、スリランカの事務所にて平和構築のプロジェクトを担当し、その後東京本部ではスリランカの地雷除去等のプロジェクトやカンボジアの小型武器回収プロジェクトを担当しました。当時は、平和構築が国際協力における分野として広く認識され始めた時期だったと思います。JICAにおいても平和構築支援室が設置されたタイミングでした。NGOに勤務している際、JICAのジュニア専門員に応募、平和構築分野で採用されJICAでの勤務を始めました。平和構築支援室では、平和構築に関する方針やツールの策定に関わる機会を得たほか、またアフガニスタンにおけるJICAの平和構築支援のレビューや、キルギス共和国の選挙支援に携わったりもしました。

一年半本部でお世話になった後、ウガンダへ北部復興支援担当の企画調査員として派遣されました。当時ウガンダ北部は神の抵抗軍(LRA)が撤退、100万人以上と言われていたIDP(国内避難民)が帰還を始める時期で、JICAウガンダ事務所における最初の北部復興支援担当としての役割が与えられました。派遣された時期、治安上の理由からJICA関係者は北部地域に行くことはできず、担当でありながら現場に行けないというジレンマを抱えながらも、北部復興支援方針の検討、提案、現地調査等を行いました。同時に、JICAのコメ栽培の専門家と一緒に、難民へコメ栽培技術の指導をする研修を小規模で開始しました。JICAUNHCR連携においては昨今、モデルケースの一つとしてウガンダにおけるコメ振興プロジェクトが取り上げられますが、そのプロジェクトのプロトタイプのような取り組みでした。ウガンダの後は東ティモールに派遣され、紛争で破壊された工科大学の支援プロジェクトの再開にも携わりました。

JICAのジュニア専門員としての業務期間中は、当時JICAで平和構築に携わりながらも安全管理の点でなかなか現場に直接行けないもどかしさを感じていました。

ジュニア専門員終了後は、当時の広島大学の先生から平和構築人材育成センター(HPCプログラム)立ち上げのお手伝いについてお誘いを受け、事務局として携わりました。JPO試験にはその当時に合格しました。その後、内閣府国際平和協力本部事務局を通じたネパール制憲議会選挙監視団への参加、JICAシエラレオネへの短期派遣、また1年程の開発コンサルタントとしての業務(人間の安全保障基金の評価)を経験した後、JPOとしてUNHCRに入りました。

こうしたキャリアを通して、私がやってきた仕事は主に紛争に影響を受けた国、またはコンテクストに対する支援の計画、方針策定やプロジェクトの運営管理などでした。そのうえでUNHCRではイラン、イエメンで難民支援や国内避難民支援を行なってきました。

  岸田:JPOとして派遣される際、なぜUNHCRを希望したのですか。

  古本:実はJPOに合格した当初、他の国際機関への派遣を希望していました。諸事情により急遽、希望先機関への派遣が望めなくなり、別の国際機関を考える必要が出てきました。そこで再度、派遣希望先機関を考える際に、大学時代にクロアチアの難民キャンプにボランティアへ行った経験を思い出し、初心に帰ろうと思いUNHCRを選びました。今はUNHCRを選んで良かったと思っています。UNHCRは意思決定、行動が他の機関に比べて早く、そうした点が私の性格に合っているなと思います。


出張先のイラクにて

イギリスの大学院での経験について

  安達:私達と同じように、イギリスで開発学を学ばれたと伺いました。大学院では具体的にどのようなことを学ばれましたか。

  古本:イギリスのサセックス大学で、現代紛争平和学(MA in Contemporary War and Peace Studies)というコースで修士号を取得しました。イギリスの大学院を選んだのは、早く修士号を取りたかったからです。まだ漠然とですが、国際協力というのは修士号が求められることの多い分野であるとの認識もあったと思います。修士号のコースは国際関係論の一部であったので、必修科目では理論について、リベラリズムとリアリズムから始まり、グローバルな政治へと辿り着く、そうしたところをかなり基礎からも学びました。担当教授がジェノサイド研究で有名なMartin Shawという方で、紛争論などは彼の授業で学びました。また興味のあった民主化については東ヨーロピアンスタディーズというコースの授業を取って学びました。コースを通して、特定の偏った見方ではなく、広く世界を多角的に見る視点を得ることができたと思います。

  安達:大学院でのネットワーキングは大事にされていましたか、また何か工夫されていた点はありますか。

古本:同期で国際機関に勤務している友人は何人かいて、これまでに赴任先で人を紹介してもらった事もありました。ネットワーク的なものは非常に大切にして良いと思います。私の場合、大学院時代はあえて国際的なネットワークを作ろうと意識していたというより、一緒にサッカーをしたり、パーティーに参加したりする事で友人ができ、それが結果として後々ネットワークとして活きてくるということもあったのかなと思います。また仕事を始めてから、特に20代のころはネットワーキングをかなり意識するようになり、同業の多くの組織に知り合いができました。それがメリットになったことは確かにありました。特に職を転々としていくこの業界では、多くの組織に知り合いがいるということは仕事のやりやすさにも繋がってくると思います。また、次の仕事を探すときにも活きてくるところがあるかも知れません。しかし、今振り返ってみると、本当に意味のある繋がりは、特にネットワーキングなど意識せず、自分の仕事を誠実にやっていくなかで自然とできてくるものかなと感じています。

  安達:大学院時代の就職活動について教えて下さい。

  古本:正直に言いますと、大学生の頃から就職活動というものが苦手でした。大学生の時も、就職活動をしっかりとせずに気が付いたら4年生の半ばになり、研究が好きであったというのもあって、大学院への進学を選んだ側面もあります。大学院時代も、外務省の専門調査員に応募したりはしましたが、就職についてはのんびりしていました。どちらかというと大学院生としての生活、授業や論文に取り組むということがメインであったように思います。そして、たまたま大学院進学前にセミナーに参加していた日本のNGOの担当者から大学院修了の少し前に連絡があり、スリランカ事務所で人手が必要というお誘いを受けてNGOでキャリアを始めました。


イギリス大学院留学中の一枚

JPOについて

  安達:JPO制度を利用して国際機関でのキャリアを始められたと伺いました。JPO試験に関して、工夫されたこと等ありましたら教えて下さい。

  古本:JPO試験に関して大事なのは、書類の書き方+経験であると思います。私の場合、二回目の受験で合格しました。今思うと、一回目は海外経験と業務経験をアピールできるくらいのバックグラウンドを持つことが出来ていなかったように感じます。また、書類でアピールしたいと思う点が明確ではなかったのだと思います。結果として今までの経験を整理して申し込み書類に落とし込むことが出来ずに応募してしまったと思います。一方、二回目は自分の強みや、それを実際の経験につなげてアピールすることがうまく出来たのだと思います。時々JPOを目指している方からのご相談で、応募書類を見せてもらうことがありますが、やはり人によってはアピールが足りない部分を感じることがあります。自分はこういう経験があるから、こういう風に国際協力に貢献できると思います、といったように、上手く経験を整理してアピールするストーリー作りが大事になります。また、面接についてはとにかく練習かも知れません。私の場合、他のJPO受験生や知り合いをつかまえて、想定質問を作り、また過去のJPO受験生の方にどんな質問を受けたのかも聞き、何回も練習をした覚えがあります。

  安達:なるほど、非常に参考になります。学生のうちに身に付けるべきスキル、経験等ありましたら教えて下さい。

  古本:パソコンスキルの基礎は非常に大事で、身に付けるべきだと思います。単純な話ですが、例えばエクセルやワードの使い方などに関しても、海外の現場で働いていると、意外と基礎しか知らない人は多いです。なので、少しでも機能をしっかり使いこなせていると、それだけで仕事の能率に大きく差をつけることができ、自分の付加価値を簡単に上げることが出来ると思います。日本人としてもアピールしやすいポイントかも知れません。

語学力に関しては、私は英語以外の語学の基礎だけでも身に付けておくことをおすすめします。UNHCRでは特に、国連公用語を二つできないと、これ以上昇進できないというタイミングが来ます。今、私はそのタイミングに来ています。若いうちから少しでも基礎を身に付けている方が、その点では有利だと思います。

最後に経験に関して、一度途上国に行って、そこでの生活に触れてみることをお勧めします。別にひどいところに行って苦しんでと言っているわけではなくて、国際協力に携わりたいといっても、現場で生活や人とのコミュニケーションにアジャストできない方は時々いると思っています。自分の適性、例えば水道や電気がないところでもやっていける現場型の人間か、または少し現場からは離れた場所で働いた方が自分らしく働ける人間か、そうしたことを見極めるという点で、途上国に触れてみるのはいいと思います。また同時に、耐性を挙げておくということもあるかもしれません。例えば、私は大学生時代に旧ユーゴスラビアでボランティア活動をしていましたが、当時ボスニアでは水道が限られた時間しか使えず、そうした経験は後で同じような経験をしたときに心の準備という意味で役立ったかなと思います。

  岸田:英語以外の語学力に関して、今から選ぶとしたらどの言語がいいかアドバイスはありますか。

  古本:自分が学びやすい言語でいいと思います。例えばフランス語、スペイン語等なら国際協力ではより仕事に困りにくい状況になると思いますが、語学を二つ習得するのは現実として結構難しいとも思います。自分が触れてみて、取り組みやすい言葉がいいのかなと思います。また、それぞれの国に行ったときに現地語を学ぶ姿勢を持つことは大事です。「何々が欲しい」や「どこに行きたい」といったことが言えるようになる、そういうプロセスを通じて現地の方と仲良くなるっていうことは大事だと思いますので。

平和構築・難民支援という分野について

  安達:紛争後の現場では、どうしても治安上の懸念があると思いますが、現場で働く上でそれに上手く対処する方法などありますでしょうか。

  古本:私にとって、大変だったのはイエメンの仕事でした。ちょうどアラブの春を経て一時期安定していたのですが、赴任中にどんどん状況が悪くなり、離任近くなった最後の頃は防弾車で住居とオフィスを行き来するだけになりました。思い返してみると、特段の対処が個人ベースであるというわけではなく、セキュリティートレーニング等で学んだ基本的な対処方法やルール、これらをひたすらに守って行動する、これに尽きるのではないかと思います。もう一つは余計なことをあまり考えないことだと思います。当時、援助機関職員の誘拐も多発しました。治安状況の悪化から、見えないものに対する恐怖が生まれ、そうした恐怖心を自分の中で育てすぎると精神的に参ってしまいます。辞めていかれた方もいました。ルールを淡々と守り、余計なことは考えないということが大切なのではないかと思います。


  安達:平和構築・難民支援の分野において、日本はどのようなアプローチが取れるでしょうか。

  古本:日本としては、今まで国際社会にいくつか新たなアプローチを提唱してきたと思います。人間の安全保障がその最たるものと思います。また、人道と開発のネクサスは、2016年の世界人道サミットの際に日本がリードを取って打ち出したものであると思います。このような理念・アプローチが国際社会の中で取り上げられるようになってきたことは、日本の大きな成果であると思っています。こうした理念やアプローチを国際的な枠組みに作り上げていくプロセスで、日本が更にリーダーシップを取っていくと良いと思っています。

  安達:Covid-19の影響により各国が国境を封鎖していく中で、UNHCRが各国政府に難民受け入れの手続きは止めないよう働きかけをしていると伺いましたが、現在のCovid-19に関連した難民支援の課題について教えて下さい。

  古本:難民支援のみに限らず、脆弱層がより困難な状況に置かれるということが大きな課題であると考えています。物流が停止してモノが入ってこなくなる、仕事がなくなる、公共サービスへのアクセスが難しくなる、といった様々なインパクトがあります。UNHCRの対応でも、このような課題に対処するべく、単にモノを配布するだけでなく、職を失った人に対して現金の給付支援を行ったり、公共サービスを維持するためにヘルスクリニックへのサポートを実施したりしています。


最後に一言

  安達:本日は、具体的にお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。最後に国際開発でのキャリアを考えている方へのメッセージをお願い致します。

  古本:私自身のキャリアは、様々なステップを経ており履歴書に書くと非常に長くなります。そうした経験から思うことですが、あまり具体的にこの専門性、このキャリア、ということにこだわり過ぎなくてもいいかも知れません。ある程度、自分自身の中で方向性を持ち続けていけば、ジグザグなキャリアステップになっても希望のキャリアに近づいていけるのではないかと感じています。出てきたチャンスを一つ一つ掴んでいく、そういったやり方でもいいのかも知れません。もう一点ですが、動機を素直に大事にすることが大切だと思っています。人によって、利益よりも人の役に立ちたい、援助に携わりたい、動機は色々とあると思います。私の場合、正直な気持ちとしては、この仕事が面白いと思っていることが大きいです。自分の知らなかった場所に行ける、わくわくできる、そうしたことも私にとっては大事な動機です。国際協力の分野は、外務省やJICA等に正職員として入るのではない場合、転々と職を変えながらステップアップしていくことも多いと思います。時には現場での仕事と生活に心が疲れることもありますだからこそ、何が動機かを理解していることが大切になるのかなと思います。