「DPhil in Environmental Change」Environmental Change Institute, University of Oxford

(オックスフォード大学 「環境変動研究所 環境変動博士課程」)

稲川 武 (いながわ たけし)さん

執筆:2015年1月

1.自己紹介

千葉県柏市生まれ。大学卒業後、デンマークの国際NGOに6年間ほど勤め、ナミビア・ザンビア・米国・ブラジルで森林・自然環境分野のプロジェクトに携わってきました。主にナミビアでは植林と環境教育、ブラジルではバイーア州にある大規模な造林事業に関わりました。その後、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL)の自然保全修士課程に進学し、ケンブリッジにある国連環境計画世界自然保全モニタリングセンターにて森林再生に関する修士論文の研究を行いました。日本/世界銀行共同大学院奨学金制度の奨学生に選出され、現在はオックスフォード大学環境変動研究所の博士課程に在籍しています。マレーシア領ボルネオの熱帯雨林生態系に関する研究を行っています。英語・ポルトガル語・スペイン語が使えます。

プロフィールの詳細:http://www.geog.ox.ac.uk/graduate/research/tinagawa.html

2.所属コースの概要

環境変動研究所(ECI)には、環境変動・マネジメント修士課程(ECM)と博士課程の2つのコースがあります。気候変動・生態系・エネルギー・食糧・水の5つの研究グループがあり、それらの分野のエキスパートの教授陣・博士研究員が揃っています。日本の国立環境研究所とも研究交流があります。私の所属する生態系研究グループでは熱帯林センター(OCTF)を併設していて、世界中から研究機関や国際機関・NGOの関係者を招き活発に熱帯林の現状について議論しています。とりわけREDD+と呼ばれる、二酸化炭素の排出削減を目的とした途上国の熱帯林保全手法が焦点になっています。

生態系研究グループに所属する博士課程の学生は、主に南米のペルー・ブラジル、アフリカのガーナ・エチオピア・ガボンなどにそれぞれ熱帯林に関する研究プロジェクトを持っています。生態学をベースとした自然科学の研究が中心で、とりわけ気候変動に大きな影響を与える熱帯林の炭素動態の解明や、地球上の生物種の半数以上が生息する熱帯林の生物多様性に関するものが主です。最近では、熱帯林で暮らす農民がアグロフォレストリーや生態系サービスを利用して、貧困削減を目指す手法を模索するといった開発関連分野の研究も行われています。

3.授業の概要

修士課程とは異なり博士課程では特別、授業というものはありませんが、統計やコンピュータ関連など研究に必要なスキルを身につけるためのコースを受講することができます。また修士課程で行われている授業などに出席することもできます。

ここでは、博士課程の流れについて説明させて下さい。1年次は主に指導教授と研究課題を定め、文献調査や研究手法の設定などを行い、学年末に一次審査を受けます。2年次はフィールド調査に費やされ、多くの学生が海外に出かけていきます。3年次はフィールド調査で得られたデータを解析し、博士論文の骨子を作り、学年末に二次審査を受けます。4年次は論文を書き上げ、口頭試問に合格すれば博士号が授与されます。条件として、学術誌に提出した論文4本分をまとめたものを提出するか、もしくは10万字以内の書籍論文を提出する必要があります。3年間で終わらせることも可能なようですが、大抵は3年半から4年かかるようです。指導教授の他に、同じ研究グループの博士研究員などから指導を受けることもありますが、基本的には学生個人の裁量で研究を進めていくことになります。

私自身は、マレーシア・サバ州にある伐採やアブラヤシへの農地転換が熱帯雨林生態系にどう影響を与えるか研究しているSAFEプロジェクトというところに2年次に数ヶ月滞在し、炭素・養分循環に関して調査しました。ジャングルの中での調査は非常に過酷なものでしたが、現地アシスタントや州政府の研究機関の協力を得て無事終えました。現在は調査で得たデータを、統計用のプログラミング言語(R)を用いて解析しています。メインの研究以外では、1年次の終りにブラジル・サンパウロ州にある国立宇宙研究所(INPE)で研究インターンを行う機会を得て、NASAなどの地球観測衛星からのデータを用いてアマゾン二次林の面積を解析しました。

4.大学紹介

ロンドンの北西100km、テムズ川上流にある学園都市・オックスフォード市に所在しています。12世紀を起源とする英語圏最古の大学で、市街には荘厳な中世ゴシック建築の建造物が多くみられます。世界中から観光客も訪れ、大学図書館の一部であるラドクリフカメラや、ロンドンにある大英博物館よりも古く世界最初の大学博物館であるアシュモレアン博物館などが有名です。「不思議の国のアリス」の作者で大学の卒業生であるルイス・キャロルにちなんだアリスショップはお土産を買うお店として人気です。最近では大学の学寮で映画「ハリー・ポッター」が撮影され、ヒロイン役のエマ・ワトソンも大学に一時在籍していました。日本の皇室とも所縁があり、皇太子・皇太子妃も学ばれた大学でもあります。市街近郊にはウィンストン・チャーチルの生家で世界遺産に登録されているブレナム宮殿があります。


5.その他

開発学を専門として研究したい場合は、国際開発学部(ODID)があります.

6. 留学をめざしている人へ一言

欧米の大学院に進む場合、とりわけ時間とお金がかかります。博士課程の場合、米国では6年間もかかる場合が多いようで、その点英国では早く博士号を取得できます。また日本人向けの奨学金は非常に限られていますが、日本/世界銀行共同大学院奨学金制度(JJ/WBGSP)には日本人向け特別枠があり、毎年15名程度の奨学生が選出され、学費・生活費・渡航費・医療保険が無償で与えられます。条件として開発関連分野での2年間の実務経験が必要ですが、青年海外協力隊やNGOなどで活動された方はぜひ応募してみてはいかがでしょうか。