「MSc Economics and Finance for Development, Bradford Centre for International Development」University of Bradford

(ブラッドフォード大学 「開発学部 開発経済学・開発金融学 修士課程」)

砂原 遵平(すなはら じゅんぺい)さん

執筆:2018年4月

1. 自己紹介

大学時代に学んだグラミン銀行のGroup Lending Modelの成功例に影響を受け、金融サービスを通じた経済・社会開発に興味を持ち、まずは国内の金融機関にて中小企業への融資や助言、財務分析に従事。その後、開発途上国におけるマイクロファイナンスの現状を経験的に理解するため、青年海外協力隊として2年間マラウイ農業省に配属され、農村金融の普及・改善活動に取り組む。活動の傍ら、マラウイ農村金融のリサーチ及び論文の執筆に従事(2017年3月、JICA研究所の刊行物として公開)。帰国後、開発銀行や国連機関での就職を視野に入れ、経済学・金融学的側面から開発学を学ぶためブラッドフォード大学院へ進学。卒業後はJICAを経てOECD日本政府代表部(フランス・パリ)に専門調査員として就職。現在に至る。


2. 所属コースの概要

Bradford Centre for International Development (BCID) は開発学に特化した3つのコースから構成されており、その内の1つであるEconomics and Finance for Development に所属。BCIDの特徴は、多様性がまず挙げられる。約50名の学生から構成され、出身地はアフリカ、中東、欧州、アジア、中南米と多岐に渡る。また、途上国から来ている学生の多くが世界銀行やイギリス政府からの奨学金を獲得しており、経歴や学歴も様々。多くは政府機関、金融機関、国連機関、民間企業、NGOの出身者であり、一部、ダブルマスターやPh.D.取得者も在籍。教授陣もイギリス、インド、イラン等の出身者で構成されており、多様性に富んだ環境の中で開発学を学びたい学生にとっては適した環境と言える。Economics and Finance for Developmentの必修科目には、統計ソフト(Micro-Fit, EViews)を使ったデータ解析や、Project Financeに関する実践的なシミュレーションゲームを取り入れた科目が含まれている。理論のみならず、統計ソフトやExcelを使用した実践的な方法論が学べる点、また多様性に富んだ本学ならではの環境の中、研究に従事できる点も魅力の一つと言える。


3. 授業の概要

・授業名:Quantitative Methods (Term 1)

・内容:計量経済学に準じたデータ解析。講義→実践演習→小テストといったサイクルで授業が展開。実践演習では、Micro-Fit, EViews を使用し単回帰分析、重回帰分析を実施。回帰分析におけるoutlier, multicollinearity, autocorrelation, heteroscedasticityといった問題点を考慮・修正し、適切な分析結果をいかに導き出せるかが評価の対象。数学や統計学の前提知識があるに越したことはないが、演習を通じて実践的に理論を理解することが重要。履歴書でアピールできる統計ソフトの習得が期待できる点も利点の一つ。


・授業名:Project Finance and Appraisal (Term 1)

・内容:プロジェクトファイナンスの実行・評価手法に関する講義及びグループワークによる実践演習。複数回にわたる講義の後、開発途上国における仮想の農村開発プロジェクトが与えられ、3人1組によるグループワークを実施。プロジェクトの妥当性についてCost Benefit Analysisを元に、適切な正味現在価値(NPV))、内部収益率(IRR)が算出できるかが評価の対象。また、Sensitivity Analysisを元に、各支出に対する不確実性が適切に導きだせるかも評価の対象。多様な経歴をもった学生とのグループワークを通じてプロジェクトファイナンスの一連の流れについて理解でき、財務分析や評価手法の実践的理解も得られる。


・授業名:Project Appraisal and Economic Analysis (Term 2)

・内容:プロジェクト評価・経済分析に関する講義及びシミュレーションゲームによる実践演習。複数回にわたる講義の後、4人1組によるシミュレーションゲームの実施。仮想の開発途上国において、グループごとに担当するセクター(農業、医療、教育、道路等)を選択し、それぞれが計画立案したプロジェクトが財務的、経済的、社会的にどの程度効果的かを分析。最終的にプロポーザルを作成し、政府(教授が担当)、開発銀行(教授が担当)、他セクター(他のグループが担当)に対してプレゼンテーションを行い、収益性、経済性、社会性の全てを包括した妥当性のあるプレゼンが提供できるかが評価の対象。プロポーザルを仕上げるための必要な情報は予め用意されておらず、教授が担当する各アクター(各省庁、開発銀行、民間セクター、NGO)から必要な情報・データを聞き出すところから始まる。その後、プロジェクトの立案→財務分析→社会的評価→経済的評価→プロポーザル作成→プレゼンテーションと進む。仕上げまでかなりの時間と労力を費やすが、実践的なプロジェクトファイナンスを包括的かつ実践的に学びたい学生には最適な授業と言える。


4. その他

大学から徒歩10分ほどのところにある学生寮に在住。徒歩圏内にスーパーやパブ、レストランもあり、生活面での特段の不都合はない。一方、少々治安が悪い地域と言われており、夜の外出にはある程度の注意が必要。

前述した通り、ブラッドフォードの街並みは多様性に富んでおり、英国、中東文化の混在したユニークな街並みが垣間見える。また、ブラッドフォードは比較的物価が安い地域と言われており、中東・アジア系の食材も容易に購入できる。周辺にはLeeds, York, Manchester, Liverpoolなどの観光地があり、日帰りで行くことも可能。


5.留学をめざしている人へ一言

大学院留学では研究、フィールドワーク、ボランティア、インターン、ネットワーク作り等、その後の進路に繋げられるあらゆるオプションが用意されている。そのため、留学前に自身のプライオリティを明確にしておくことが重要。自身の能力を把握し、修士課程修了後の進路を明確に見据えた上で、どのオプションをどのようにこなしていくかを事前にリサーチする。事前準備に基づいた一貫性のある有意義な大学院生活を送って下さい。