「MA Disability and Global Development」University of Leeds

(リーズ大学 「社会学・社会政策学 障害と開発コース 修士課程」)

上岡 廉(かみおか れん)さん

執筆:2014年7月

1.自己紹介

私は貧困に関心があり、日本の大学で農業開発を学びました。大学卒業後、東京の知的障害者施設で5年勤務し、2009年から2年半、念願だった青年海外協力隊員(21年度2次隊:養護)として、ヨルダンに派遣。協力隊活動時にJICA障害分野専門家のプロジェクトを見て、途上国の障害者支援にプロとして携わりたいと考え、留学を計画します。開発の知識や英語力に不安があったため、協力隊から帰国後、2012年9月より、アジア経済研究所開発スクールで開発学や経済学を学び、2013年9月に渡英。障害学の著名な研究者であり、障害者活動家でもあるコリン・バーンズ教授が教鞭をとるリーズ大学で学んでいます。


2.所属コースの概要

障害と開発コースは、基本的には「社会学・社会政策学(障害学)」に籍を置きながら、「政治・国際開発学(開発学)」の授業も必修科目となっている複合コースです。強みは「障害学」と「開発学」をそれぞれ学ぶことができ、また比較的人数の少ない「障害学」に籍を置くため、教授が親身に相談に乗ってくれることです。反対に、弱みは「障害学」と「開発学」を同時に学べる授業は「障害と開発」1コマのみであるため、それ以外の授業は自分で興味につなげながら学ぶ必要があることです。複合コースということもあり、本年は私1名のみ在籍で、同じ関心を持つ人と経験を共有することができないのは残念です。

障害学の学生は、イギリス人4名、アメリカ人1名、カナダ人2名、ブラジル人1名、シンガポール人1名、日本人(私)1名。障害分野で仕事をしている人や、障害児の親など学生の幅は広く、開発学などに比べ比較的年齢は高めです。


3.授業の概要

授業名:Global Inequalities and Development(必修)

内容:2時間のレクチャーと1時間半のセミナーが交互に週1回あります。ネオリベラリズム、人間開発、飢饉、ジェンダー、社会運動などのトピックを専門の教授が担当します。参加学生人数は、レクチャー40名、セミナー20名程度です。

評価:第1,2セメスターを通して行われる授業で、第1セメスター前半に最初のエッセイ課題(1,000文字)、第1セメスター終了後に2,500文字のエッセイ、同じく第2セメスター終了後に2,500文字のエッセイがあります。

感想:様々なトピックを学ぶことができ、開発の知識が広がります。反面、開発の基本的歴史や理論などが前提になっているため、開発の基礎を学んでいない人は、渡英する前に予習しておいた方が良いかもしれないです。


授業名:Debates on Disability Theory and Research(必修)

内容:週1回3時間の講義で、1時間半のレクチャーと、学生が順番に行うプレゼンテーション(20分)+ディスカッション。参加学生は15名程度。障害学の基本的な理論(社会モデル、ICF [International Classification of Functioning, Disability and Health: 国際生活機能分類]、スティグマなど)を学びます。コリン・バーンズ教授が担当している人気講義ですが、2013年12月でバーンズ氏は退職されました。バーンズ氏の講義ということもあり、障害学に在籍する学生だけでなく、博士課程などの障害学生などが参加しています。

評価:第1セメスター終了後に、6,000文字のエッセイ、3,000文字のエッセイ2本、または、3,000文字のエッセイ+1,500字の大学指定文献レビュー2本のうち1つ選びます。

感想:バーンズ氏の熱い講義は一聴の価値あります。反面、イギリスの障害学や社会モデルを遵守する立場であるため、アメリカの障害学については、あまり触れられないなど、内容に偏りがあるように感じます。参考著書、「ディスアビリティ・スタティーズ‐イギリス障害学概論(コリン・バーンズなど)」「障害学‐理論形成と射程(杉野昭博)」が講義の理解にとても役立ちました。


授業名:Gender, Globalisation and Development(聴講)

内容:週2回、2時間のレクチャーと、学生主体のディスカッション2時間で構成されています。参加学生は20名程度です。ジェンダーのコンセプト、ジェンダーへのアプローチの変遷(WIDからGAD [Women in DevelopmentからGender and Development: 開発への女性の参加を推進する取り組みから、男女の力関係に着目し、女性の実際のニーズを達成する取り組みへ])、労働、経済危機、暴力、女性運動などのトピックを扱います。

評価:第1セメスター半ばに、2,000文字のエッセイ、第1セメスター終了後に4,000文字のエッセイがあります。私は、2,000文字のエッセイを提出しましたが、聴講でしたので評価はなく、講師のコメントのみでした。

感想:学生同士のディスカッションがレクチャー中も多くあり、勉強になりました。ジェンダーの授業のためか、大多数が女子学生で肩身狭く感じることもありました。ちなみに、開発学の中では課題の評価が厳しいコースのようです。同講義の講師が前述のInequalitiesの講義を2コマ担当しています。


授業名:Disability and Development(必修)

内容:週1回2時間の講義です。主に前半部は講師がレクチャーし、後半部は学生が順番にプレゼンを行います。参加学生は10名程度。途上国における障害について、文化、教育、CBR(Community Based Rehabilitation: 地域に根差したリハビリテーション)、障害者権利条約、障害者団体などのトピックを扱います。

評価:第2セメスター終了後に、6,000字のエッセイがあります。テーマは教授と相談して決めます。

感想:講師のアリソン・シェルドン氏の熱意にあふれた授業は毎週楽しみです。参考著書として、「障害と開発(森壮也・編)」「リハビリテーション国際協力入門(久野研二・中西由紀子)」「アジア・アフリカの障害者とエンパワメント(ピーター・コーリッジ)」などを読んでおくと良いです。


授業名:Social Policy and Disabled People(選択)

内容:週1回3時間の講義です。前半は講師のレクチャー、後半は学生が順番に行うプレゼンとディスカッション。参加学生は10名程度です。イギリスの障害者政策を中心に、障害者と家族、貧困障害者、雇用、教育、アクセシビリティなどのトピックを扱います。また、授業のテーマにより講師が変わることもあります。

評価:上記、Debates on Disability Theory and Researchと同じです。

感想:イギリスの障害者政策が、障害者の生活にどのような影響を与えたのか、また政策形成に障害者運動がどう寄与したのかなど、大変興味深い内容でした。


授業名:Democracy and Development(聴講)

内容:週2回、1時間のレクチャーと、1時間の学生のプレゼン&ディスカッションで構成されています。民主主義は社会経済開発を進めるのか、それとも阻害するのか?ドナーが民主化を条件に援助を行ってきた歴史や、民主主義に多様な形態があることを踏まえ、教育やジェンダー、参加型デモクラシーなどのトピックを扱います。

評価:第2セメスター終了後に、6,000文字のエッセイがあります。

感想:講師が丁寧に講義してくれること、授業時間が短いため集中しやすいことが魅力です。同講義の講師が前述のInequalitiesの講義を2コマ担当しています。


4.大学紹介

総合大学のため、学生の人数が多く、国籍もかなり幅広いです。講義のReadingは多いですが、基本的に個人で勉強して準備をする形式のため、それほど時間に追われることはないです。また、冬休み期間が長いため(12月中旬から1か月)、修論の準備が早い時期から始められることは魅力です。

開発学は、(イギリスは基本的にそうだと思いますが)ネオリベラリズム批判に力を入れているように感じます。障害学コースの評判が良いのでリーズに来ましたが、障害学コースに所属する人数は少ないようです。自身が障害者である講師が多数在籍しているのがリーズ大学の特徴と言えそうです。

第1セメスター開始前に英語の試験があり、点数が6割未満の場合、Language Centreの英語コースが受講できます。また、第2セメスターは試験なしで、ライティングやプレゼンテーションなどの英語コースが無料で受講できます。このコースはとても役に立ちました。


5.その他

プライベートのフラットで月350ポンド(水道・電気・ネットなど込)、大学まで徒歩25分、街の中心まで大学から徒歩15分程度です。ショッピングモールなどが街の中心に多数あり、ショッピングが楽しめるようです(「地球の歩き方」参照)。


6.留学をめざしている人へ一言

障害と開発に興味を持っている人にはとても良いコースだと思います。また、修士論文に時間をかけられることも大きな魅力だと感じます。英語はできるかぎりやっておいた方がいいと思います。私は、イギリス英語に慣れるのに時間がかかり、第1セメスターは、授業の半分も理解できていなかったように思います。

また、Evernoteなど文献を読んだものをまとめる方法や、参考文献の作り方、アカデミック・ライティングのノウハウなど、もっと早くに知っておけばよかったと思います。障害と開発に関しては、最近多くの日本語文献が手に入るようになっているので、持参しておくと講義や課題に役立つと思います。

人生でこれだけ勉強できる時はそうそうないように思いますし、リーズでの1年はこれから先の大きな糧になると思います。興味があれば、大学の教授にコンタクトを取ってみることをお勧めします(障害と開発コースは、アリソン・シェルドン教授という教授が担当されています)。

また、リーズ大学には、障害学の文献に無料でアクセスできるサイトがあります(http://disability-studies.leeds.ac.uk/library/)。渡英前の予習になりますし、出願の際の志望動機書に自分の関心のあるテーマの論文や教授について記載すれば、より魅力のある出願書類になると思います。