「MA in International Education and Development」University of Sussex

( サセックス大学 「国際教育開発 修士課程」)

遠藤 楽子(えんどう りょうこ)さん

執筆:2017年6月

1. 自己紹介

2016年聖心女子大学文学部教育学科卒業、小学校第一種教員免許取得。

教育開発に興味を持ったきっかけは、高校3年生の時に参加したフィリピンスタディーツアーで貧困層の教育を受けられない子供達を目の当たりにしたことでした。

大学時代は、どちらかというと国内での初等教育を中心に学びながら、ESDや教育開発の基礎を勉強しました。大学時代の学習活動の中で、教育開発を専門にしっかりと学びたいという思いを強くし、開発学で有名なサセックスの大学院への進学を目指すようになりました。

同年の9月から大学院に入学したため、社会人経験はありません。しかし、大学時代に所属していた国際問題啓発を目的とした学生団体での中東(イスラエル・パレスチナ・ヨルダン)やフィリピンへのスタディーツアーと、大学の授業の一環で参加したスリランカスタディーツアー、学生ボランティアとして教授に同行させていただいたACCU主催のインドネシアでの国際会議、東ティモールでの研究調査(JICA研究調査の一環)などは、確実に大学院での学習/研究活動に生かされていたと実感しています。


2. 所属コースの概要

クラスメイトのバックグラウンドは年によって違うかと思いますが、今年は日本人が6人と、イギリス人に並ぶマジョリティでした。クラスは全体で25名ほど、イギリス人と日本人の他にはアメリカ人、インド人、スペイン人、中国人、ドイツ人、オランダ人、ノルウェー人などがいます。年齢はイギリスの新卒22歳から50代半ばまでと幅広い一方、男性は4名のみと非常に少ないです。教育学科自体の男性の人数が非常に少ない印象があります。しかし、性別や世代を越え、グループスタディーを行ったり、先生方を含めクラス全体でパーティーをしたりなど、非常に仲の良いクラスでした。

コースは、秋学期の前半に教育開発のセオリー、後半にポリシーを学び、春学期に実践的な内容を学ぶ流れです。その他に、通年でAcademic Research Skillの授業があります。秋学期は25名全員一緒に授業を受けますが、春学期は、各個人が6つのオプションの中から2つのモジュールを選択し、少人数で学びます(人数によって開講されない授業もあります)。先生方は非常に知識豊富で質問をすれば丁寧に答えてくださります。その点で、ネイティブとのギャップを感じ悩んでいた留学生の友人もいましたが、個人的には、international studentsも勉強しやすい環境だと感じました。一方で、これはコースというよりもイギリスの大学院の特徴ですが、1年でセオリー、ポリシー、実践のすべてを学び、さらに各学期2つのエッセイ(課題の量はコースによって異なります)、春学期修了後の3ヶ月で修論完成、と、とてもタイトなスケジュールで、readingの量も多く想像以上に大変ですし、学びが浅くなってしまっていないかという不安は常にありました。


3. 授業の概要

・授業名:Theories of International Education and Development

内容:教育開発のベースとなるセオリーを勉強しました。例えば、Multiculturalism, Globalisation, Post-colonisation, Post-modernisation, Human Capital Theoryなど、まず基本的な概念を勉強し、それがどう教育開発の分野に関連するかを学びました。

感想:授業の大半が講義形式だったため、また日本語でも理解の難しい概念の理解を1授業につき平均100ページほどの分量のreadingを熟さなければいけなかったために、もっと実践的なことが学びたいという思いもあり、初めは少し退屈に感じることもありました。しかし、だんだんとreadingのコツも掴めてきますし、その概念がいかに教育開発の実践に繋がるかを考えると、奥が深かったです。このあとに続くPolicy and Practice Issues in International Education and Developmentでは、SDG Frameworkなどのポリシーと実践の結びつきを勉強しましたが、その際にもセオリーは役立ったと思います。

・授業名:Curriculum, learning and society

内容:秋学期の6つの選択肢の中から選んだ授業の1つでした。内容としては、低・中所得国におけるカリキュラムの問題・開発、そしてそれがポリシーや実践にどう関連するかというものでした。

感想:実際の各国でのカリキュラムの現状と開発の例を見ながら授業が進んだため、前期よりも実践的な内容でした。個人的には、カリキュラムが学習者と市民のアイデンティティにどう影響するか、というテーマが興味深いもので、教育による、紛争後の多民族社会における市民のアイデンティティ構築・平和構築が興味の中心となりました。それが修論の”Overcoming Ethnic Division in a Post-Conflict Society: To what extent is teacher training essential to democratic and civics education in Kosovo? ”(コソボにおける市民教育実施のための教師教育)というテーマに繋がったと思います。

・授業名:The Global Governance of Education and Conflict

内容:秋学期の6つの選択肢の中から選んだもうひとつの授業でした。元々、ポスト紛争社会の教育の再構築などに興味があったので選びました。平和教育に焦点を当て、紛争社会・ポスト紛争社会においてそれがどのような役割を果たす(べき)か、どのような実践が行われているかなどをケーススタディーベースで学びました。少人数のクラスだったこともあり、授業は基本的に学生主体で進みました。毎回、2人の生徒が事前に与えられたリーディングリストの中から文献を選び、授業当日にその文献を元にプレゼン、後半に先生が補足授業やディスカッションするという形で授業が進みました。

感想:学生主体だったので、プレゼンやディスカッションを通して自分たちの深めたいところを深められたのが非常に良かった点だと思います。先生の補足授業や授業外でのコミュニケーションもとても丁寧でしたし、全体的に良い雰囲気のクラスでした。ディスカッションの中で、現場経験のある学生が率先して流れを作ったり発言したりしているシーンが多く、現場経験の少ない、もしくは無い学生は一方的にインプットされる側になってしまうので、知識を事前に他の文献で補ったほうがより授業が充実したものになるという印象は受けました。


4. 大学紹介

街からバスもしくは電車で20分ほどのキャンパスは、緑に囲まれ、野うさぎやリス、キツネなどさまざまな動物を見ることもできます。試験・エッセイ期間になると、図書館(清掃の入る金曜日の夜と長期休み以外は基本的に24時間開館)やコンピュータークラスタールームに多くの学生が深夜から早朝まで勉強しています。また、多くの学生がキャンパス内の寮に住んでいます。学内にスーパーがひとつ、生協、メインの学食が2つ、パブ、カフェも多くあります。留学生も多いですが、留学生の大半は中国人という印象があります。特に理数系の学科は大半が中国人だそうです。学内や寮で人数の多い中国人とうまく関わって行くことが留学生活のひとつ鍵になるかもしれません。一方で開発系の学科は、サセックスは開発学において世界一ということもあり、学生のバックグラウンドは多様で勉強しやすい環境です。


5.その他

ブライトンは学生にとってとても住みやすい場所だと感じます。街は、海辺ののどかな街で、人もおおらかな人が多いイメージです。移動はバスが便利です。ロンドンに比べ学生が多く、ビジネス街という雰囲気はありません。物価も全体的にロンドンより少し安いです。ブライトンはLGBTQ(性的マイノリティ)の聖地と言われていますし、音楽やアートといった様々なカルチャーにも触れることができます。ロンドンでキャンパス周辺、つまりロンドン中心地に住もうとするとやはり生活費が非常に高いため、中心から電車で40分から1時間ほど離れたところに住む学生は多いようです。しかし、ブライトンは小さくどこに行くにも1時間かかることはまずないので、通学時間に時間を取られて友人と時間や勉強時間が減ってしまうということはないと思います。


6.留学をめざしている人へ一言

これから大学院留学を考える方は、今一度、それが自分が本当にしたいことなのか、何のために大学院留学が必要なのが問いただしてみてください。大学院に進学をしたら、その分野を学びたい学生が集まってきて議論を交わす日々、毎日その分野に関する文献を読む日々が待っているので、そこで本当にやりたいことでなければしっかり意見を言うことも出来ないですし、モチベーションを失って自分が辛くなると思います。

また、渡英前にまだ時間や機会があれば、自分の研究分野に関連する文献を読んだり、活動を積極的にしてみたら良いかと思います。そういった経験が、大学院受験の際のエッセイや履歴書の中で活きてきますし、修士課程での授業や課題の中でも活きてくると思います。

実際の大学院生活は、想像以上の量のreadingとwritingの繰り返しで、1年ではなかなか自分の研究したいことを追求できず、窮屈に感じたり大変だと感じることも多いかもしれません。周りにも、勉強以外にも人間関係やカルチャーショックなどの問題を抱え、理想の大学院生活と現実のギャップに悩んでいた友人も多かったように思います。

留学の前段階を含め、もちろん上手くいくときばかりではありません。私はそういったとき、自分がなぜ大学院留学をしようとしている/したのか や、その先の目標を明確にするために、今まで行ってきたスタディーツアーの記録を振り返ったり、ユネスコとJICAで学生ボランティアをさせて頂いた時のノートを読み返したりして原点に立ち返ることで、モチベーションをキープしていました。 また、短い休暇を使ってイギリス国内や周辺諸国に遊びにいくことも、イギリスにいるうちにしかできないことですし、良いリフレッシュになります。

そして、一緒に頑張っている仲間がいることを忘れずに、支え合いながら、そしてなかなか経験できることでもないのでその大変な状況を楽しみながら、充実した大学院生活を送ってください。何かあったときは、卒業生にも頼れるということも思い出してください。