「MSc in Globalisation and Development」School of Oriental and African Studies, University of London

(ロンドン大学 東洋アフリカ研究学院SOAS 「グローバル化と開発 修士課程」)

川上 瞳(かわかみ ひとみ)さん

執筆:2013年4月

1. 自己紹介

高校卒業後、米国セントラルアーカンソー大学にて国際関係学の学士号を取得し、現在はロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)にて国際開発学の修士号を取得中です。開発に興味を持ったきっかけは、大学2年目に行ったインドでのスラムの子ども達に向けた無償教育ボランティアです。大学在学中は、スペイン語学習経験を活かそうとYMCAバルセロナにて社会奉仕活動のインターンを行いました。職務経験はありませんが、大学院にて様々な社会経験をされた仲間から日々刺激をもらっております。


2. 所属コースの概要

私のコースは同大学の国際開発学コースと比較して、マクロな・より大きな写真から世界の動きを捉えようとしている所が特徴だと思います。毎週の文献はSOAS特有の新自由主義批判のものが多いですが、それは、逆に学部でアメリカ資本主義からの視野を養ってきた私としてはとても面白く、勉強になるものです。全ての既存の物事や構造をいい意味でクリティカル又は懐疑的に捉えられるようになります。クラスメイトはアフガニスタンやアフリカなどの発展途上国でボランティア又は長期のフィールドワークを経験した方々がほとんどですが、それ以外にも学部卒直後に来た私のような仲間もいます。年齢層は幅広く、ディスカッションのクラス等で共に学ぶ中で様々な視点から物を捉える能力が身につきます。受動的になりがちな日本人としては、刺激的かつ挑戦な環境ではありますが、且つ実りのある一年になることは間違いないです。


3. 授業の概要

・授業名:エイド(援助)と開発

・内容:この授業は先進国から発展途上国に向けた国際援助の資金や使い道・または物資的支援のデリバリーの過程・政策決定を細かく分析します。ドナーとオーナーシップの定義から始まり、援助におけるドナーの行動の矛盾・援助効果についての勉強・又は様々な状況(紛争中等)における援助配置の困難さまで、細かい視点で発展途上国への援助活動を捉えます。SOASなだけあって、一般的な視点から捉えず、常に政策・理想とその過程やデリーバリーの際に生じる矛盾・汚職を批判する文献も多々扱います。

・感想:特に興味を持ったテーマは、オーナーシップです。オーナーシップはODA開発援助金を受ける発展途上国の用途等に関する権利として尊重されるべきと一般的に解釈されています。しかし、実際そのファンドをもらう際にドナーが条件を発展途上国に課していることが多く、特に問題視されているのは国内政策まで条件に組み込まれている事実です。これは国内政治への干渉として批判され、オーナーシップの侵害だと訴える文献も少なくありません。そういった問題は普段見落としがちなので、とても面白いと感じました。

・授業名:開発と政治経済

・内容:発展途上国の成長を、比較的経済学的な目線で分析します。20週から編成され、各週テーマも異なります。例えば、ある週は農業開発であったり、ある週はGlobal Commodity Chainであったり、または教育・保健セクターの発達を扱ったりと様々ですが、発展途上国の経済成長とそれら各週のテーマがどう結びついていくか・どのテーマの政策がどう発展途上国の成長に関わるかを中心に議論します。

・感想:経済学を学部で履修しなかった私にとっては時折理解しがたい経済の仕組みもありましたが、そんな生徒の為にボランティアで1ターム(学期)分経済学ビギナーコースが無料で設けてありました。SOASの教授は皆ですが、この授業は学生数も多い所為か大きな教室を使い、とても情熱的に後援して下さいます。クリティカルに既存のWorld Bankのデータや新自由主義の政策を検証するコース内容から、発展途上国の経済発展への取り組みの真剣さが伺えます。完璧な一つの赤本的な政策をどの国の発展政策にも適用できないことが一番の弱点ですが、色々な視点から経済成長を吟味することができ、マストな授業だと思います。

・授業名:ボーダー(境)と開発

・内容:この「ボーダー」という言葉は、国と国との境だけでなく様々な境(文化・民族・多国籍・地域的経済協定等)という意味で扱われます。国際政治や国内政治において、ボーダー政策によりExclusion/Inclusionされる人々、又はその政策を使ってボーダーをうまく利用される・利用する人々等の問題が生じます。Exclusionされたりボーダー政策に利用されたりする人々は国際的地位の弱い人が多く、ボーダーをうまく利用する・ボーダー政策をつくる人は世界を左右することが多いと批判する文献も少なくありません。この授業では、ボーダー政策やそれにまつわる様々な国際問題を取り扱います。

・感想:物理的な国境の授業だと想像し受講すると、もっとより深い意味で様々な境があるのだと勉強させられる、とても斬新・ユニークな内容だと思います。なにより、スパゲティーを例えに毎回授業の最後をまとめるイタリア人の教授が印象的です。スパゲティーがどうボーダーと関連するかは彼の授業を取ってのお楽しみです。


4. 大学紹介

ミャンマーのアウン・サン・スーチーさんも学んだ、国際色豊かな学校です。SOASはイギリス人の生徒は少なく、様々な国から左翼から見た開発を勉強しに来る人ばかりです。SOASは2つキャンパスがあり、お互い徒歩15分ほど離れています。最寄駅はRussell Squareですが、慣れてきたら実際他の駅(King’s Cross、Euston、Holborn)も近いと感じます。キャンパスは小さく校舎は古いですが、学習の質やSOAS独特の文化や学校生活(社会的活動が激しい・よく生徒デモを行っている)から刺激されたり得るものは大きいと思います。校舎の質はさておき、様々な団体からの公開講演会も常に開く、情熱的な所が特徴です。ロンドン大学の一部として、他提携校のイベントや公開授業に積極的に参加できるのも魅力です。たまにトイレ清掃員の権利の為のデモを行ったりする、個性的な大学です。


5.その他

学生寮に住むのがお勧めです!それは、比較的安いだけでなく同大学の友達が沢山増えるからです。近場に住んでいると夜でも簡単に遊んだり一緒に勉強したり料理をすることが楽しめます。1年間という限られた時間の中院の勉強をすることは大変ですが、仲間の存在が支えてくれます。


6,留学をめざしている人へ一言

勉強する中で様々な困難を感じると思いますが、来なければよかったなんて思うことは絶対ないと保証します。たった1年の中で、開発についての勉強の充実感だけでなく、成長した自分の姿を感じ取れるでしょう。SOASは、(一般的な国際関係学を学部で学んだ身としては)とてもユニークな価値観を与えてくれます。自分は少し人と変わっている、又はその観点で時折憤りを感じると思う方は楽しめる・自分の居場所が見つかるのではないでしょうか。なぜなら、SOASの生徒や雰囲気はいい意味で今まで見たことがなく、刺激的ですから。(他の生徒も同様のことを言っていました。)