「MSc ICTs for Development 」Global Development Institute, University of Manchester

(マンチェスター大学 グローバル開発研究所 「情報通信技術と開発学 修士課程」)

吉野 高章(よしの たかゆき)さん

執筆:2019年7月

1.自己紹介

大学生の時にあるNGOのコンサルティングのお手伝いをしたのがきっかけで、国際協力に興味を持ちました。大学時代は経営学部に所属していましたが、勉強に勤しむことなく、海外でボランティアをしたり、休学して色んな国を放浪したり、世界青年の船に乗ったりもしていました。卒業後は、住宅CADの会社でシステムエンジニアとして5年半働いた後、青年海外協力隊のコンピュータ技術隊員として、ナミビアの教育機関に派遣されていました。ナミビアでの2年間で、発展途上国の問題にアプローチするためのInformation and Communication Technology(ICT)の専門知識や経験が必要だと考え、先輩隊員も過去に所属していたマンチェスター大学のICTs for developmentコースを選択しました。

2.所属コースの概要

特徴:発展途上国におけるICTの役割と、それを用いた社会経済開発をフレームワークやモデルを用いて理解し、効果的なプロジェクトの計画・実行・管理手法を学びます。

コースの強み:ICT4Dを学べる数少ないコース。この分野で有名なRichard Heeks教授がスーパーバイザーになります。当人が教壇に立つのは1授業だけでしたが、授業や卒論等の質問にいつも丁寧に答えてくれるユーモア溢れる素敵な教授です。

コースの弱み:発展途上国の社会や文化、背景を考慮し、ICTをプロジェクトでどのように活かすかというマネージャーよりの専門知識の習得を目的としているので、プログラミングやソフトウェア開発などのICTスキルを向上させることにはあまり向いていません。

クラスメイトのバックグラウンド:コースの人数は2018-2019年度は9名(内訳:日本、中国、インドネシア、タンザニア、ケニア、ペルー、ベネズエラ、ジャマイカ)。ほぼ社会人経験者。授業は他のコースの学生(70%が中国人)と一緒に受講(平均約40名)

期間: 9月~翌年8月。2期制で前期「9月中旬~12月中旬」と後期「1月中旬~5月中旬(4月はイースター休暇)」の12週ずつ。8月末にDissertationを提出。学位授与は12月中旬。

3.授業の概要

・授業名:ICT's & Socio-Economic Development

・内容:コースのメインとなるRichard Heeks教授の授業です。教授の著書である「Information and Communication Technology for Development (ICT4D)」に沿った形で進められ、発展途上国でのICTベースのプロジェクトをもとに、フレームワークやモデルを用いながら、ICTの役割についてディスカッションします。評価は5,000字のエッセイです。

・感想:授業の進め方がうまく、生徒からの質問にも的確に回答してくれます。同じクラスの生徒も一番わかりやすく、身になる授業だと言っていました。本を購入する必要はありませんが、事前に学習しておくと、授業の内容がわかりやすいと思います。


・授業名:Planning and Managing Development

・内容:開発学の計画と管理手法を学ぶ授業です。3~4名のグループを作り、発展途上国における模擬プロジェクトを進めていきます。授業では理論を2時間学び、その後の2時間のチュートリアルで教授やチューターと共に理論を実践に落とし込んでいきます。評価は筆記テスト(50%)とグループプレゼンテーション(50%)です。

・感想:様々な分野の学生が履修し、グループワークを行うので、多種多様な意見を共有することが出来ます。仮想プロジェクトの中で、社会人時代にやっていたようなことを同じ立場の生徒と進めていくのは、楽しくもあり、難しくもありました。


・授業名:Research Skills Development

・内容:卒論作成に向けたリサーチ手法を学ぶ唯一の通年の授業です。データ収集と分析を実施するために、方法論的観点からICT4Dに関する研究文献を分析し、報告書としてまとめます。この授業にはフィールドワークが含まれており、今年度は南アフリカのケープタウンに行き、様々な組織を通して、実践的な学習を行いました。評価は前期が3,000字、後期が4,000字のエッセイです。

・感想:授業は難しい専門用語や概念的な考え方が多いので、当コースで一番理論的な授業だと思います。フィールドワークは、他のコースの生徒(約50名)と行い、役所やNGO、工場などICT4Dに関わる組織で実践的に学べる非常に貴重な機会です。

4.大学紹介

キャンパス:次々に新しい建物が建てられているので、新旧の建物のコントラストが魅力的なキャンパスです。内部の設備なども整っていて、履修や授業の情報など、大体のことはシステムで管理されているので、ペーパワークはあまりありません。24時間空いている「Alan Gilbert Learning Commons」というキャンパス内の建物は綺麗で勉強する設備が整っています。人気があるので、試験期間中などは席を確保するのが難しいです。

特徴:多国籍ではありますが、現在、大学院の生徒の半分くらいは中国人です。日本人コミュニティもあり、Facebookのグループを通じて、日本人とも交流が図れます。「International Society」というコミュニティでは、様々な言語の語学学習を受けることが出来たり、イベントなどで他の生徒と親交を深めることが出来ます。

5.その他

寮:様々なタイプの学生寮があり、新しいところは人気で早めの予約が必要です。しかし、快適さは結局近くに住む人によって決まってしまうのかなという気がするので、一概に人気があるとこがいいとは限らないかと思います。

街:観光名所はあまりありませんが、物価も安く、生活しやすいと思います。スタジアムでのサッカー観戦は迫力があり、一見の価値があると思います。キャンパス近くの「W.H. Lung Supermarket」というチャイニーズストアでは、日本食が買えるので食事には困らないかと。学生証を提示すれば5%引きになります。「Lidl」というスーパーが一般的な買い物をするには、安くておすすめです。

6.留学をめざしている人へ一言

まさか自分が大学院に行くなんていうのは学部時代には夢にも思わずにいたので、自身で計算したGPAが全然足りていないし(1.26笑)、学士と修士の分野が全然違うので、留学はほぼ諦めていました。しかし、留学エージェント(beo)に相談してGPAを算出し直してもらえることがわかり、無事に入学することが出来ました。あきらめないでください。

社会人時代に培ってきた経験を理論に当てはめ、それを全く異なる豊かな経験をしてきた生徒と共有できる学びは、新しい発見の連続です。もう一度自分の土台をつくる留学はかけがえのないものになるかと思います。

また、IDDPでのボランティア活動も留学生活の中での良い刺激になると思います。