「MSc Urban Economic Development」University of London, University College London, Development Planning Unit

(ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン (UCL) 「都市開発経済学 修士課程」)

赤堀 由佳(あかほり ゆか)さん

執筆:2016年5月

1.自己紹介

日本の大学にて金融、会計学を専攻。卒業後、都市銀行にて主に途上国電力インフラプロジェクトへの融資や財務助言、協調融資等の業務に従事。その後、開発銀行を始めとした国際機関での就職を視野に入れ、2015年9月より1年間アジア、アフリカのインフラ開発分野の専門的知見を政策面からも習得すべく当修士課程に進学。ビジネススクールも検討するも、1年間で集中して途上国の経済開発の勉強をしたかったことと、論文執筆を通じて自らの専門分野を確立したかったこと、そして当プログラムの教授陣と実践的なモジュール、そして何よりアフリカへのフィールドリサーチプロジェクトが必修コースに組み込まれていることが魅力的であったことから当修士課程への進学を決定。イギリス・ロンドンの大学に進学した理由は主に3点。1、現在代表を務めているIDDP(英国開発学勉強会)の活動に以前より関心があり、活動拠点であるロンドンの大学に在籍することで活動に専念するため。2、イギリスの大学で主流である1年間プログラムを希望していたため。3、海外の経済都市が好きで、ロンドンにも滞在してみたいと兼ねてから考えていたため。


2.所属コースの概要

Development Planning Unit(DPU)はFaculty of Built Environmentに所属。DPUでは途上国開発に特化した6つのプログラムを提供している。DPUの特徴として学生は様々な国から集まっており、MSc Urban Economic Development(UED)に在籍する27名の学生の国籍は、アフリカはナイジェリア、ウガンダ、ヨーロッパはフランス、ポーランド、ベルギー、イギリス、オランダ、アジアは日本、中国、インドネシア、北米はアメリカ、カナダ、そして南米からはエクアドル、コロンビアと多様。学生のバックグラウンドも多彩で、主に学部で経済学を専攻していた学生、金融機関出身の学生、開発銀行出身の学生、インフラ関連のコンサルタントや政府系機関から派遣されている学生、その他、社会的起業家や建築会社の職歴を持つ学生も在籍。必修科目は、週1、2回の講義とセミナー、および1ターム目のロンドンでの実際の企業へのコンサルティングプロジェクトと、3ターム目の途上国での現地の大学と提携してのリサーチプロジェクトがある。1ターム目から選択科目を履修でき、基本的にはDPU内のUED含め6つのプログラムから選択できる。DPU以外の学部の教授に早めに連絡を取り、他学部のプログラムを選択した学生もいる。1ターム目で全タームの科目登録をするが、1ターム目の始めの1週間は関心のある講義を聴講でき、納得の上で科目登録することができる。なお、1ターム目の半ばにDPU全体でWindsor城近くの伝統あるロッジにて合宿形式でエチオピアの都市化問題についてワークショップを行う。UED卒業後の進路は国連のJPO、政府系機関、開発コンサルタント等。


3.授業の概要

授業名: Practice in Urban Economic Development (通年)

内容:先進国および途上国の都市部の経済開発に関する調査プロジェクトを実施している教授が担当。都市化に係るあらゆる経済問題をテーマに、まず調査課題の設定方法や分析手法を学んだ上で、ロンドンとアフリカにてコンサルティングプロジェクト形式で実際のケースに適用する実践的な科目。1ターム目前半は調査分析手法についての講義とグループディスカッション。後半はロンドンでのコンサルティングプロジェクトでは、公共交通、都市再開発、低所得層の住宅等のテーマ毎に6、7名でグループに分かれて各コンサルティング先企業が割り当てられる。調査提案書作成と実際の調査、そして企業および教授陣への調査結果発表を行う。2、3ターム目では途上国(今年度はアフリカ・ガーナ)の主要課題毎(ロジスティックス、パートナーシップ、産業開発等)にチームに分かれてプロジェクトを実施。現地でのインタビュー(現地政府、企業、教育機関、金融機関等)では現地大学の学生がファシリテーターとして同伴。現地調査前にプロポーザルの提出、現地ではインタビューとリサーチ範囲やインタビュー方針を幾度か調整。ロンドン帰国後にポスタープレゼンテーションおよび調査報告書作成。教授陣から調査提案書やプレゼンテーションに対し定期的に助言があるため円滑にプロジェクトが進められる。

評価:個人論文(20%)、1ターム目グループプロジェクトのプレゼンテーション・報告書(40%)、2&3ターム目グループプロジェクトのプレゼンテーション・報告書(40%)

・授業名: Public Economics and Public Policy (Term 1)

内容:世界銀行出身で欧州のビジネススクールでも教鞭を取る教授が担当。マクロ・ミクロ経済学を浚いつつ、政府の政策が途上国経済にどのような影響を与えるのかを学び、そして実際のケースを元に政策分析と立案を行う。講師はエコノミストとしての豊富な経験から解説するため実践的。講義は隔週に2回3時間。講義は教授によるプレゼンテーションと教授が投げかける質問に対し皆で議論する形式。チームに分かれ課題を解き発表する形式の場合もある。経済学の基礎知識は必要。教授の話すスピード(頭の回転の早さ)はネイティブおよび英語が堪能な留学生でも追いつけないことがあるが、質問には迅速かつ丁寧に対応してくれるため心配ない。

評価:個人論文(100%)

・授業名: Sustainable Infrastructure and services in development (Term 1)

内容:ラテンアメリカの公共交通や上下水道インフラ問題について現場経験のある教授が担当。インフラサービス供給に関する途上国の貧困層の直面する問題について理解を深める。教授の関心分野がラテンアメリカの公共交通および上下水道インフラであるため、テーマは多少偏り気味ではあるが、他地域でも見られるインフラサービス供給に係る過去から現在に渡る議論を俯瞰できる。講義は週1回3時間。前半は教授による講義や教授の撮影した現場のドキュメンタリーの鑑賞。博士課程の学生やその分野の専門家がゲストスピーカーとなる場合もある。後半は前半の講義テーマについてグループに分かれてディスカッション。タームの最後で上下水、交通、エネルギー等のインフラサービスの大まかなテーマ毎に6、7名のグループに分かれてグループプレゼンテーションが課される。

評価:個人論文(90%)、グループプレゼンテーション(10%)

・授業名: Cost Benefit Analysis (Term 2)

内容:Public Economics and Public Policyを担当している教授と、その元同僚で世界銀行および欧州開発銀行出身で現在コンサルティング会社を運営する教授の2名が毎週交互に担当。開発銀行等の国際機関が使用するCost Benefit Analysisの基礎的な理解と、実際の途上国におけるインフラプロジェクトのケースを扱い理解を深める。Public-private Partnership方式のインフラプロジェクトについても触れる。講義は週に1回3時間。第一回目の講義の際6、7名の5つのグループに分かれてCost Benefit Analysisの手法に関連する課題が出される。第二回目以降の講義の前半に課題の回答を全グループ発表し、それを元に議論。後半は講義形式。またグループ毎に関心のあるインフラプロジェクトを選び、Cost Benefit Analysisを行い、分析結果のグループプレゼンテーションと分析報告書の提出も課される。

評価:筆記試験(100%)

・授業名: Managing the City Economy (Term 1 and 2)

内容:当コースを監修する教授が担当。都市の役割や課題と経済政策の分析を行い、政府および自治体としてどのような政策立案をすべきかを学ぶ。1ターム目では経済学の理論を浚いながら、先進国および途上国における都市の役割を俯瞰。2ターム目では学んだ理論をもとに現在途上国が直面している様々な経済問題に対してどのような政策をとるべきかをケーススタディー形式で学ぶ。講義は週1回3時間で、毎回講義の前半は前回の講義のテーマについて個人およびグループでプレゼンテーションが課される。講義はプレゼンテーションを元にディスカッション。講義の後半は教授による講義形式。

評価:1ターム目個人論文(40%)、2ターム目個人論文(60%)


4.住環境

日本でいう渋谷の様な雰囲気のカムデンタウンにある大学から徒歩30分程度のUCL学生寮(Ifor Evans Hall)に在住。午前のクラスは10時開始のため朝は徒歩通学。寮の近所にはスーパー、文房具屋、薬局、銀行や書店があり多数の主要地下鉄路線が通っているカムデンタウン駅まで徒歩10分圏内であることと、寮の目の前にバス亭があることからロンドン市内の移動には便利。寮付近は夜一人で出歩かなければ治安は問題無い。寮は朝食と夕食付きだが共同キッチンがあるので自炊もできる。学部生と院生のフロアは分けられており私の階は静かで勉強するには快適な環境。コンピュータールームもありプリンターも設備されているが一台を10名程度で共有することと、試験期間やれ期末は混みあう為、プリンターはArgosで自前で調達するか、知人に譲ってもらうことをお勧めする。


5.最後に

1年間の留学はあっという間だ。一度授業が始まると非常に忙しいので、渡英前に留学中にやりたいこと、すべきこと、例えば来夏のインターンシップ、就職活動、修士課程中のボランティアやフィールドワークのスケジューリング等、そして卒業後の進路のことをできるだけ具体的に考えておくことをお勧めする。渡英後は、設定した目標を一つ一つこなすことで、大学での課題やプロジェクト、イベントに追われながらも、充実した一年にできることと思う。私自身、希望していた国際機関でのインターンシップを複数獲得した。また、IDDPでの運営を通じて国際協力の最前線で活躍されている方と交流の機会も持てるので関心があれば是非運営メンバーとなることをお勧めする。学生という自由な立場を生かし、存分に楽しみながら飛躍の一年にしていただければと思う。