第1回:COP27と開発問題について

導入

 近年、気候変動は世界的に注目されている。特に本年はパンデミックの最中だった2020年、2021年に比べて経済活動が活発になり、またウクライナ戦争等も重なったことで、本年の温室効果ガスの排出はパンデミック前の2019年を超える見通しである(Friedlingstein et al., 2022)。気候変動の影響で、2030年までに追加で1億3200万人が貧困状態になると言われており、その多くが女性や少女などの社会的弱者である(The University of Cambridge Institute for Sustainability Leadership, 2022)。国連が定める開発目標SDGsでも、SDG1で貧困の撲滅が掲げられており(United Nations, n.d.)、開発学の観点からも、気候変動の影響は無視できないのである。以上の様な問題を世界的に議論するため、本年も11月6日~11月20日に国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)がエジプトで開かれた。エジプトが位置するアフリカは、気候変動と異常気象の影響を大きく受けており(The University of Cambridge Institute for Sustainability Leadership, 2022)、その地でCOPが開かれたことは、意義としても大きい。執筆者は現在、英サセックス大学のSustainable Developmentにて修士号取得を目指しており、持続可能な開発とは何か、そして科学技術・イノベーション政策がどのようにそれに貢献できるかを学んでいる。そこで、本稿ではこの気候変動と持続可能な開発への関係性を、私の現在までの学びを踏まえて考察する。

 

CPO27振り返り

 最初にCOP27を簡単に振り返る。日本政府代表団(2022)によると、交渉の結果は以下の八項目にまとめることができる。

1. COP・CMA 全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」

2. 緩和

3. パリ協定第6条(市場メカニズム)、CDM(クリーン開発メカニズム)

4. 適応

5. ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失及び損害)

6. 気候資金

7. グローバル・ストックテイク(GST)

8. その他

全体的には、気候変動対策の各分野における取組の強化を求めるCOP27 全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」と、2030 年までの緩和の野心と実施を向上するための「緩和作業計画」(日本政府代表団, 2022)が採択されたことが大きな流れだった。その流れで、ロス&ダメージやそれに付随する気候基金の採択が行われた。本稿では、開発学でも強調されることが大きい発展途上国(Mönks et al., 2017)に対する影響が大きい(UNFCCC, n.d.)、5項目目のロス&ダメージに焦点を当てて、開発学と気候変動の関係性を考える。

ロス&ダメージ 

 このロス&ダメージとは、気候変動が引き起こしたと考えられる損失や被害(損害)に対処することを目指した概念で、国際政治の議論の場で用いられているものである(Dorkenoo et al., 2022)。特に、本年2022年はパキスタンの洪水に代表されるような自然災害が多く発生し、図1が示す通り、 Google Trendでも、近年上昇トレンドとなり、人々の関心が向上していることがうかがえる。


(図1:“ロス&ダメージ”の検索動向., Google Trendを基に筆者作成)

また、国別の関心では、図2の通り、ケニヤやバングラディシュ等の途上国が上位に来ており、ロス&ダメージが途上国においてより多く検索され、大きな関心を集めていることがうかがえる。

(図2:“ロス&ダメージ”の検索上位国., Google Trendを基に筆者作成)

加えて、ロス&ダメージではその不均衡性も問題視されている。学術研究の領域では環境(特に気候)と人間社会の関係性、さらには開発と不平等の関係性が重視されている(Dorkenoo et al., 2022)。特に環境負債(climate debt)の文脈で、豊かな先進工業国が、低所得で政治的・文化的に疎外されることが多い発展途上国から資源を略奪し、彼らが土地、海、大気などの環境空間を不当に占拠していることに起因する不均衡を研究する(Boyd et al., 2021)。そういった不均衡が原因で、パキスタンの洪水の際に見られたように、途上国で大きな自然災害が発生した場合には、自国だけの復興が難しい場合も多くなる。そのため、発展途上国へのロス&ダメージに対処するために、国際協力や先進国からの支援がより必要となっている。開発学の中では途上国の災害対策や復興も大きなテーマとなるが、このロス&ダメージはそれに大きく関わる概念なのである。

 COP27では、ロス&ダメージへの対策として、ロス&ダメージ基金(仮称)の設置が決定され、この資金面での運用に関してCOP28 に向けて勧告を作成するための移行委員会の設置が決定された(日本政府代表団, 2022)。今後もこのロス&ダメージに関しては、国際政治の議題に多く上ることが予想され、開発学の観点からもその動向には注目が集まる。

まとめ

 本稿では、COP27と開発学の関係を議論してきた。気候変動自体が、貧困や不平等を拡大していく中で、今回のCOPで注目されたロス&ダメージという概念に注目し、途上国の関心の高さとその影響、そしてCOP27が掲げた対策を紹介した。本稿で述べてきた通り、COP27で議論される内容は、開発学にとっても重要なものが多く、来年以降のCOPにも引き続き注目をしていきたい。

参考文献

Boyd, E., Chaffin, B. C., Dorkenoo, K., Jackson, G., Harrington, L., N’Guetta, A., Johansson, E. L., Nordlander, L., Rosa, S. P. D., Raju, E., Scown, M., Soo, J., & Stuart-Smith, R. (2021). Loss and damage from climate change: A new climate justice agenda. One Earth, 4(10), 1365–1370. https://doi.org/10.1016/j.oneear.2021.09.015

Dorkenoo, K., Scown, M., & Boyd, E. (2022). A critical review of disproportionality in loss and damage from climate change. WIREs Climate Change, 13(4), e770. https://doi.org/10.1002/wcc.770

Friedlingstein, P., O’Sullivan, M., Jones, M. W., Andrew, R. M., Gregor, L., Hauck, J., Le Quéré, C., Luijkx, I. T., Olsen, A., Peters, G. P., Peters, W., Pongratz, J., Schwingshackl, C., Sitch, S., Canadell, J. G., Ciais, P., Jackson, R. B., Alin, S. R., Alkama, R., … Zheng, B. (2022). Global Carbon Budget 2022. Earth System Science Data, 14(11), 4811–4900. https://doi.org/10.5194/essd-14-4811-2022

Mönks, J., Carbonnier, G., Mellet, A., & de Haan, L. (2017). Towards a Renewed Vision of Development Studies. International Development Policy | Revue Internationale de Politique de Développement, 8.1, Article 8.1. https://doi.org/10.4000/poldev.2393

The University of Cambridge Institute for Sustainability Leadership. (2022). COP27 Briefing Delivering for people, nature and climate. https://www.cisl.cam.ac.uk/files/cisl_cop27_briefing_sheet.pdf

UNFCCC. (n.d.). Introduction to loss and damage | UNFCCC. Retrieved 4 December 2022, from https://unfccc.int/topics/adaptation-and-resilience/the-big-picture/introduction-to-loss-and-damage

United Nations. (n.d.). Goal 1: End poverty in all its forms everywhere. United Nations Sustainable Development. Retrieved 4 December 2022, from https://www.un.org/sustainabledevelopment/poverty/

日本政府代表団. (2022). 国連気候変動枠組条約第27 回締約国会議(COP27)結果概要.

文責:河村泰志(22-23年度運営)