「MSc Migration, Mobility and Development」School of Oriental and African Studies, University of London

(ロンドン大学 東洋アフリカ研究学院SOAS 「移行モビリティと開発 修士課程」)

田中 杏(たなか あんな)さん

執筆:2017年4月

1. 自己紹介

国際基督教大学(教養学部アーツサイエンス学科 国際関係学専攻)

大学3年次に交換留学でアメリカに行き、移民労働者の働きがい、移民の経済的政治的背景、人権に興味を持った。

2. 所属コースの概要

各国の移民政策や送金システム、経済的・文化的に見た人の移動性、グローバル化と農村から都市への移動の関連性などについて理論とケーススタディを交えて学ぶ。エッセイとプレゼンテーション、学期末試験で成績が決まる。難民キャンプで働いた経験のある人や国際機関にいた人、ジャーナリストととしての職務経験、海外での様々なボランティア経験のある人などが揃うため、議論のレベルが高く、理論に対する批判的思考が常に求められる。ただ、過激的な思考の人も少なくないため、プレゼンテーションなどで共同作業をするときはラディカルな意見とのすり合わせが結構大変。でも皆意欲的な人たちばかりで、国際機関に対して批判的な新しい意見が聞けるという意味ではとても参考になる。友好的なのでお互い意見を貫きながらもクラス全体の雰囲気はいつも良い。


3. 授業の概要

・授業名: 移民と政策 (optional course)

内容: 移民の送り出し国と受け入れ国の政策比較、移民労働者の人権、送金と発展途上国の関わりを中心に学ぶ。ロールプレイやディベートも行う。

感想: 10週間という限られた時間内でのコースだったが政策的観点で移民の開発を考えることにフォーカスした授業だった。あまり政策提言を中心とした授業はsoasの院の授業では見られないのでガバナンスに興味がある人にはオススメ。ただ周りの学生は資本主義全否定のラディカルな学生が多い。

・授業名: 移民と開発(core course)

内容: 移民の定義、短期労働者システムの問題点、都市化と移民、ソーシャルネットワーク理論における移民の解釈、労働者の女性化など人の移動に関わる歴史的背景、政治的背景、文化を批判的に議論する。グローバル化や資本主義批判につながる内奥が多いが、中でも都市開発に誘発された強制移動の授業が面白い。

感想: おすすめな授業。「移民の移動性と開発」をプログラムとして選ばない限り、この授業を選択することはないが、移民や難民の勉強がしたい人にとっては理論からしっかり学べる貴重な授業。

・授業名: 開発の政治経済学

内容: 開発途上国における経済成長、社会福祉やガバナンスを語るときにこれまでの植民地支配の歴史や新古典派経済学、新自由主義やケインズ主義者がそれぞれの理論をもとにどのような政策を推進してきたのかを議論する。それぞれの理論における問題点を開発における様々な問題とつなぎ合わせ、あるオルタナティブな政策や改善点を探る。マルクス主義経済学にもう一度フォーカスして開発学におけるその意義を見直す視点がsoasで行われる授業の特徴。

感想: 経済をあまりきちんと勉強してこなかったが、初めて経済学を楽しいと思った。エッセイ2本と学期末試験をこなすことは精神的にも体力的にも信じられないくらい辛い時期を越えなければいけないということ。経済学の理論だけではなくてケーススタディや開発におけるあらゆる観点を見なければいけない(教育と保健、農村の貧困、農業、都市化工業化、課税の仕組み、経済危機と開発、労働経済学などなど)ので初めは頭が混乱するが、グループスタディの機会を設けて積極的にわからないところを共有して教えてもらうとかなり助けになる。

4. 大学紹介

校舎が3つしかないかなり小さな大学。学生もデモや議論に積極的な姿勢の人が多いのでかなり刺激になる。日本の大学ではICUは割と自由でリベラルな大学だと思っていたが、さらにその上をいくのがsoas。マルクス経済学を用いた現代の資本主義批判をこよなく愛する人もいれば、国家中心的な移民政策に反対するあまり国境なきユートピアの世界を夢見る学生もいる。学生は皆頭が良く、個人がはっきりとしたアイデアを持っている。自分とは違う人種の人だ、と思っても相手の意見を聞こうとする積極的な人が多いので超リベラルな環境に飛び込んでみたいという方は是非。ただし自分もちゃんとした意見を持っていないとただ相手の意見に流されてしまう(みんな押しが強い)ので本当に議論しているレベルが高いです。

5.その他

初めはキングスクロス駅の近くにある学生寮に住んでいたが、家賃があまりにも高いので友人の家に2週間ほど居候しながら新しい家を探し、今は50代のムスリムの大家さんと一緒に暮らしている。大家さんはアルジェリア出身の移民で、ロンドンで暮らして25年以上の薬剤師さん。キッチンとトイレ、お風呂はシェア。家にいる時は一人の時間を大切にしたい、と思う人だったら、フラットに住むよりもスタジオタイプのようにお風呂とキッチンとトイレがすべて自分専用の個室タイプの部屋に住むのがオススメ。ただし家賃はかなり高い。キングスクロス駅から歩いて10分のところにsoasの学生寮があり、たいていの院生はそこに住んでいるので夕飯を一緒に食べたり勉強するにはその寮が最適。


6.留学をめざしている人へ一言

留学に対してあまり高い理想とか夢を抱かずに、ただ今までとは全く違う世界に飛び込んでみて自分の学びたいこと、できることを無理せずでも持続的に取り組むことが一番だと思います。何を目標に留学するかは一人一人違うので、あれをしなきゃこれをしなきゃと焦るよりも留学という非日常的な時間と空間にいるからこそ冷静に一つ一つ取り組んでみたらいいと思います。特に大学院はすぐにストレスが溜まったり時間に追われて生活が不規則になりがちです。そんな時にはいつでも周りの友人や先生を頼ったらいいと思います。絶対に充実した一年になることは保証できます。学んだことも出会った人も、一生の財産になると思います。