3回キャリアインタビュー 座談会


インタビュアー:安達正之介(サセックス大学)

和田菜摘(サセックス大学)

キャリアインタビュー第3回目は、異なるキャリアパスを選ばれた3名の方にインタビューをさせて頂きました。それぞれのお仕事を選ばれた経緯や理由、今後の目標などについて座談会形式でお話を伺います。

坂本和樹 様

東京大学教養学部で国際関係論を専攻後、消費財メーカーP&Gのマーケティング部門に入社。3年間のシンガポール勤務を含め、洗剤・柔軟剤ブランドのマーケティング・事業責任者を歴任後、2019年より英国サセックス大学院開発学研究所のGlobalisation, Business and Developmentの修士課程に進学。国際開発における産業政策やインフォーマル経済の雇用問題などを学ぶ。2020年7月より国連世界食糧計画(World Food Programme)東京事務所において、政府連携担当として勤務後、2021年1月より国際協力機構(JICA)に企画調査員として勤務。

津村優磨 様

京都大学大学院(工学研究科 都市地域計画分野)在籍中に参加したJICAのインターンシップをきっかけに、修了後、開発コンサルタント会社の(株)オリエンタルコンサルタンツグローバルに入社。入社後、中米・アフリカ地域を中心に開発途上国の都市・交通計画にかかるプロジェクトを中心に従事。プロジェクトでは、交通調査、交通データ解析・交通需要予測、公共交通計画、現地での各種調整業務などを担当。2019年に渡英し、英国University College LondonにてTransport and City Planningの修士課程を修了。開発途上国における交通インフラと公共交通の果たす社会的役割に関する研究に取り組む。

杉田理沙 様

日本の大学を卒業後、都内の国連系NGOにて資金調達業務に従事。2019年より英国サセックス大学院開発学研究所のPoverty and Developmentの修士課程を修了。2021年4月よりビジネスコンサルティング会社に入社、M&A、事業再生、都市開発、海外インフラ、民間連携、ESG投資といった幅広い案件を行う部署に配属。

現在のお仕事、経歴について

安達:現在のお仕事の内容について教えて下さい。

坂本:現在JICAインドネシア事務所で企画調査員として働いています。業務内容としては大きく分けて以下の三種類の事業の管理・モニタリングです。一つ目は日本の民間企業の途上国進出をJICAのスキームで支援する「民間連携事業」、二つ目は日本のNGOや地方自治体、大学がインドネシアの現地のNGOや地方自治体、大学と連携して現地の開発に関わる活動を支援する「草の根技術協力事業」、三つ目はインドネシアの省庁に日本人の専門家を派遣する「技術協力プロジェクト」です。私は法務人権省特許局や投資省に派遣されている専門家のプロジェクトの担当をしています。双方とも、特許審査の簡易化や外資企業の投資環境の改善といった、日本のビジネスセクターに被益するような形での支援を目指して行っています。

安達:今月からインドネシアに渡航なさるということですが、より現地のアクターと近い距離感でお仕事をするということでしょうか。

坂本:そうですね、そうした形になることを望んでいますが、現状は新型コロナウィルスの影響で、対面での会議をしない形ですので、もうしばらくはオンライン会議などでの業務になると思います。

津村:私も遠隔での現地業務には苦労している部分があるのですが、遠隔で業務を行う上で苦労していること等ありましたら教えて下さい。

坂本:やはり仕事をするうえで本音と建前、どこまで正直に伝えてくれるかというのは国によって異なるなと思っていて、インドネシアは日本と近く、あまり本音を言わない文化だと感じています。例えば日本だと飲み会とか喫煙所での会話、インフォーマルな形での対話が大事であると思います。なので表面上は議論が進んでいても、どこまで本音で話してくれているのかが分からない時に苦労を感じます。

安達:インドネシアを選ばれた経緯はありますでしょうか。

坂本:JICAで現地の事務所で働きたいと考えたときに、前職でシンガポールで働いていた経歴がありましたので、東南アジアを中心に応募していました。その中でインドネシア事務所にご縁があり採用して頂いたという経緯です。

和田:以前は国連WFPにお勤めになさっていましたが、なぜWFPからJICAに移られたのでしょうか。

坂本:WFPの日本事務所だと現場から遠く、一度フィールドで働きたいという思いがありました。最終的にどの国のポジションでも働ける人材になりたいと考えていまして、その中でインドネシアの現地で働くことができる現在のポジションが今後のキャリアに最も適していると考えたのが理由ですね。

安達:ファーストキャリアを辞められて国際開発の分野に進まれていますが、そうした経緯、またファーストキャリアでの経験がどのように現在のお仕事に活かされているか教えて下さい。

坂本:学生時代に就活をしている際は、やりたいことが三つありました。一つ目は経営者になること、二つ目は国際協力に関わること、三つ目は政治家になることでした。順番を考えたときにまずは経営者になり、そして国際協力の分野でキャリアを積み、最終的に日本で政治家になるのがいいかなと考えました。そうしたことを踏まえて、ファーストキャリアとしては外資系メーカーや総合商社に応募し、最終的にPGに入社しました。

民間時代に海外で働いた経験は国際協力の分野でも活きていますが、個人的には先ほど述べた3つは別々の樹だなと考えていて、後々のキャリアでそれぞれの樹を育てていければと考えています。なので必ずしもそれぞれの成果物は交わらなくてもいいのかなと思います。


国連WFP勤務時の一枚

安達:坂本さん、詳しいお話ありがとうございます。それでは津村さん、お話を伺ってもいいでしょうか。

津村:現在の仕事についてですが、開発コンサルティング会社にて、交通計画部という部署に所属しており、開発途上国における都市交通計画にかかるプロジェクトを担当しています。全国や特定の都市圏・都市を対象とした交通インフラの総合計画であるマスタープランの策定プロジェクトを主に担当しています。日本の援助の特徴としてインフラ整備の「上流」から「下流」までの支援を実施する点が挙げられますが、その中で「上流」に当たるプロジェクトになります。「上流」では交通計画や都市計画を担当する専門家が将来の都市の在り方やインフラを計画し、「下流」ではその計画に基づいて設計、施工、そして更に維持管理、という一連の流れがあります。主な専門的な業務内容としては、交通調査と交通需要予測です。交通調査と聞いて良くイメージされるのは交差点等で行われる交通量調査ですが、メインの調査は家庭訪問調査です。何万世帯もの住民の方々に、1日の中でいつどこで何で移動するのかをインタビューし、そこから交通量を計算します。こういった交通調査のデータなどをインプットして、10年後、20年後に交通の需要がどうなるかをパソコン上で再現することで、将来の道路計画や交通計画を策定します。また、プロジェクトの現地での調整業務(業務調整)も担当しています。現地の会計業務や、ローカルスタッフの契約や勤退管理、クライアントや現地機関との書類のやりとり等、プロジェクトマネジメントの補助を担当してきました。


キューバ、ハバナ出張にて

安達:地域は色々と移ることが多いのでしょうか。

津村:これはNGO等との違いだと思いますが、専門分野によるものの1つの地域に長く留まることは比較的少ないという印象を持っています。開発コンサルタントの会社は一般的に専門ごとに部署が分かれていて、「専門」という点では担当分野が大きく変わることはあまりありませんが、「地域」という点では流動的になることが多いです。なので、他地域のプロジェクトを並行して取り組むこともあります。私の場合は中米とアフリカのプロジェクトを担当していて、時差が大変なことになっています(笑)。

安達:なるほど、それは大変ですね(笑)。何故ファーストキャリアとして開発コンサルタントを選ばれたのでしょうか。

津村:ファーストキャリアとして選んだのは、開発途上国の現場の最前線に立つことに興味があったからです。学生時代にJICAのインターンシップに参加して、そこで開発コンサルの方々にお世話になったのですが、プロジェクトの現場に近いところで活動されていて、現地の肌感を持ってプロジェクトを進めることができることが、開発コンサルの醍醐味だという印象を持ちました。その点が印象的で、私に向いているように感じてファーストキャリアとして選びました。開発業界は総合職志望の人が多いかなと考えていますが、個人的にしっかりと専門的な知識を身に付けた上で仕事に取り組みたいなと考えていたことも理由の一つです。


コンゴ民主共和国、キンシャサにて

安達:具体的なお話、ありがとうございます。それでは、杉田さんにもお話を伺いたいと思います。今年の4月よりビジネスコンサルティング会社にご勤務なされていますが、入社を決めた理由や入社までの経緯をお聞かせ下さい。

杉田:4月に新卒採用としてビジネスコンサルティング会社に入社しました。先日配属先が決まり、MAや事業再生、都市開発、海外インフラ、民間連携、ESG投資といった幅広い案件を行う部署に配属になりました。

ビジネスコンサルタントを選択した理由についてですが、民間企業での業務経験を得たかったからというのが理由です。国内の大学を卒業した後、都内で国連系NGOにて働いていました。私が初めて新卒として採用されたという経緯があり、新卒研修のようなものはありませんでした。NGOではイベント等を通じた資金調達に携わっていたのですが、働く中で、本格的に開発学を学びたいという思いが強くなり、イギリスのサセックス大学大学院に進学しました。大学院卒業後はそのまま開発分野に進む選択肢もありましたが、民間企業での業務経験を積んでから開発分野に戻りたいと考え、ビジネスコンサルタントというキャリアを選択しました。


大学院留学中の一枚

和田:なぜファーストキャリアとしてNGOを選択したのか聞いてもいいですか。

杉田:大学3年の時に自分がやりたいことを考えた際、小学校の卒業文集で将来マザーテレサのように貧しい人を救いたいと書いていたことをふと思い出し、また子供への支援にも関心があったことからそうした活動をしているNGOにてボランティアという形で関わり始め、その後採用して頂きました。

安達:ビジネススキルを付けたかったというお話がありましたが、民間の中でもメーカーや金融業ではなくビジネスコンサルティング業界を選んだ理由はありますでしょうか。

杉田:一つ目はビジネスコンサルティング業界は他業種に比べて比較的早く成長できるというお話を聞いたからです。また、今後開発分野での業務をする際にどの業種での経験が一番役に立つかを考えた際にビジネスコンサルが最も近いと感じました。コンサル業務の基本的な考え方として、課題に対する解決策を考え、実行し、それを評価するという流れがあると思いますが、そうしたスキルは開発業界でも活かせると考えています。

課題の大変さ

和田:今課題が忙しくて本当にきついです(笑)ちょうど今朝担当教授の方と卒業論文のミーティングがあったんですけど、昨晩ストレスで眠れなくて…。こんなストレス今まで味わったことないっていうレベルのストレスを抱えています(笑)皆さんはどんな感じでしたか。

坂本:私も本当に忙しくて大変だったことを覚えています…。

和田:この大変さを皆さんにお伝えした方がいい!現在オファーホルダーの方に電話をして大学院生活の様子を伝えるアルバイトをしているのですが、アルバイトと学業の両立は難しいです。

安達:ほかの皆さんはアルバイトとかされていましたか?

津村:私の知り合いの方は、日本から遠隔でイギリスのマスター(パートタイム)を取っていましたが、なかなか大変そうでした。やはり仕事やアルバイトをするときと、論文を読んで自分の考えを書くときでは頭の使い方が異なると思います。

坂本:論文を書く作業は本当に片手間でやるのは難しく、頭をクリーンにした状態でないとなかなか作業が進みませんでしたね。

和田:皆さんのストレス解消法ってないですか?ゆっくり寝られる方法とかあれば教えて欲しいです(笑)

津村:まあ仕事の方が大変ですよ(笑)個人的には修論の執筆は楽しかったです。

大学院での経験について

安達:大学院で具体的にどのようなことを学ばれたかについて教えて下さい。

坂本:サセックス大学開発学研究所でGlobalisation, Business and Developmentという修士課程に所属していました。政府の立場から見てビジネスセクターをどう活用するか、産業や金融セクターをどう規制するかといった内容が中心でした。ビジネスという観点では、実はマーケティングなど民間企業での経験を活かしてMBAの取得も検討しましたが、国際協力の王道キャリアに進む上ではやはり政府からの視点が重要になり、イギリスでの開発学の修士号は役立っていると思います。


大学院留学中の一枚

杉田:私も坂本さんと同じサセックス大学開発学研究所でPoverty and Developmentという修士課程に所属していました。私はもともと二つのコースで迷っていて、一つ目は社会保障にフォーカスするコース、そして二つ目は教育にフォーカスするコースでした。既に修士号を取られている方にお話を聞く中で、国内で社会保障について学んでいたこともあり、修士課程でも社会保障にフォーカスするこちらのコースに進学することを決めました。


大学院留学中の一枚

津村:私はUniversity College LondonTransport and City Planningという修士課程でした。就職する前に国内の大学院で修士号を取得したのですが、修士論文の研究で扱ったデータをどう活かして問題解決に繋げるかといった、実務的な視点が欠けているなと感じていました。初めは博士後期課程にそのまま進みたいという思いも一時期ありましたが、そうした視点を身に着けるために一度社会人経験を積もうと考えて開発コンサルの会社に就職しました。ただ、実際に仕事を始めると、様々な専門業務を経験させて頂いた中で、結果的に学んだ知識や経験の整理が必要だなと徐々に感じ始めました。なので、イギリスでの修士課程はそうした知識の脳内整理、そして近い将来的に考えている博士後期課程に向けたステップアップとして考えていました。

安達:大学院で学ばれた内容とこれまでのお仕事とのリンクについて教えて下さい。

坂本:WFPに所属していた際、大学院で取っていた栄養に関するモジュールは非常に役立ちました。専門的な用語であったり、基本的なインターベンションの方法も授業を通して学んでいましたので、実際に業務を始めた際には助けになりました。現在のJICAでの業務に関しては直接的に学んだことが役立っているというよりかは、そもそもこの支援スキームは正しいのか、別のアプローチの仕方がより良いのではないかといった、客観的に考えるきっかけとなるフレームを与えてくれたのかなと思います。例えば中国のアフリカ投資に関して授業で取り上げられていたことがありましたが、現在のインドネシアの状況も中国のプレゼンスという点で近いものがあり、ケースが違えど授業で身に付いたフレームは活用できていると感じています。

杉田:直接的に学んだことがリンクしていることは今のところありませんが、全社としてSDGsへの取り組みや社会課題の解決を掲げているため、その点では繋がりはあるのかなと思います。今後ESG投資や途上国・新興国に絡んだ案件を担当することがあれば、より大学院で学んだことを活かせるかなと思います。

津村:日本の大学院との違いとして、イギリスの大学院では俯瞰的な視野を与えるようなカリキュラムが組まれているという印象があります。特に専門分野に携わる上での知識の「引き出し」を整えるには非常に有効であると思います。「引き出し」とは専門的な知識や事例、議論の文脈等と考えて頂ければ分かりやすいとは思いますが、そうした自分の「引き出し」を持つことによって目の前の業務に一定の方向性を持って取り組むことができると考えています。そうした点では、イギリスの大学院での経験は非常に有意義であったと感じています。

国際開発分野の難しさ、苦労された点

安達:国際開発の分野に進まれて難しいと感じた点、苦労された点等ありましたら教えて下さい。

坂本:国際開発機関(国連やJICAなど)ではエントリーレベルでは23年単位での契約ベースのポジションが多く、限られた期間でチームや組織のカルチャーやルールを変えるということは難しいのかなと思っています。特に管理職はその組織に長い間所属している人が着く傾向があるので、契約ベースの人員は組織に対して感じた課題を解決できずに、次の組織やポジションに移るということになってしまうのかなと感じています。結果的に業界自体にイノベーションが起こらず、同じような課題が残ってしまうのかなと思います。今まで外資系企業でマネージャーとして勤務していた時は、課題だと感じたルールや規則は下からの意見を吸い上げて、柔軟に変えることでチームや組織のアウトプットの質を上げてきたので、それが出来ないことに難しさを感じます。逆にどれだけ組織に変化を起こせるかというのをこれからの個人的な課題として取り組みたいなと思います。

杉田:これからキャリアを考えていく上で、プライベートと現場で国際開発に携わることの両立が難しさの一つだと思います。例えば、将来のパートナーが必ずしも私が行く先に付いてきてくれるかは分かりませんし、そうしたことを考えると日本でキャリアを築くべきなのかとも考えてしまいます。国際開発の分野に携わる人皆さんが抱える難しさだとは思いますが、プライベートについても考えながらどのキャリアを選ぶのかということに対しての悩みがあります。

津村:1点目に、開発業界全体の話として、1つのプロジェクトのサイクルが長いということが挙げられます。1つのプロジェクトが少なくとも数年程はかかり、また組織によってはジョブローテーションがある為、プロジェクトの完成を見ずに次の部署や地域に移るということもあります。数年間以上に跨ぐスキームの中で、プロジェクトに関する一連の業務を経験することが少し難しいです。また、開発業界は嘱託契約等の短期契約のポストも多いので、もう少し長い期間に渡ってプロジェクトに腰を据えて取り組みながらキャリア形成ができる、そういった環境が整うと良いのかなと思います。また、どういう立場の組織であれ、若手の間は現地での調整業務などを行いながらプロジェクトに携わることも多く、目先の業務の忙しさから本来の目的を見失ってしまう若手の方もいると感じています。

2点目に、これも開発業界全体の話として、ビジネスのマインドセットを身に付ける事が少し難しいという点が挙げられるかなと思います。やはり援助関連のプロジェクトに携わることが多い以上、そうしたビジネスの視点を持つためには日頃の勉強や心掛けが必要と考えています。しかしながら、どの会社も民間連携案件を増やそうという試みや、民間セクターと一緒にプロジェクトを進めてビジネスへの知見を広めていこうとする動きはありますね。

今後、挑戦されたい事や目標について

安達:今後の皆様の目標をお聞かせ下さい。

坂本:個人的な目標として、日本人というステータスに頼ることなく働けるようになるということが目標です。以前から国という枠組みにとらわれることがあまり好きではなく、そうした考えに対する答えとして国際機関にて、国際的な公共益を高める為に働くことができればなと考えています。また、分野に関してですが、民間とのパートナーシップ連携といった分野が一番自分ならではの強みが出せるのではないかなと考えています。そうした分野で国際協力に携わった後、また民間に戻り、新興国でビジネスをする多国籍企業で働くなど、出来るだけ国境や国籍にとらわれることなく自分のキャリアを積めればなと思います。

杉田:短期的には、二つありまして、一つ目はビジネスコンサルタントとしてのスキルをできるだけ早く身に付けること、そして二つ目は海外インフラやESG投資といった分野に携わり、大学院で学んだことや経験を業務に活かすことです。長期的には、国際開発、とりわけ子どもに関する分野に最終的に進みたいと考えているので、ビジネスコンサルタントとして培ったスキルや経験を活かした上で新たなキャリア選択をし、社会に貢献することが目標です。更により長期的な視点では、最終的に日本に還元したいという考えがあり、特に日本人の国際開発や世界に対する興味関心を高めることに対して、関わることができればなと思います。

津村:私は最終的に公共交通の専門家になることを目標として考えています。どんな人に対しても選択肢や機会のある社会が理想だと考えていて、そういった社会を実現するための公共交通の役割はとても大切だと考えています。行きたい場所に好きな時に行けること、そういった選択肢は途上国の文脈だと比較的限られる場合があると思います。そうした分野にどう自分が貢献していくかというのは大きなビジョンなのですが、そのために大きく3つの点を大切にしていきたいと考えています。

1つ目は深い知見と幅広い知識、2つ目が国や都市と向き合う姿勢、3つ目がマネジメント力です。1つ目に関しては、専門家としての軸である交通計画の分野について深い知見を持つこと、そして一方で幅広い知識が要求される交通の分野において、鉄道や港湾、空港といった他のインフラ分野の知識だけでなく、マクロ経済やジェンダー、コミュニティ等に関する広い知識も持つ必要があると考えています。

2点目は、国や都市との向き合い方に関するものです。私の中で1つのテーマとなっていて、「過去から学ぶこと」と「今から学ぶこと」の二つがあると考えています。都市を計画する時には、過去の人々の意思決定や政策、そうしたものを一つ一つ紐解いて理解してから将来の姿を提案すべきだと思います。新しく1から都市を作るならさておき、ほとんどの場合、既存の都市をどう改善するかということに対してマスタープラン等の将来計画を策定しますので、その都市がどのような発展を遂げてきたのかという「過去の文脈」を学ぶことが大切だと考えています。一方、「今から学ぶ」ことというのは、実際にその都市に業務で訪れた時に、専門的な視点から自分の目で現場を見た時に感じる感覚を研ぎ澄ませるということです。言わば「現地の肌感」のようなものですね。現在、交通分野ではビッグデータやAIの活用が注目されていますが、結局どのデータもサンプルデータ(標本調査)なので、それぞれのデータを活用することで「見えるもの」と「見えなくなるもの」があると思っています。それらのギャップを繋ぐのが「現地の肌感」と考えています。

3つ目はプロジェクト・マネジメントに関するものです。今まで以上に増して、俯瞰的な視点と当事者意識を持ってプロジェクトに関わりながら、自分の経験や知見を社内的・社外的に共有しながら取り組んでいきたいと思っています。

最後に一言

安達:皆様本日はお忙しい中、色々なお話を聞かせて頂きましてありがとうございました。最後にこれから国際開発業界でのキャリアを目指す方へのメッセージをお願い致します。

坂本:国際開発の中でも開発と人道支援の二つがあると思いますが、私の今までのキャリアではWFPが人道支援でJICAが開発でありました。WFPの人道支援のスピード感は非常に印象的で、人道問題が発生してから資金を得て食料を配給するまでに2週間程という早さでした。キャリアを考える際に、開発だけでなく人道支援の分野を考えることも一つの方法かなと思います。特に私はせっかちで直ぐに成果が見たいタイプなので、そう言った方には人道支援という選択肢も大事かなと思います。

杉田:これから初めてキャリアを築く方に対してになると思いますが、開発分野に興味がある方でもキャリアの寄り道をする選択肢もあることを知ってほしいなと思います。私自身、学部を卒業してから色々と寄り道をしてきましたが、そうした寄り道によって学ぶことも多く、それが次の道につながっていきました。また、まだコンサルタントとして民間企業で働き始めたばかりですが、ビジネスとソーシャル分野での考え方や働き方の違いに驚かされることは多く、両者での学びや経験を互いに活かすことができると考えています。私自身色々と寄り道しましたが、この選択をして良かったなと思っています。


津村:自分なりの判断軸を持って現地の課題等に取り組みたいという方には、専門家としてのキャリア形成も視野に入れてもらいたいと思っています。開発業界でそうした考え方を持つ仲間が増えて欲しいなと思っています。自分の特性や興味といったものを総合的に鑑みて、途上国に対して自分がどういった立場から関わるかということを広く考えて頂ければいいのかなと思います。そういう点では、イギリスの大学院は幅広い観点から物事を考える俯瞰的な視点に基づいてカリキュラムが組まれているので、開発業界で自分のキャリアを考える場所としてイギリスの大学院は良い選択肢だと思いますね。