「BA History and Development Studies」SOAS University of London

大澤 さん

執筆:2016年4月

1.はじめに

私は、日本の高校を卒業後渡英し、SOAS, University of Londonに於いて一年間のファンデーションコースを修了し、同大学学部課程に進学、開発学と歴史学を専攻するに至りました。私には高校卒業まで、特にこれと言った海外経験がありませんでした。今回はそんな私が、現在の進路を選んだ4つの理由と、それを4年後の今どう感じるかを書かせていただきたいと思います。

2.イギリス進学を選択した理由

1)日本国内の大学では学ぶことのできない、広領域的な開発学を学びたかったから

SOASに限ったことではないかもしれませんが、イギリスの開発学部の特徴として、一年次必修として「開発学概論」的な授業があり、全学生は開発学のトピックを網羅的に学習します。

開発学理論、開発効果測定、保健学、人口学、移民問題、ジェンダー、国際機関、環境問題、NGO等々トピックは週替わりであり、2時間のレクチャーでは概観を掴み、興味に応じて、課題図書を読み進めることになります。

4年間かけて開発学を学ぶのであれば、専攻外について知見を持っていることも必要であると私は思いました。というのも、開発学は、言ってみれば国の成長に関するすべてのこと含み、それぞれが深くかかわりあっていることが必然であるからです。

また1年次に履修するため、この授業で開発分野を俯瞰することにより、自らの専攻分野を絞っていく学生も多く存在します。

2)高いレベルで、さまざまな国籍の人たちと英語でコミュニケーションを取れるようになりたかったから

英語をネイティブで話すのは、英・米・加・豪・新くらいですが、ヨーロッパ大陸にはネイティブ並みの英語を話す人がたくさんいますし、特に開発分野で考えてみると、英語はいわずと知れた、国連公用語であり、さらにアフリカにはかつてのイギリス植民地が多く存在し、そこでは英語が公用語として使用されています。

つまり、開発分野で生きていくとき、ネイティブの人と英語で話す機会より、ネイティブでない人と英語で話す機会の方が多いと考えられます。さらに、私が高校時代、英語が全く得意でなかったというのも大きな理由のひとつです。

とにかく海外とかかわれる仕事をしたいと考えていたのに、高校一年生の英語の成績はあまりよくなかった記憶があります。きっと私は、一年くらい留学しただけじゃ英語を使えるようにはならないだろうと、自虐的な確信を持っていました。

3)特に途上国関連分野において、世界各国にネットワークを作りたかったから

高校生のときに、国際機関で働く日本人たちの体験談をまとめた本を読みました。数十人の体験談の中で、多くの人に共通していたのは、その方面で人脈を構築していたこと、構築しようと弛まぬ努力をしていたことです。彼らのネットワークは日本人コミュニティだけに限らず、米国人・英国人などの常任理事国、ドイツなどの非常任理事国まで多岐にわたっていました。イギリスには毎年世界中から開発学を学ぶために学生が集まるので、ここはいいもしれないと思いました。

また、単純にアフリカの食や、歴史、そんなことを共通の話題として話せる友達がたくさんできたら楽しいなと思ったのも確かです。

4)物理的にアフリカとの距離を縮めることで、アフリカに知見のある教授陣やインターンの機会などが期待できると思ったから

どんなに交通手段やインターネットが発達しても、物理的な距離や歴史的な背景からくる影響はあります。ヨーロッパからケニアまでは直行便で7時間。ちなみに日本からだと中東乗換えを含めてだいたい20時間かかります。歴史的にもヨーロッパは19世紀からアフリカ大陸に目を向けて開拓、統治してきました。その歴史に関してはさまざま意見もありますが、彼らがそこで得た知見や築いた土壌は未だに強いのではと思ったのです。教授の研究についていったり、教授の知り合いのツテを使ったりできるのではという、他力本願気持ちがありました。

3.実際にはどうだったのか

上のような考えのもとに、イギリス進学を決定したわけですが、もちろん想像以上だったこと、想像と違ったことがたくさんあります。上に書いた4つのトピックを中心に、留学生活について書きたいと思います。

1)広い領域的な開発学って結局

進学してすぐから期待していた開発学概論が始まりました。まず第一に、これはかなりハードな必修科目という印象を受けました。わかってはいましたが、毎週全く違うトピックを扱い、1週間で深堀りするというのは、他の科目の課題状況によっては十分に思考する時間がなかったり、時間があっても読書量としてすくなくとも週100ページは読まなくてはなりません。しかし、やはり内容につまらないことなど何もなく、かなり図書館に缶詰になったものです。

そして忘れてはならないのが、これは概論であるということ。開発学の氷山の一角であり、これを学んでも、話がおもしろい人になれるくらいです。よく言われる話ですが、なんの専門性もありません。だから、誰しもが初年度に概論を学び、自らの興味分野を選ぶのです。それでも専門性は頭打ちします。たとえば、保健学を専攻しても、看護師や保健師の資格を取れるわけではなく、どこかでジェネラリストとして、調整役や企画屋に回ることになるでしょう。

私が通っていた学部では、開発のほかにもうひとつ専門を選択をするの必須で、私は歴史学を専攻しました。

歴史学といっても、エジプトのファラオがとかそういうのではなく、私が学んでいたのは、アフリカ独立や内戦等の20世紀史でした。これは本当に正解だったというか、まだ私も明確に答えが出てるわけではないのですが、20世紀史はやはり今の時代を読むのに大きく影響しているのは想像できるかと思います。ですので、開発学という魅力的な言葉に惑わされず、ぜひ他の興味を探ってみていただきたいと思います。開発学は究極的にはどんなトピックからでもかかわることができます。物理や科学、情報科学、開発の世界には理系学生もいくらでもしますしね。

2)英語が書けるということ

英語に、大きく、書く読む聞く話すの4つのスキルがあるとします。イギリスに4年住んで、どのスキルも伸びましたし、これから英語を使って仕事をするとすればどのスキルも重要だと思います。ただ1年でも2年でもなく4年という時間をかけて英語で学術を学んだからこそ得られたスキルがあるとすれば、一番は書く力、二番目が読む力です。 きれいな英語を書く力というのは一朝一夕には養えません。しかも記録に残るものですから、人の記憶にも残りやすく、多くの人に届きやすいです。また、英語で仕事をする中で、話す力が注目されますが、文書作成を忘れてはなりません。

営業・プレゼン資料を作成する、広報文を作成する、顧客向けにメールを作成する、法務資料の修正する、と言ったことが予想できるかと思います。ここできれいで正しい英語を使えるというのは大きな強みです。英語ができるだけでは確かにだめなのですが、英語でアウトプットができることは、現実的に大きな強みです。いくら考えても思い通りにアウトプットできなかったら本末転倒ですからね。これは日本企業で働いてみて、MBA卒の社会人10年目ほどの人に負けない強みであると感じました。

3)開発分野での日本人とのネットワーク作り

次項に広いネットワーク作りについて記載するので、ここでは特に日本人とのネットワーキングについて書きます。開発分野における日本人の人口は、国際機関の職員数等を見ても少なく、研究者もまた少ないと思います。しかし、ロンドン・イギリスにはその人材が比較的集中しやすいのです。いつのまにか、アフリカの半分の国には日本人の知り合いが勤務してるような状況になりました。極端に言うと、イギリスで生活するのに、日本人とつながっていることは必須ではありません。なんでもそろっているし、生活する上でわからないことがあっても、学校の友人などに聞けば問題ありません。

しかしアフリカ生活ともなると、ビザのこと、渡航のこと、政治情勢など、緊急時の対応に、現地日本人の知識を重宝する場面が多々あります。また就職やインターン情勢なども教えてもらえるので、今後のキャリア形成では助けられることもあるかもしれません。

4)やはりイギリスからアフリカは近い

結局学術分野ではなく、プライベートセクターに興味を持った私は、教授の研究に付いていくような機会はありませんでした。しかし、特に東アフリカにおいては、消費財から金融まであらゆるイギリス・ヨーロッパ企業が進出しているため、私としては商品や企業の感覚をつかみやすかったです。

またたとえば、ナイロビの在留邦人は600人といわれていますが、イギリス・アメリカのそれは5倍ほどと推測されます。ケニアの現地銀行に勤務しているイギリス人の知人や、イギリスに留学に来ていたインド系ケニア人は親の会社の役員をしていたりします。こういったつながりがこれからどのように使えるかは未知数で、むしろ私自身がいかにそれをうまく使えるかといった変数のほうが多い気がします。

ロンドン大学の同窓会は世界各地、アフリカの都市でも開かれています。こういったつながりは本当に大事にしたいですし、アフリカという知らない土地で、同窓生と飲めるというだけでも、アフリカ生活が楽しくなるのはたしかです。

4. おわりに

イギリスの大学に進学するのが必ずしも正解ではありません。私の周りには日本の大学に進学したすばらしい学生がたくさんいます。イギリスの大学に進学してしまうと、学期中はほぼ勉強に終われて他のことに手を出す余裕がありません。そのかわり4ヶ月というの長い夏休みが与えられます。結局、どちらでも自分次第なのですが、そのためには自分を理解し、自分が一番成長できる場所を選ぶのが、良い進路選択ではないでしょうか。繰り返しですが、勝負は進路を選択した後ですよね。