「MSc Social Development Practice」Development Planning Unit (DPU), University College London (UCL)

椿原 健太郎 さん

執筆:2016年4月

自己紹介

はじめまして。UCL のMSc Social Development Practice(SDP;社会開発実践)に所属している椿原です。他の⽅がUCL やDPU の紹介はされていると思うので、ここでは⽇本語での情報が不⾜しているSDP というプログラムについて、授業内容に焦点を当ててお話したいと思います。

SDP は他のDPU のプログラムと同様に、世界各国から留学⽣が集まっています。ちなみに今年度の同級⽣の国籍は、欧州ではイギリス、ドイツ、オーストリア、中南⽶からは、メキシコ、コロンビア、ベネズエラ、アジアからは、⽇本、中国、インドネシア、ミャンマー、モルディブ、アフリカからはジンバブエと多種多様で計13カ国から21 名の学⽣が在籍しています。今年の⽇本⼈は僕だけでした。

⼀般的に“開発学”というと途上国の発展についてのみを勉強するものと思われがちですが、SDP では途上国開発に重点を置きつつも、現代のグローバリゼーションの流れの中で先進国での社会問題も途上国開発を考えるうえで重要であることから、途上国のみではなく先進国も含めた⼤きな意味での社会問題の解決という意味合いの“社会開発”だと認識しています。

SDP は3 つの必修科⽬と2 つの選択科⽬を提供しているので、それぞれのモジュールについて説明していこうと思います。


BENVGSD1 Social Policy and Citizenship(社会政策と市⺠権)

このモジュールでは、多くの国が新⾃由主義の下で市場の原理に焦点を当てた経済開発を実施し政府の介⼊を最⼩限にとどめようという流れの中でも、経済開発の⽋点を補うために必要な社会政策に関する様々な理論を学びます。

講師・授業構成

講師は、国やシンクタンクに対し社会政策の提⾔・評価などの経験が豊富で、中国やサハリンなどの社会政策を研究・評価などをしていた50 代のイギリス⼈講師。授業構成は、毎回90 分のレクチャー + 60 分のディスカッション・発表。

レクチャーでは講師がスライドを使って主な理論の説明をした後に、ディスカッションでは5〜7 名の⼩さなグループに分かれて、様々な社会開発の実例をその⽇のレクチャーで習った理論に当てはめて他の学⽣と議論します。

講義内容 (キーワード)

Social Policy, Social Protection, Welfare Regimes, Socialism, Neo-liberalism, Human Development, Social Groups, Social Transformation, Citizenship, Globalisation, Accountability, Democracy, Private Sector, Self-Regulation, Civil Society, Expanding Citizenship, Inclusion and Rights

評価⽅法

前期:2000 words エッセイ(40%)

後期:3000 words エッセイ(60%)

感想

個⼈的には理論を理解するのが難しい反⾯、先進国・途上国問わず⼈々の暮らす社会の仕組みを理解できるという点でかなり刺激的でした。 今年度のエッセイに関して⾔えば、理論的な枠組みを⽤いて実際の事象を分析するというもので難しく感じたので、早めにリーディングに取り組むことが⼤事だと思います。


BENVGSD2 Social Diversity, Inequality and Poverty(社会多様性、不平等・貧困)

このモジュールでは、様々な社会の不平等や貧困などの社会問題に関するトピックに焦点を当ててその理論を学びます。主に途上国における参加型開発 というのが全てのトピックの根幹としてあります。

講師・授業構成

講師は、国際NGO などで活動していた30 代のイタリア⼈講師。授業構成は、90 分のレクチャー+ 学⽣主導によるファシリテーション60 分。ファシリテーションパートでは35⼈の学⽣がチームを組み、それぞれ担当を割り当てられた週にスライドやビデオなどを⽤いて、その⽇のレクチャーの内容の理解がより進むように講師に代わってその⽇の授業のファシリテーターとしての役割をこなします。

講義内容 (キーワード)

Social Development, Social Identities, Power, Agency, Social Justice, Social Capital, Participation, Local Knowledge, Intra-community Power Relations, Social Diversity, Urban Governance, Social Development Approaches, Poverty, Poverty measurements, Measuring Inequalities, Multidimensional Poverty Measurement, PRSPs, Cash Transfers, Relational Approaches, Indicators for a post-2015 agenda

評価⽅法

前期:3000words のエッセイ(50%)

後期:2 時間の試験(50%)

感想

参加型開発や貧困・不平等などの途上国開発に関するトピック全般を理論的に学ぶことができ、経済開発のアプローチと社会開発のアプローチの違いというのも鮮明になる授業だと思います。講師も元国際NGO で活動していた経験から、実践的な⾯と理論的な⾯の両⽅をわかりやすく伝えてくれるので、とても有⽤でした。


BENVGSD3 Social Development in Practice(社会開発実践)

このモジュールは、前期はロンドン、後期は途上国でのフィールドトリップが実施されるSDP の中で⼀番メインと⾔ってもいい実践的なモジュールです。このSDP の中で前述した⼆つのモジュールが理論的な側⾯を、このモジュールが実践的な側⾯を担っています。具体的には、前期は2016 年に⾏われたロンドン市⻑選に向けて、ロンドンで家賃が⾼騰する住宅問題に取り組む市⺠運動団体と協⼒し、ホームレス、私⽴の⾼校⽣、UCL の学⽣、イスラム系の学⽣のこの問題に関する⽣の声をPhotoVoice という参加型開発の⼿法を⽤いて集める活動をし、後期は2016 年5 ⽉に17 ⽇間の⽇程でブラジルのサルバドールを訪れ、Participatory mapping などの参加型⼿法を⽤いて現地の問題解決に取り組みました。

講師・授業構成

講師は、SDP のコースディレクターである30 代のブラジル⼈講師。授業はあまり型が決まっているわけではなく、参加型開発⼿法のワークショップやそれに伴うグループでのプレゼン、バックグラウンドを理解するためのレクチャーなど⽇によってことなります。

講義内容(キーワード)

Action Learning Platform, Well-being, Social Change, Space, Identity, Power, Housing Rights, Participatory photography, Digital Story Telling, Exhibition, PhotoVoice, Salvador,Urban Contestations, Everyday practices and Urban politics of recognition, Right to the City,Social Cartography, Critical Urban Learning, Web of Institutionalisation

評価⽅法

前期:3000words のグループレポート(20%)+1500words の⾃⼰評価⽂(20%)

後期:5000words のグループレポート(40%)+1500words の⾃⼰評価⽂(20%)

感想

前期はロンドン市⻑選に直接コミットし、後期はブラジル・サルバドールでのリアルな問題に実際に数ヶ⽉間に渡って取り組み、開発実践家としての活動をプログラムの中で講師のサポートのもとで経験できるので、⼀⽣ものの経験ができるとても有意義なモジュールだと思います。


BENVGSD4 NGOs and Social Transformation(NGOsと社会変⾰)

このモジュールは後期に開講されていて、NGOs の役割や社会変⾰を起こすための可能性について学びます。

講師・授業構成

講師は、必修科⽬のBENVGSD2 Social Diversity, Inequality and Poverty を担当しているイタリア⼈講師です。授業は90 分のレクチャーと60 分のディスカッションが中⼼ですが、週によっては実際のNGOs ワーカーを招いて講演・質疑応答という⽇もあります。

講義内容(キーワード)

NGOs, Projects, Logframes, Tools for social transformation, Accountability, Aid workers communities, Communications, Advocacy, and Policy change, Partnerships north-south and GROs-NGOs, Humanitarianism, Human rights, Private sector, Global Networks, Coalitions,and Global intergovernmental negotiations

評価⽅法

後期:3000words のエッセイ(100%)

感想

SDP の講師が担当なので、SDP の他のモジュールで学んだ理論的な側⾯を⽣かしながら、具体的に⼀貫性を持ってNGOs の役割や開発実践プロジェクトについて理論的に深く考察できるという点が、DPU の他のプログラムの選択科⽬を取るよりも

SDP の選択科⽬を利点だと思います。


BENVGSD5 Communication, Technologies and Social Power(通信、テクノロジー、社会的勢⼒)

このモジュールは前期に開講されていて、技術⾰新によって開発プロジェクトの⼿法にも変化が現れている流れの中で、様々な⽐較的新しい参加型開発のツールについて学びます。

講師・授業講師

講師は、必修科⽬の中の実践的な科⽬であるBENVGSD3 Social Development in Practice を担当しているブラジル⼈講師です。内容も理論というよりもかなり実践を意識したものになっていると思います。授業構成は90 分のレクチャー後に、実際にそのツールを⽤いる演習をします。

講義内容(キーワード)

Social power, Media practices, Social media, Participatory mapping, Photovoice,Participatory video, Participatory photography, Social change, Participatory design, Theatre for development

評価⽅法

前期:3000words エッセイ(100%)

感想

最新のテクノロジーを⽤いた開発のあり⽅を様々な⼿法の理論から学ぶことができ、特にParticipatory Mapping のレクチャーがきっかけでこの⼿法に興味を持ち、実際に修⼠論⽂のテーマにも取り上げました。

この留学体験記では、SDP のプログラムの概要についてモジュールの内容を中⼼に書いてきました。⼊学するためのアドバイスとしては、 ブラジル⼈講師は学⽣を選ぶ基準として「Personal Statement を読んで、将来的に開発実践家として活躍して社会変⾰を起こそうとする意思があるかどうかで選んだ」と書いているので、なんだかんだ“熱意”が⼀番⼤事なんじゃないかなと思います。それでは、少しでも皆さんのプログラムを選ぶ参考になることを願って。