「MA Education and International Development」Institute of Education (UCL IOE), University College London

(ユニバーシティカレッジロンドン教育学研究所 「教育と国際開発修士課程」)

駒橋 冴季(こまはし さき)さん

執筆:2018年4月

1. 自己紹介

元々は子どもに興味があり、大学時代に国内外で子どもと関わるボランティアに参加しました。大学3年生の時にカンボジアを訪れた際に過酷な状況下でもたくましく生きる子どもたちに感動し国際協力に関心を持つようになりました。しかし新卒で開発業界に入るのは難しいと知り、卒業後はIT企業でSEとして働くことに決めました。仕事は充実していましたが、3年目を過ぎたあたりからやはり途上国で働いてみたいという思いが強くなり、退職して青年海外協力隊としてサモアの中高等学校でコンピュータ教員として活動しました。帰国後、やはり途上国で若者の教育に関わりたいと考え、より専門的な知識を身に付ける必要性を感じて大学院進学を決めました。


2. 所属コースの概要

IOEで国際開発に関連するコースは私のコースを含めて4つあり、総称してEID Clusterと呼ばれています。

MA Education and International Development (EID)

MA Education, Gender and International Development (EGID)

MA Education, Health Promotion and International Development (EHPID)

MA Educational Planning, Economics and International Development (EPEID)

基本的に全てのコースで同じ授業を受けられますが、必修になっている授業が異なります。また修論のテーマも自分のコースに必ず関連する必要があります。

注意して欲しいのはこれらのコースは途上国での「教育開発」を学ぶコースであり、先進国で途上国開発の啓発を行ういわゆる「開発教育」とは異なります。

コースの強みとしては、私がこのコースを選んだ理由でもありますが、教育開発について深く学べる科目(教育開発とジェンダーや教育開発と計画手法など)が多いことです。他の大学では開発学の様々な分野の科目の中に教育開発の科目があるだけというところもあります。狭く深く学びたい方はIOEのような大学、広く浅く学びたい方には後者のような大学が適していると思います。

弱みとしては、人数がかなり多いことです。EID Cluster全体で180人程、EIDコースだけでも80人近くいます。様々なバックグラウンドの人と会えるという意味では良いのですが、1クラス50-60人いる科目ではコースメートと仲良くなるのが難しい気がします。科目によっては10数人程のクラスもあるので、その場合はいつも同じメンバーと顔を合わせるので仲良くなりやすいです。


3. 授業の概要

・授業名:Concepts, Theories and Issues (CTI)

・内容:EIDコース唯一の必修科目です。開発学におけるメジャーな理論を、その発展背景、内容、様々な学者の考え方、批判、応用した開発事例などを学びます。例えば人的資本理論、ポストコロニアル理論、新自由主義、人権、ヒューマンケイパビリティーアプローチなどです。

・感想:理論なので実践的というよりは学術界の動向を知るなど研究の側面が強いです。毎回3~5つくらいの文献を事前に読む必要があるのですが、グループに分かれて授業の前までにディスカッションを行い、話し合った内容をオンライン上で共有する必要があります。このリーディングディスカッションが個人的には難しい理論を理解するのにとても役立ちました。


・授業名:Planning for Education and Development (PED)

・内容:開発援助の計画手法や実施結果の評価手法などを学びます。セオリーオブチェンジ、ログフレーム、インパクト評価など、実際に広く国際開発の現場で使われている手法をグループワークなども交えながら学ぶことができます。

・感想:授業中に具体的な課題を提示されて、それに対して学んだ手法を使ってグループ毎に援助計画を立てる機会もあり面白かったです。文献も論文だけでなく援助機関などが発行しているガイドラインなどが含まれており、わかりやすかったです。最後の授業ではグループ毎にプレゼンテーションを行うので、その準備も授業と並行して進めました。


・授業名:Understanding Education Research (UER)

・内容:教育開発に関連する調査研究手法を学びます。質的研究と量的研究の両方を学べますが質的研究に重点を置いています。面接法、事例研究、観察法、質問紙調査などです。また同時に個人の修論テーマについての研究計画を立てる方法を学び講師や他のクラスメイトとシェアしながら計画を立てていくことができます。

・感想:この授業は修論で実際にデータ収集を行う予定の学生に推奨されています。実際に他の授業と並行しながら修論の計画を立てるのは大変なので、授業内に計画を立てられてアドバイスをもらえるのはとても助かっています。


・授業名:African Studies and Education

・内容:この科目はEIDコース外の授業になります。今年度新しく開設された科目で、アフリカ全体に共通する課題や地域・国ごとにおける教育課題、アフリカ出身の学者や彼らの理論、アフリカの歴史などを幅広く学びます。

・感想:新しいコースなので学生の意見を積極的に聞こうとしてくれます。ただし講師陣にやる気がありすぎて、事前に読む文献の量が多く、授業の数日前に文献を追加されたりプレゼンテーションを準備するように言われたりするなど、要求が高いと感じることもあります。それは今後改善されていくと期待します。内容はとても面白いです。個人の関心のある地域ごとにグループに分かれてプレゼンテーションを行う予定です。


4. 大学紹介

IOEはシンプルで落ち着いた学校だと感じます。教育学という性質もありますし、ほとんどのコースが修士課程なので職歴のある学生も多いことがあると思います。学生のバックグラウンドも様々ですが、イギリス、アメリカ、カナダなどの英語圏、ヨーロッパ、日中韓などアジアの国から来た学生が多いです。EIDコースでは途上国出身の学生も多いですが、やはりマジョリティは英語圏やヨーロッパの学生です。教育学、TESOL、応用言語学は新卒の中国人学生がほとんどだと聞いています。個人的にはまじめで優秀な学生が多いと感じます。数年前にUCLに統合されたのでUCLのキャンパスや図書館などの設備も使えますが、UCLは学部生が多く、とにかく学生数が多いのでもっとにぎやかな印象です。


5.その他

IOEに限ったことではないですが、大学院での勉強は想像以上に孤独です。コースにもよりますが、EIDはそもそも授業が週に2日しかないので、それ以外は家や図書館などでひたすら文献を読んだり課題を進めたりしています。グループワークがあるとグループのメンバーと集まったり連絡を取り合うことも多いですが、それでも基本は個人ワークが多いと思います。特に最初の学期は文献を読み慣れていないのでとても時間がかかります。でも徐々に読むスピードが早くなったり重要な箇所だけピックアップして読めるようになってくるので、2学期からは多少楽になりました。そして他の学生と仲良くなるのも思っていたよりも難しいです。そもそも顔を合わせる機会が少ないですし、遊びに行く時間もなかなか取れないですし、圧倒的な語学力の壁も感じます。他の日本人学生も同じ悩みを抱えている人が多いです。ですが、オープンマインドでいれば少しずつ仲良くなる機会が出てきますし、気の合う友人を見つけるのは日本人同士でさえ簡単なことではないので、焦らずマイペースに過ごすことが大切かなと思うようになりました。


6.留学をめざしている人へ一言

留学はお金も時間も労力もかかる自分への大きな投資だと思います。特にイギリスの大学院は1年間なので忙しいのも事実です。なので、留学の目的を明確に持つことがモチベーションを保つ上でも大切だと思います。また大学やコース選びもなるべく念入りに行った方が自分の納得感が強まると思います。よく「世界ランキングで1位だから」という理由でIOEを選ぶ人がいますが、1位だから誰にでも最適な大学ということはありません。なるべく多くの大学と比較しながらここに行きたいと思える大学を見つけてください。