「MA Globalisation Business and Sustainable Development」School of International development, University of East Anglia

(イーストアングリア大学 開発学 「グローバルビジネスと持続可能な開発 修士課程」)

丹波 小桃(たんば こもも)さん

執筆:2018年4月

1. 自己紹介

University of East Anglia, School of International Development に所属し、MA Globalisation Business and Sustainable Development というコースの修士課程で学んでいます。丹波小桃です。UEAに留学する前は、ICU(国際基督教大学)のリベラルアーツ学科に通い、こちらで言う開発学を勉強していました。中でも、CSR・CSV、フェアトレードなどに興味があったので、国際NGOであるOxfamJapanのユース活動をしたり、エシカルファッションのプレスやフェアトレードの認証機関で長期インターンをしてきました。そこで得たコネクションをもとにインドのフェアトレード工場と共同で、オーガニックコットンを使った大学のオリジナルグッズの企画・開発販売なども行ってきました。そのような草の根活動を通して、企業活動の持ち得る可能性と脅威を改めて感じ、途上国サプライチェーンにおける人権と労働環境を保障するのためのガイドライン策定や法整備について研究したいと思うようになりました。そのように考えた際、イギリスが最も学びやすい環境だと感じたのが留学の動機です。


2. 所属コースの概要

私のコースでは、グローバルビジネスの拡大が経済・社会・人権・環境、地域文化にどのような影響を及ぼすのか。いかにこれからのビジネスを人と地球にとって持続可能なものにしていくのかを研究しています。コースメイトは6人と小規模ですが、みな年齢も近く仲が良く、国籍も多様で日々たくさんの刺激をもらっています。コースの強みをあげれば、第一に、その名の通りかなり特殊なテーマに特化した、数少ないコースだと思います。何校か受験し、最後までどこに行くか悩みましたが、結果的には自身の興味分野に100%マッチしたテーマでモジュールが組まれている大学はUEAしかなかったと感じています。Businessと SustainabilityをテーマにしたコースはMBA等では見かけられますが、私はあくまで「開発」を軸にすえた研究がしたかったので、その点は非常に満足しています。その他に魅力をあげれば、少人数なのでより深いディスカッションが出来る事です。一方で、弱みになりえるのは、扱っているトピックがそれぞれ大きいので、世界経済や環境問題についての全体の流れは掴めていても、細かいところまでの理解は個人に委ねられているという点です。春学期(後期)は分析の技術や論法を学んでいますが、秋学期(前期)は抽象的な漠然としたテーマが非常に多かったので、レクチャーだけだと学部で習うような内容で、いかに深いところまで理解を落とし込めるかは、エッセイやリーディングを通して行う個人作業という印象でした。なので、事前にかなり具体的な興味関心トピックや経験がないと限られた時間の中では満足いく学びの収穫が得られない可能性があります。


3. 授業の概要

・授業名:Perspectives on Globalisation

・内容:グローバリゼーションにまつわる主要な議論:この事象を引き起こした要因は何でどのようなプロセスを経て来たのか、グローバリゼーションが持ちえるインパクトとは何か(経済開発、貧困と不平等、摩擦や衝突、自然環境への影響など)をさまざまな概念的枠組みを用いて学際的に分析する。

・感想:グローバル化というこの気球が未だかつて経験してこなかった大きな転換期の中に生き、その功罪を多面的に捉えるトレーニングができたと思います。またグローバル化というものをいかに捉えているのかというのも出身国によって本当に多様で、歴史的要因と照らし合わせながらクラスメイトの意見を聞くのは非常に興味深かったです。


・授業名:Development Perspectives

・内容:「国際開発」に関する歴史的理論、視座を批判的に検討する。国際開発の「時代」が始まったと考えられる1940年代後半から、過去60年間を振り返り、この期間に現れた開発主要理論がどのような壁に直面してきたのか。また1970年代の石油危機や1990年代の共産主義の崩壊などに代表される、世界事象が開発理論の変容にどのように影響を及ぼしてきたのか分析する。

・感想:近代化論や従属論といった主要な理論から、ポスト開発(脱開発)といった日本ではなかなか扱われない理論まで、多角的に開発の枠組みを整理し直す良い機会でした。


・授業名:Gender Perspectives in International Development

・内容:開発におけるジェンダー分析の背景知識を提供し、そして、貧困、暴力、宗教、ジェンダー学における男性性など開発研究におけるジェンダーと主要なテーマとのつながり学ぶ。これらテーマのジェンダー分析過程では世帯と家族制度、権力とエンパワーメント、環境破壊等、分析の基礎であるアイデア、議論、ツールを用いる。

・感想:一口に「ジェンダー」といっても主にテーマになるのはフェミニズムからの視点が多かったと思います。学部でもジェンダー学を学んできましたが、ヨーロッパと日本ではその背景も文脈も異なるので、とても刺激的でした。理論研究というよりはケーススタディが占める割合が多かったように思います。


・授業名:Rural Policies and Politics

・内容:農村地域における地方開発政策の重要性とその政治についての理解を目的とする。昨今、「政策」の果たす重要性はアカデミアの世界だけではなく、NGOや民間企業など開発に関わる全てのフィールドで認知されているという前提をもとに、それらアクターと政策が地域発展にいかに寄与するのか理解する。

・感想:政策関連の授業を今まで受講したことがなかったのですが、ケースをたくさん用いたレクチャーだったのでその点、初心者でも入っていくことができました。既存の地域開発政策の分析と評価をしたり、新しい政策を考えたりという実際的な学びの機会もありました。


・授業名:International Economic Policy

・内容:経済開発において、国際貿易理論(自由貿易と保護政策、幼児産業の議論、世界貿易機関(WTO、貿易政策とジェンダー、特恵貿易協定など)のもつ役割を考察する。また、外国直接投資や技術移転の役割等も合わせて分析し、理論と実際的な政策応用の意義を分析する。

・感想:ほとんど経済学のバックグラウンドがなかったので、ついていけるかとても不安でした。そのため、授業期間が始まる前に教科書を日英両語で用意し、専門用語を照らし合わせながら初歩的な知識は用意する様にしました。ビジネスに関わる研究をするうえで、この時期に開発経済理論の基盤に触れることができて良かったと思います。


・授業名:Globalisation, Business and Development

・内容:商品の国境を超えたグローバルな生産形態がどのように組織化され、国、企業、市民社会がいかに役割を果たしているのか考察する。多国籍企業などの主要なビジネスアクターに焦点を当て、彼らが開発途上国において引き起こしえる資源採掘の問題、地域社会や労働者との関係、環境や人権への影響など、企業の「社会的責任」について多様な視点から深く掘り下げていく。

・感想:自分の所属コースの必修科目であり、毎回扱うテーマも自身の興味ど真ん中であったため、とても楽しく受講できました。こちらもケーススタディ中心のレクチャーでした。


4. 大学紹介

UEAの開発デパートメントの特徴として、教師陣も生徒も実務家もしくは志望の人が多く、大学としても卒業後の生徒のキャリアとして開発現場で活躍することを求めているように感じます。そのため、授業の組み立てられ方を見た際に、もちろん理論研究は行いますが、実際のケーススタディなど生きた学びを重視していると感じます。

広大なキャンパスは緑に溢れていて、勉強をするには最高の環境であると思います。また、学生自治が強い大学であるため、学生が自分たちのキャンパスを作り運営しているという意識が強いと感じます。学生運営のカフェにスーパー、バーなどがあり、入学時のオリエンテーションも学生が中心になって行ってくれました。その点が日本の大学とは異なり面白いです。


5.その他

住んでいるのは大学のアコモデーションですが、市内の中心にあり、キャンパスへはバスで20分ほどかけて通学しています。私が住んでいるNorwichは毛織物の一大産地として栄えた貿易の中心地という歴史もあり、今でも古い商店や街並みが活用され、残されています。市の中心にある露店マーケットはイギリス最古とも言われ、食品から衣類、雑貨まで何でも売られていて毎日活気にあふれています。“Small but fine city”と評される様に、小さいながらも基本的に必要なものは何でも揃い、歴史遺産と若者文化が共存するコンパクトな場所です。


6.留学をめざしている人へ一言

私のように学部を卒業し、そのまま修士に進むことを考えている方に対しては、しっかりとした研究テーマや将来のビジョンを持って、どんなに小さくてもその分野にまつわる経験を積んで留学することをお勧めします。1年は本当に短いですし、実務経験のある仲間に囲まれる修士留学の環境では、経験に基づいた意見が絶えず求められます。そんな時に少しでも自信をもって意見を共有できると、学びの深さが大きく変わってくると思います!