「MSc Applied Social Data Science」London School of Economics and Political Science

稲田裕貴(いなだゆうき)さん

2024年3月執筆

1.自己紹介


 こんにちは!2022-23年度の代でLondon School of Economics and Political Science, MSc Applied Social Data Science (以下、学校名はLSE、プログラム名は ASDS) を修了した、稲田裕貴(いなだゆうき)と申します。この度は自分のページに飛んでくださり、ありがとうございます!こちらではざっくばらんに自分の背景を含め、ロンドンでの大学院生活を共有できればと思います。

 幼少期にアメリカのカリフォルニア州に合計4年ほど住んでいた、いわゆる帰国子女であり、小さい頃から海外の高等教育を受けたいという意識は頭の片隅にありました。そのため、英語で学べて留学も必須であった環境に惹かれ早稲田大学の国際教養学部に進学しました。高校時は理系であったことから、数学的な思考によって実社会を正確に捉えるプロセスに自然と興味を持ち、統計学・物理学・経済学などを主に履修しました。

 その中でも大きな転機となったのは学部2年次に経験したスウェーデン・ウプサラ大学への留学でした。スウェーデン人との交流を通して個人のキャリアに対するどんな意思決定でも尊重し、受け入れる文化を目の当たりにし、将来のキャリアに対して主体的な意思決定をすることの大切さを痛感しました。それが契機となり、好きな勉強に一旦のめり込んでみる決意をし、かねてからの夢であった海外大学進学を本気で目指すようになりました。

 大学3・4年は、大学院進学準備に精を入れ、機械学習・深層学習などのAI分野の勉強、渡英資金を貯蓄するための英会話教師のバイト、高額な学費を払うための奨学金獲得に奔走しました。勉強を進めるうちに根拠に基づく政策立案(EBPM)に興味を持つようになり、データサイエンスを用いた分析が政治的意思決定に結びつくことに大きな魅力を感じるようになりました。学部レベルではAIの理論的な理解に留まってしまったため、データサイエンスを応用して政策の評価をする分析方法について勉強する原動力が生まれました。

 そこで、国をげてデータサイエンスを推進し、政策立案などの行政の中でもデータサイエンスが確立された地位を得ているイギリスを留学先に決め、その中でも社会科学の研究機関として名高く、様々な分析手法を体系的に学べる当該プログラムに進学を決めました。2023年12月に無事に修了することができ、2024年5月からデータサイエンティストとして東京で働きます。


2.所属コースの概要


【プログラムデザイン】

 所属プログラムはDepartment of Methodology (方法論学部)という学部に属しており、社会科学の研究における様々な定量・定性分析手法を体系的に学べ、実践ができるまでサポートしてくれる学部となっています。当該学部では他にもMSc Social Research Methods プログラムも設置しており、そこでは定性分析、ASDSでは定量分析というような棲み分けができています。したがって、ASDSで必修となる授業はRやPythonなどのプログラミング言語を用いた定量分析手法がほとんどで、修士論文もデータサイエンス手法を用いない限り修了要件を満たさない仕組みになっています。定量分析手法以外も勉強できるような構造にもなっており、2つまでは所属学部以外の授業が履修可能なため、学部の縛りなしに生徒各々で興味分野の授業を履修することもできました。

 

【学生の特徴】

  上記の通り、当該プログラムは分析手法に特化し、生徒各々が持つ社会科学分野を定量的に分析するためのノウハウを体系的に学べるプログラムになっています。したがって、手法に興味を持っているという共通項はあるものの、興味のある分析領域は皆異なっていて、それぞれの関心を深めるモチベーションで授業選択をしていました。したがって、ASDSをアカデミアキャリアの踏み台として用いている生徒も多く見受けられ、卒業後の進路はPhDなどアカデミアに進む場合も多くいました。学際的な環境であり、各々が関心を持っている分野を日常会話からも議論する場面が多く日頃の会話だけでも様々な社会科学のトピックに関しての刺激が得られるような環境でした。

     LSE全体の特徴として生徒の7割が英国以外の国籍で構成されているように、ASDSでも世界各所から生徒が集まっていました。多いのはやはりヨーロッパ本土の生徒でしたが、南米、アジアからの生徒も多く在籍していました。興味深かったのは、イギリス、アメリカ、カナダなどの英語圏からくる生徒が少数派だったため、英語以外にもスペイン語やドイツ語などいろんな言語が飛び交う国際的な環境だったと感じています。学問的なバックグラウンドでいうと、半数は学士からそのまま修士に来ている人たちでしたが、2つ目の修士を取っている方、PhDを終えてからもう一つの修士を取りに来ている方、就職し、退職した方、仕事を続けながら通っている方など多様の一言につきました。多種多様なバックグラウンドを聞くだけでも自分はどうなりたいのか、どのようなキャリアパスが存在するのか等、自己分析が進んでいく感覚になりました。

3.授業の概要

 

 上記の通りASDSの目的として、『社会科学の問いに対して定量的な分析を行うことで科学的な根拠を抽出できる人材を輩出する』と位置づけられており、そのために『1. 社会科学研究のプロセスの理解』、『 2. 統計処理スキルの習得』、『3. プログラミング能力の向上』の3点に重きが置かれました。上記3つのポイントをそれぞれ抑えるためにハーフユニット(0.5 unit)の授業3つの履修が必須で、その他ハーフユニットの授業3つを自由に選択し、フルユニット(1 unit)のCapstone Project (修士論文)という計4Unitで構成される12ヶ月のプログラムでした。

 LSEは3学期制を採用しており、最初の2学期で3授業ずつ履修して最後の学期は修論執筆というような構成でした。それぞれの授業で講義が毎週あり、セミナーも毎週、または隔週で行うというような形式でした。講義は講師の方がスライドを用いて理論を中心に教え、セミナーはその理論をプログラミングで実装する実践型の形式でした。セミナーは他のLSEプログラムと違い、リーディングリストなどから膨大な資料を読んで議論の準備をするということはなかったですが、用いるコードを事前に読んだり実際に走らせたりして関数や仕組みを理解する予習を日頃からしておりました。

 課題の形式も他のLSEのプログラムとは異なり、データや分析する問題が与えられ、データの可視化、統計処理などのデータ分析をこなすコードを書きレポートを作成するというようなものがほとんどでした。それぞれの授業でこのようなプログラミングの課題が隔週で与えられるので、常に課題と格闘する生活でした。また、課題の特色としてグループ単位でレポートが求められることが多かったため、プロジェクトメンバーと常に会話や会議を通し役割分担・進捗確認をしながら課題を進め、ビジネスや研究の現場と同様なプレッシャーと進め方で課題に取り組んでいました。このような課題形式を通しても実践にどれだけ重きが置かれているかがわかるかと思います。

大学紹介

 

 LSEは社会科学や政治学など、日本の区分で言ういわゆる文系の研究に特化した大学・研究機関であるものの、統計学などをはじめとした定量分析を非常に重視した大学であると感じています。したがって、プログラム関わらず全体として定量分析などに関心がある学生が多く在籍していて、理系・文系というような垣根を取っ払い、皆が研究のために必要な勉強を主体的に行っている印象でした。

  LSEのキャンパスはロンドンの中心街であるHolbornに佇んでおり、観光地であるCovent Garden, Leicester Square, Trafalgar Squareなどから徒歩10分〜20分くらいで行けるという好立地でした。キャンパスは日本のように狭いスペースに高い建物が乱立していて、他のロンドンやイギリスの大学と比べて非常にこぢんまりとしていました。そのため、移動も楽でしたし、歩いているだけで友人に会うことが多かったので、孤独感は一切感じずに日々を過ごすことができました。実際、私は授業の有無や忙しさ度合いにかかわらず足繁くキャンパスに通い、勉強や作業、また友人と談笑する場所として使っていたので、ロンドン生活のほとんどをこのキャンパスで過ごしたと行っても過言ではないです。

その他


【寮生活】

 海外からくる大半の修士生は学校が紹介する学生寮に住んでいることが多いです。自分もその一人で私はLilian Knowles House(LKH) に住んでいました。LKHの決め手としては他の学生寮と比べ圧倒的に家賃が安く(他が月20数万のところLKHは月16-17万)、ロンドンの交通ハブである大きな駅が最寄りであり、なおかつ自分の部屋にシャワーがあることでした。東京でいうと新橋駅に学生寮があるイメージで、ビジネス街でありつつ飲み屋街が周りにあるような立地であり、平日週末かかわらず人で賑わっていました。セキュリティなど外的な環境に不満はなかったのですが、施設や設備周りの問題は多く、複数の棟で水道管が破裂して地下階が水浸しになってしまったり、深夜3時にシャワーの湯けむりで火災報知器がなり強制的に起こされたりとイベントフルな寮ではありました。ただ、仲間と距離を縮めやすい環境ではあったので最終的には後悔のない選択だったと感じています。

 

【資金】

  自分は主にJASSOの給付型奨学金と貯金で全ての費用を賄っていました。2022年〜2023年にかけて物価上昇と円安の2つの大打撃を受けたため、日本円で生活をやりくりしている身からするとかなり経済面はしんどい時期が多かったです。そのため、寮で自炊を基本的にし、日頃から歩いて登校することなど、なるべくお金を節約するようにしました。工夫を凝らしましたが、結果的に留学にかかる全ての費用で約1000万円※を使いました。学費がそもそも高かったことや学期末に友人とパブに出向くことが多かったことなどの浪費もこんなにもお金が嵩んでしまった原因かと思いますが、やはりロンドンでの生活費は冗談抜きで高額なので資金はできるだけ多く確保していくのが賢明だと思います。

 

※その年の物価や為替の変動などで大きく変化する値ではありますので参考値程度で考えていただけると幸いです。

留学を目指している方へ一言


 上記は楽しかったこと・良かった点を多く書きましたが、ロンドン生活特有の大変さ、学校運営に対して疑問に思う点など大変なことも多かったのも事実です。ただ、一つ言えるのは確実に学問的にも人間的にも成長できる環境はLSEにはあります。留学先として是非LSEをご検討いただいてAlumni同士になれることを楽しみにしています!

長文になってしまい大変失礼しましたが、少しでも英国留学の一助となれたなら嬉しい限りです。また、質問やより詳細に聞きたい点などございましたら、こちら自分の連絡先ですので、遠慮なくご連絡いただければと思います!


LinkedIn: https://www.linkedin.com/in/yuuki-inada-857541213/

早稲田のページにも自己紹介が掲載されています!(英文):https://www.waseda.jp/fire/sils/news-en/2023/02/21/16180/