「MA Impact Evaluation in International Development, School of International Development」University of East Anglia

(イーストアングリア大学 「国際開発インパクト評価コース 修士課程」)

成田 吉希(なりた よしき)さん

執筆:2018年4月

1. 自己紹介

北海道大学数学科を卒業し、同大学の観光開発を学ぶ大学院を修了した後、地元市役所で福祉事務所及び保健所で5年半働く。高校時代の短期留学や学生時代に地元のお祭りや北海道洞爺湖サミットの際に海外からの参加者や来訪者の受け入れに関与した経験から海外に携わって働くことを意識していたが、市役所の業務として機会に限度があることを感じ、同時に国際開発の現場で保健所などの公共施設が重要な役割を担っていることから国内での地域づくりや行政経験を生かしてキャリアを変更できないか模索し始める。30歳の節目を契機に市役所を退職し、フィリピンに語学留学、JICA北海道で事務スタッフとして6ヶ月働いた後に統計知識も活用できるイーストアングリア大学のインパクト評価コースを履修するに至る。


2. 所属コースの概要

インパクト評価は政策やプロジェクトなどの介入がターゲットグループにどのように影響を与えたかを介入群と統制群で比較することで厳密に測定する手法で、本コースでは大まかに実験デザイン(experimental design)、準実験デザイン(quasi- experimental design)、システィマティックレビュー(systematic review)等の手法を先行文献の分析や実際に使用されたデータセットをSTATAなどの統計システムを使用して学ぶ、実践的なコースです。クラスメイトは13人で構成はアフリカ出身が5名、地元イギリスが4名、アメリカ2名、南米1名、アジア1人(自分)でした。

過去の国際開発の介入が投入した金額や計画に沿ったかで評価されていたことから、米国シンクタンクの指摘を発端とし、SDGsの設定により成果を厳密に測定する必要性が近年更に高まったことから、医療分野で先行して発展した当手法を社会開発の現場で活用しようという動きが活発化しています。

本コースは世界で唯一インパクト評価をコース名としており、インパクト評価に関する国際NGOであるInternational Initiative of Impact Evaluationに深く関与している講師がいるなど、この分野で先駆的な内容となっています。国内では学べる場は少ないですが、過去に受講した日本評価学会認定評価士講習や、留学直前に受けた統計検定2級(学部卒業程度)の知識は準備として助けになりました。

コースの弱みとしては、内容が定量的で個人で議論の場が他のコースと比較して少ないため、英語の上達に関しては個々で工夫する必要があると感じています。ただ、本コースが始まる前にインパクト評価と開発経済学のコースの生徒を対象に数学と統計のプリセッショナルコースが組まれ、同じモジュールを履修することが多いため、定期的に飲み会があるなどコースメートとの仲間意識は非常に高いです。


3. 授業の概要

・授業名:Welfare and Evaluation

・内容:本コースは、いかに介入が被支援者の生活の質の改善に貢献したかを評価するための基本となる枠組みや評価手法を学ぶモジュールです。証拠に基づく政策(Evidence-based policy)、プログラム評価、貧困概念の考え方、系統レビュー、費用便益及び費用効果分析等を学ぶことができます。

・感想:コース名にWelfareとありますが、内容は評価手法に関するもので、概要を学べるため、履修する学生はコースによらず広く参加していました。開発分野での定量的評価はイーストアングリア大学の強みでもあるので、研究分野に関連付けできる場合は履修をお勧めします。


・授業名:Applied Impact Evaluation

・内容:本コースは、重要なインパクト評価の手法を構造的に学ぶことができるもので、実践として統計ソフトのSTATAを使用するため、前期の計量経済学の履修は内容的に必須となっています。インパクト評価の実践におけるRCTs、多変量回帰分析、差分の差分法、傾向スコアマッチング、回帰不連続デザイン、操作変数法、分位点回帰、定性データの活用等が主に学ぶ内容になっています。

・感想:インパクト評価コースの必須科目で最も重要な授業です。専門的で定量的な分野であるため、統計を学んだ経験がある方にお勧めします。手法が厳密な分、内容は構造化していて全体像は把握しやすいですが、課題でデータセットを使用して実践に取り組むに当たり、ネイティブも苦労していました。どのモジュールもかもですが、リーディングリストの必須文献を押さえることと、不明な点を明らかにして講師やチューターに確認することが重要かも。そこまでに行き着くのが大変なのですが。


・授業名:Econometorics for Development

・内容:計量経済学の基本理論を押さえて、STATAという統計ソフトの使用方法を学び、実際に世界銀行などのサイトからパネルデータを取得して実践及び分析を行うモジュールです。結果として先行研究で示されているデータ結果の読解力もつきます。オープンデータの活用方法を学べるのも利点です。学ぶ内容としては、仮説検定、多重回帰分析、最小二乗法、操作変数法、パネルデータの活用、因果検定、離散選択モデル等です。

・感想:日本語の計量経済学の参考書を持ち込んだのは良かったのですが、細かく突き詰めると切りがないため、課題に関してはどの程度まで理解すればいいか、講師にもっと相談すれば良かったです。データを使用した実践の授業もあるのですが、限られた時間で多くの内容をこなすためスピードが早く、授業中に理解するのは大変でした。


・授業名:Research Method

・内容:開発学を学ぶためのベースになる研究デザインや手法を学ぶモジュールです。後期に定性的な手法を学ぶモジュールがあるため、この授業ではアンケート調査等に関連して定量的な分析や統計を学ぶ機会が多い印象があります。統計の基本的な内容なので入門書があれば便利です。エクセル、SPSSの活用についての授業もあります。

・感想:個人的には一番失敗した科目です。課題は研究プロポーザルを作成するというものでしたが、ちょうど別件のインターンシップの選考に伴う調査プロポーザルの時期が被っていたため、そのプロジェクトに関連付けて課題を作成したところ、学術研究としての研究デザインとして疑義があるとのことで、残念な結果に終わりました。他の受講生も卒業のテーマと関連付けさせてようとして、苦労していたので、課題はモジュールのためのプロポーザルとして考え、無理に他と関連付けない方が良さそうです。


・授業名:The macroeconomics of development

・内容:開発マクロ経済について学ぶモジュールです。金融危機などの具体的な事例を扱い、発展途上国のマクロ経済における外部要因とそれに伴う貿易や資本フローの変化に対する途上国の成長への影響や対策などをマクロ経済理論と共に学びます

・感想:マンキュー経済理論の日本語版の本を先輩から譲り受けていたのは助けになりました。世界銀行などの経済指標を通じて、様々な国の経済状況や政策の移り変わりについて学ぶことができ、非常に勉強になりました。


・授業名:International Economic Theory

・内容:発展途上国の国際貿易理論を学ぶモジュールで、特に自由貿易と保護貿易、幼稚産業保護論、国際機関や特恵貿易協定などを学びます。国際経済のシステムや関連する概念の理解を通じて、貿易・対外投資政策を分析できるようにすることを目的としています。

・感想:授業の内容は非常に面白く、発展途上国に関することだけでなく、日本を含む先進国が現在の立場に至る上で国際貿易が果たした役割などの理解を深めることができます。内容に関連があるためマクロ経済学の授業と同時に履修することをお勧めします。


4. 大学紹介

イーストアングリア大学は卒業生の日系イギリス人の石黒カズオさんがノーベル賞を獲得したことでも有名になりました。大学は広い緑あふれるキャンパスに包まれて穏やかで安心して勉強に励める環境です。キャンパス内には24時間利用可能な図書館がある一方、ランニングに適した湖や多目的ジムがあるなど工夫次第ではメリハリをつけた学生生活が送れます。ただし天候が良いとは言えなく、キャンパス内の寮に住むと外に出る機会も極端に減り気が滅入るため、定期的に街中で買い物したり旅行に行くなどの気分転換も必要です。 国際開発学は日本人が多いため、ともすれば英語の上達の障害となるのを危惧する方もいるかもしれませんが、情報の共有という点で貴重なネットワークになっています。自分達の代は授業が始まった前期第1週の週末にバーベキューを顔合わせがてら行い、その際にFBグループをつくり、大学のカリキュラムや生活物品の売買などの情報を交換するなど、お互いに学生生活の負担を減らしたり、機会を共有する関係を築けました。


5.その他

ノリッジの街は中世にはロンドンの次に栄えた時代があり、教会の数がイギリスで一番多い(織物産業で栄えた人が天国に行くため教会にどんどん寄付したため)など趣のある街並みを楽しむことができます。ただし、バスの運賃は高いため、街中に行くには自転車はあった方が便利です。新学期始まる前に前年度の先輩から安く購入することをお勧めします。食事に関しては、外食は高く質もいいとは言えませんが、スーパーで販売している野菜等は安いです。寮で自炊する人はキッチンでの国民性の違いや勢力争いに直面することもあるかと思いますが、頑張ってください(笑)


6.留学をめざしている人へ一言

留学は楽しいだけでなく、準備にあたり将来の不安や大学の入学条件など様々な問題に直面したり、現地でも授業や語学、生活環境などの面で苦労しますが、留学後のキャリアにこそ留学の目的があると思うので、自分もまだ志半ばですがめげる時があっても立ち上がって頑張ってもらえれば。特に、もしインパクト評価を学びにUEAに留学する方がいればIDDPやFacebook等を通じて連絡を貰えれば嬉しいです。