「BA Econ Development Studies」University of Manchester

(マンチェスター大学 「開発経済学 学部間交換留学」)

立澤 直也(たつざわ なおや)さん

執筆:2017年4月

1. 自己紹介

今回のマンチェスター大学における1年間の交換留学は、タンザニアの地方部において既存産業(農業等)以外の産業を生み出すことで同国の若年層を取り巻く失業問題を解決するという目標を軸に、この問題に対して学術面ではどのような議論が行われているのか学ぶことが目的である。私は保育園時代の文化交流イベントで得たアフリカ文化の華やかな印象と裏腹に、小学校で多くの社会問題を抱える現実にアフリカが直面していることを知り、アフリカの発展に貢献したいと思うようになった。小・中学校では募金・リサイクル活動を運営することで日本国内からアフリカの発展に貢献する方法を模索したが、徐々にこうした活動の影響力に疑問を抱き始めた。そこで学部1年の春に教育ボランティアとして私はタンザニアを訪れ、現地NGO職員へのインタビューから国内における若年層の失業問題が深刻であることを知った。加えて、専門性を持たない自分が短期間で何らかのインパクトをタンザニアに与えることは不可能だったと痛感した。以来、私はタンザニアの失業問題の原因と解決策を学術面から学びたいと思うようになった。

そこで私はタンザニアにおける若年層の失業問題を軸に開発学の学習に注力できる環境を整えるため、開発分野において世界でも有数の教育水準を誇るマンチェスター大学を学部2~3年にかけての交換留学先として選択した。


2. 所属コースの概要

マンチェスター大学では正規生、留学生関係なく幅広い選択肢の中から自分の目的に会った科目を選択することができるうえ、多種多様なバックグラウンドを持った学生に囲まれて学習を進められる。

マンチェスター大学における交換留学生はIELTSのスコアが水準を超えていれば、学年関係なくいかなる授業をも選択することができる。スコアの水準はコースによって異なるので、渡航前に履修したい授業と照らし合わせて確認する必要があった。

自分が主に履修していた科目はSocial ScienceのDevelopment Studiesというコースに準ずる科目だったが、Economics, Politics, Sociologyなど幅広い分野から学ぶことが可能である。1科目当たりの単位は10あるいは20で、1セミスターに50~60単位を取得することが必要だ。1回分の授業は原則60min×2のレクチャーと60min×1のチュートリアルで構成されており、レクチャーは大講義形式でインプットが、チュートリアルはグループディスカッション形式でアウトプットが目的だ。

クラスメイトは世界中から集まっているが、学年が上がれば上がるほど留学生の数が少なくなる印象があった。加えて高校卒業直後にマンチェスター大学へ進学した学生だけでなく、ギャップイヤーを経験した20代の学生や社会人経験を持つ学生も多く存在した。このように科目・学生共に多様性に富んでいることがマンチェスター大学に設定されているコースの特徴であるということができる。


3. 授業の概要

・授業名:Introduction to Development Studies

内容:アダム・スミスやアマルティア・センをはじめとした社会科学者の開発問題に対する考え方を幅広く学ぶことで、開発の意味やそのはかり方を知ることが目的。

感想:Case StudyよりもTheory重視。開発学の歴史的な流れを広く抑えているため、本授業と合わせてとったDevelopment EconomicsやThe Politics of Developmentで深掘りした考え方が歴史的にどのような立ち位置にあるのか俯瞰できた。

・授業名:Development Economics IIA

内容:経済発展のプロセス、発展途上国における貧困・格差を分析するための経済モデルや理論を学ぶことで、様々な視点から経済理論・開発問題を評価できるようになることが目的。

感想:主にマクロ経済の視点から経済モデルや理論を学んだことにより、一国内の経済・社会発展のプロセスにおいてどのような変化が起きているかを考える機会になった。国を超えた経済・社会発展を考察するDevelopment Economics IIBを学ぶ上での前提知識を得ることができた。

・授業名:Development Economics IIB

内容:国際経済において発展途上国が直面している諸問題を理論・実例の両面から学ぶことで、国際経済において発展途上国がどのような立ち位置にあり、それがいかにして同国の発展・意思決定に影響しているのかを評価できるようになることが目的。

感想:主にミクロ経済の視点から理論を学び、これらの理論が実例をどの程度説明できるか検討した。Householdや村・個人単位での意思決定、国を超えた経済・社会発展がいかになされるのかに着目し、国単位の発展に焦点を当てたDevelopment Economics IIAからさらに開発の視点を広げて学ぶことができた。

・授業名:The Politics of Development

内容:現代社会の開発問題に関して交わされる学術的な議論を概観し、理論的な側面から発展途上国における事例検証を行うことができるようになることが目的。事例検証のトピックとして人道支援・ジェンダー・国際機関などを扱う。

感想:TheoryよりもCase Study重視。まずDevelopment Economics IIA IIBで学んだ理論と関連づけて、「開発とは?」という問いに対して理論の側面からどのようなアプローチが可能か分析する。そのうえで、こうした議論が現実世界においてどの程度応用できるか考察する。これらを通して、他の開発分野に関する授業で学んだ理論と実態との関連性を検討するいい機会になった。

・授業名:Environmental Economics IIA

内容:新古典派主義経済学と現存する環境問題との関連を学ぶことで、環境問題とそれらの解決を目的として導入された政策や方策を学術的に評価できるようになるのが目的。

感想:環境問題が経済活動にどのような影響を与えるのか、環境問題から生まれた悪影響をどのように緩和することができるか、これらの問題を解決するために導入された政策・制度は経済学の観点からどのように評価することができるか検討した。The Politics of Developmentにおける事例検証のトピックのひとつが「環境と持続可能な発展」だったため、本授業で検討した諸課題が開発といかに関連しているかを考察するための土台を作ることができた。

・授業名:Education and Society

内容:社会学とかく教育に関する理論に触れることで、ジェンダーや人種といった諸要素が一般教育・学校教育にいかなる影響を与えているのか、かつ学校教育が個人のアイデンティティ・社会的価値をどのように形成しているのかを分析できるようになることが目的。

感想:自分の卒論テーマかつ将来の目標軸であるアフリカの失業問題が教育から生まれると仮定し、それを実証するために教育に関して学術的にどのような議論が行われているのか検討することが本授業をとった理由である。授業では実際に教育それ自体だけでなく教育と社会との関係性にも言及し、教育と失業問題に一定の関連性を見出すことができた。

・授業名:Work, Organisation and Society

内容:フォーディズムからポストフォーディズムへの移行をはじめとしたWorkに関するトレンドの変化を社会学の観点から分析し、Workと人々の生活がどのように関連しているのかを評価できるようになることが目的。

感想:アフリカの失業問題が労働環境や経済システムそれ自体に起因すると仮定し、それを実証することが本授業を履修した目的である。Forced Migrationとの関連から、社会的に弱い立場にある労働者が失業のリスクを負っていることを知り、そのうえで労働環境・経済システムの観点からなぜ彼らが社会的に弱い立場に追いやられたのか検討する機会となった。

・授業名:Forced Migration

内容:Forced Migrationに関する法的・学術的フレームワーク学び、実例検証を通してそれらがForced Migrantsにどのような影響を与えているの評価できるようになることが目的。

感想:Forced Migrantsはアフリカにおける失業リスクが最も高いアクターのひとつだと仮定し、彼らがなぜ自国を追いやられ、移動後もなお社会的に弱い立場にあるのかを検討することが本授業を履修した目的である。Education and SocietyとWork, Organisation and Societyと関連づけることで、こうした課題を体系的に検討することができた。


4. 大学紹介

マンチェスター大学はマンチェスターの街全体に広がった3つのキャンパスから成り立っている。加えて大学は10つの図書館と1つのラーニングコモンズを保有しており、多くの学生がこうした施設を利用して日々の学習に勤しんでいる。そのほか外部講師からのアカデミックレクチャーやキャリアセミナーなども毎日のように開かれ、大学の講義以外の学習も充実している。例えばマンチェスター大学の開発学研究機関GDIが主催するレクチャーにはマスターの学生も多く参加するため、新たな学びを得られるだけでなくキャリア相談をする人脈形成の場としても機能している。

さらにキャンパス内では毎日のようにイベントが開かれ、毎週火曜日に開かれるフードマーケットには多くの人が集まる。SocietyやAccommodation主催のイベントも盛んで、新たな友人を作ったり日々の勉強の疲れをとったりするいい機会となっている。大学の建物は歴史を感じるとモダンなものとが共存している印象を受ける。大学保有の美術館・博物館も存在し、のんびり過ごしたい休日に使わない手はない。このように勉強と遊びとのバランスがうまく取れる環境がマンチェスター大学には整っている。


5.その他

私は大学保有のWeston HallというAccommodationに滞在していた。キッチンは7人のフラットメートとの共有だったが、それぞれがトイレ・シャワー付きの一人部屋を持っていた。フラットメートは全員学部1年の正規生で、イギリス人4人、香港・ミャンマー・コロンビアから一人ずつ。長期休暇中を除いてはほぼ毎週パーティーがあった。

大学だけでなく街では様々なバックグラウンドを持つ人を多く見かけるため、マンチェスターの多様性を受け入れる姿勢には日々感心させられていた。街の建物も産業革命発祥の地だというだけあって、そういった時代を思わせる赤煉瓦の建物が数多く現存している。大学を中心に街全体を楽しめるのがマンチェスターのいいところだと思った。


6.留学をめざしている人へ一言

留学中にできることは勉強だけではありません。特に交換留学の場合、短期間だからこそ留学中に何をどのようにするのか、なぜそれをしたいのか、それを帰国後どのように生かしたいのかを明確にすることが重要だと思います。時には躓くこともあると思いますが、様々な方にアドバイスをもらいながら充実した留学生活にしていってほしいです。自分の場合、学部2年からの留学だったこともあり周りに自分よりも経験豊富な方が多くいらっしゃいました。今ではそういった方々からのアドバイスや協力もあって、中身の濃い1年間を過ごすことができたように思います。こうして時には楽しく、時にはもがき苦しみながら悔いのない留学生活を送ってください。心から応援しています。