「MA in Globalisation and Development」Institute of Development Studies(IDS), University of Sussex

(サセックス大学 開発学研究所 「グローバリゼーションと開発 修士課程」)

皆元 理恵(みなもと りえ)さん

執筆:2013年3月

1. 自己紹介

日本の大学で国際関係学を専攻し、在学中に一年間アメリカの大学に交換留学をしました。卒業後は、家具・インテリア関連の輸入貿易商社に就職。バイヤー兼営業として、中国・台湾・インドからの商品買い付け、及び日本国内の営業に二年半従事しました。その後、国際協力関連の財団法人に転職し、三年間国際協力の国内業務に携わりました。民間企業と国際協力団体での業務経験を通じ、徐々に開発におけるビジネスの役割に関心を持つようになり、大学院進学を目指すことにしました。ビジネススクールへという希望もありましたが、あくまでも開発の視点からビジネス活動について研究したいと思い、IDSのグローバリゼーション・コースに志願することにしました。


2. コースの概要

本コースでは、グローバル化が進み、格差の拡大や食料危機、気候変動等地球規模でさまざまな問題が生じる中、それらの根本的背景とも言える市場経済システムがどのように構造化され変遷してきたか、また現状システムの限界や途上国・貧困層に及ぼす作用等について学びます。これまで欧米を中心に構築されてきた世界経済システムが、近年BRICsやプライベートセクターの影響力が増す中、各アクターの政治的・経済的活動及びパワーバランスがどう変化しているのか、多国籍企業の役割やあり方はどうあるべきか、また様々なグローバル・イシューにどう対処すべきか等、その方向性や可能性について検証します。

またその一方で、昨今開発におけるプライベートセクターの役割が注目される中、ビジネスが途上国や貧困層に与えるインパクトや、開発アクターとしてのビジネスの役割及び課題について考えます。企業を「開発のための」アクターとして捉えるという点が強調され、「開発の視点」からビジネスと途上国の社会・経済構造との相互作用を分析し、プライベートセクターが開発の活動に加わろうとするその動機、Pro-poorビジネスのあり方、パブリックセクターとの関わり等について学びます。

このように、Globalisationコースは、IDSの他のコース(Gender, Poverty, Participation等全7コース)と比べると、途上国へのフォーカスが比較的少なく、途上国の開発に影響を与える地球規模のシステムにより重点を置いています。また、開発経済分野を専門とした教授が多いというのも特徴です。コースメイトは、バックグラウンドの異なる、20代前半から30代前半までの9名(女7名、男2名)で、IDSの中でも小規模です。NGO等で途上国のプロジェクト従事経験がある人、民間企業(銀行系)等で職務経験がある人まで、学生の経歴は多岐に渡ります。


3. 授業の概要

3 学期制で、秋学期(9~12月)と春学期(1~4月)は科目(講義とゼミ)を履修し、夏学期(5~8月)は修士論文を執筆します。秋と春学期の授業は週に3,4日程度ですが、講義の後のゼミではグループ・プレゼンテーションやディスカッションが行われ、学生の積極的な参加が重視されます。また、成績は、各科目3,000~5,000字のタームペーパーとグループ・プレゼンテーションによって評価されます。修士論文は、10,000字で、トピックは自由選択です。

・授業名: Managing Globalisation(秋学期)

・内容:マクロ経済の視点から、貿易、金融、移民、食糧危機、気候変動、グローバルスタンダード(フェアトレード等)、バリューチェーン等に注目し、グローバリゼーションと世界経済システムの構造や変遷、限界や問題点を分析し、途上国や貧困層の生活に及ぼす影響や不平等を生み出す原因等について理解を深めます。また、グローバルガバナンスにおける多国籍企業の影響力、役割、問題点等についても学びます。

・感想:経済学のバックグラウンドがあるとより早くより深く理解ができると思います。私は経済学の知識がなかったため、難しい内容も多々ありましたが、友人に教えてもらいながら何とかついていくことができました。経済学を学んだことがない方は、留学前に日本語でも構いませんので、経済学や開発経済学の本を1,2冊読み、理論等基礎的な知識を身に付けておくとよいと思います。また、全12回のセミナー中、7回程グループ・プレゼンテーションが課され、各トピックについてグループで調査し、発表することが求められました。内容は、エチオピアとEUグループに分かれてEPA(経済連携協定)交渉を行うロールプレイ形式のものから、金融自由化や金融危機に関する発表等、多岐に渡ります。

・授業名: Business as a development actor(秋学期)

・内容:ビジネスが貧困削減及び開発に及ぼす影響やその役割、可能性、課題について考えます。企業が途上国ビジネスに乗り出す動機は何か、どのようなビジネスモデルがあるのか、そして真のPro-poorビジネスとはどうあるべきか。途上国ビジネスが現地の人々の生活や雇用、経済活動に対して、どのような形で関わり作用するのか等、企業活動が及ぼす社会・経済・環境的インパクトについて考えます。

・感想: 実際に企業が途上国で展開しているBOPビジネスやインクルーシブビジネス、ソーシャルビジネス、フィランソロフィー、パブリック・プライベート・パートナーシップ等について分析するため、企業のAnnual ReportやCSR Report、また各開発機関が発行する報告書等も教材となります。授業では、「開発の立場からクリティカルにビジネス活動を分析する視点」を身に付けることが求められます。なお、本科目では、途上国進出のためのビジネスのストラテジー等のマネジメントを学ぶのではなく、あくまでもビジネスと「開発」の関係性を検証する内容となっています。

・授業名: Competing in the Global Economy(春学期)

・内容:グローバルエコノミーにおける競争力(Competitiveness)の観点から、途上国が先・中進国と対等に経済活動を行い、成長を図るための戦略と可能性、課題について学びます。各授業では、毎回それぞれバリューチェーンやクラスター、テクノロジーとイノベーション、貿易、投資環境、産業政策等に注目して、アジア、中南米、アフリカの地域を中心とした国々の産業開発の事例を分析、議論します。

・感想:‘Managing Globalisation’でマクロな視点から市場経済システムのコンセプトや理論的枠組みを学んだ上で、本科目では途上国に焦点を当て、具体的な事例分析を中心に講義およびディスカッションを行います。キャリアを意識した内容にもなっており、グループに分かれて、コンサルタントとして途上国政府に産業政策について提言する(プレゼンテーション)等の実践的な課題も課されます。クラスでは、「経済活動が労働者や環境に及ぼす影響は?」「すべての国が市場競争に参入する必要性はあるのか?」「そもそも現在のシステムは途上国にとって不利ではないか?」「企業と政府の関係が不平等な分配を生む根本的原因になっているのではないか?」等、資本主義システムを巡る様々な議論が行われました。現行経済システムと社会構造の在り方等、グローバル化が抱える様々な問題について考える貴重な機会であったと同時に、一人ひとりが問題の本質を理解し、意識を持って行動することの大切さを改めて感じました。


4. 大学紹介

サセックス大学は、Brightonからバスで30分程度のFalmerという街に位置し、芝生や木々に囲まれたのどかで広大なキャンパスです。IDSは、サセックス大学の敷地内にある独立した研究所で、IDSのMAコースの授業は全てその建物内で行われます。通常の授業の他にも、IDSのリサーチャーや外部講師によるセミナーが頻繁に開催され、また学生向けに休日等を利用してRobert Chambers教授のワークショップや、就職のためのプロフェッショナル・ワークショップ等が行われます。また、サセックス大学でも、年間を通して、留学生のための無料の英語サポート授業や個別指導サービス等があり、IDSの学生も受けることができます。


5. その他

私は、7~8月の英語コースの間はキャンパス内の寮、9月からはBrightonの隣街Hoveにあるフラットに住んでいます。キャンパス内の寮は図書館や教室に近いという点で便利です。一方、オフキャンパスに住む利点としては、BrightonとHoveは比較的小さな街で、スーパーやパブ、レストラン、カフェ、映画館、ビーチ、ロンドンへ行く電車の駅等が中心地に集まっており便利なこと、生活のオンとオフの切り替えがはっきりできること、現地の人たちの生活を身近に感じることができる等が挙げられると思います。


6. 留学をめざしている人へ一言

IDSには、政府機関、NGO、民間企業等様々なバックグラウンドをもつ学生が世界各国から集まっています。異なる関心や考え方をもつ他コースの学生たちとの議論を通じて、興味や関心、考え方の違い等を発見できることは大きな収穫です。特に、これまで開発援助やビジネスについてcriticalな視点でみることがなかった私にとって、radicalな特色を持つIDSで、AnthropologyやFeminism またParticipatory approachの考えに触れることができたことは非常に新鮮で、刺激を受けました。「開発」という世界は、異なる視点や専門性、経験を持つ人々が互いに協力しよりよい方向へ導いていくプロセスが欠かせない分野です。将来どのようなポジションで携わることになろうとも、異なる考えをもつアクター同士の対話、そして何よりも現地の人々の視点が大切だということをIDSで学びました。また、留学を通して自分の視野を広げることができただけでなく、自分の中にある課題や今後さらに勉強したいと思う分野を発見することができました。みなさんにとっても、留学という一歩がきっと、新たな自己の発見につながることと思います。