「Foundation Diploma for Postgraduate Studies」School of Oriental and African Studies, University of London

(ロンドン大学 東洋アフリカ研究学院 「ファウンデーションコース」)

稲田 史子(いなだ ふみこ)さん

執筆:2013年3月

1.自己紹介

大学卒業後、公的金融機関で6年、その他コンサルティング会社と証券会社で、3年程度働いた経験があります。将来、開発関係の仕事に就きたいと思っており、そのためには、海外の修士号が必要であると思ったため、留学に至りました。英国のマスターで開発金融もしくは、経済発展論を学ぶ予定です。英語で授業についていくのに不安があったため、ファウンデーションも含め2年かけて勉強したいと思いこのコースを選びました。


2.所属コースの概要

このファウンデーションコースは、マスターで授業についていくために設計されています。授業は7種類の教科から2教科を選びます。またIELTS, Academic English, Research Methodは全員に共通した教科になっています。マスターで出される課題と質とほぼ同様に要求している(量はやや少なめ)ため、このコースの課題をこなせるようになってくるとアサインメントのスコアも上がり、来年にむけての自信がついてきます。一方で、マスターと比較しても、フォローアップのための授業など、必要以上に授業数が多いと思います。初期のタームでは、それに参加しているだけで、体力を消耗し、自分の勉強時間に当てられないジレンマがありますが、タームが後半に行くにつれ、授業数も減ってくるので、だんだんと楽になってきます。クラスメイトは、さまざまな目的でファウンデーションに参加しており、中には、GPAが足りないもしくは学部と専攻を変更するという理由で、恵まれた英語環境で育った中国人や日本人、アラブ国から来たものもおり、そういった英語が優秀なクラスメイトと比較すると、自分の英語表現の乏しさに打ちのめされることもありますが、大方の生徒は、足りない英語力を補強するために来ており、講師もその点については十分にわかっているので、その目的についてはきちんと授業についていけば、フォローされる仕組みになっているのは、いい点だと思います。


3.授業の概要

・授業名:開発学

・内容:開発学の重要なテーマを一授業、一テーマで浅く広く学びます。(例:ポストワシントンコンセンサス、世銀・IMF、Aid、民主主義、PRSP)

・感想:講師が左寄り(反体制派)なので、世銀やIMFなどの国際機関の手法は否定されることが多いですが、日本では、このような視点で教えられることが少ないと思うので、王道を疑う視点を養ったり、自分の意見を持ったりする練習になります。マスターでは論文上でメインの主張を「反論する」ことは、重要なアプローチなので、非常に参考になると思います。講師は、論文の書き方について、事前に懇切丁寧にアウトラインを提供してくれて、フィードバックも頼めば個別に指導してもらえるので、高得点を出すためにどの要素が足りないのか把握しやすいです。また、英語での論文を書く練習としても、ためになる授業だと思います。マスターでは、もっと専門分野に絞って学ぶ予定なので、ファウンデーションのうちに、開発学の概論を一通り、目を通すことができたことも、来年に向けて財産になっていると思います。

・授業名:国際ビジネス

・内容:ビジネスにおける商慣習を、アカデミックな研究者の定義を使って、概念の整理を行います。(例:グローバリゼーション、組織カルチャー、人事マネジメント、マーケティング)

・感想:講師は、豊富な事例とともに、定義をわかりやすく説明してくれるので、概念の整理がしやすいです。少人数のチュートリアルで発言を求められますが、講師の要求する答えに当てがつくようになるのに、少し時間がかかります。論文は、複数の研究者の視点から、定義を説明していくと高得点が取得できます。私は、働いた経験が9年程度あったため、背景に土地勘がありましたが、そうでなくても、講師が求めるアサインメントの方向性をつかむことができれば、きちんと高得点がもらえる教科だと思います。FDPSの5つの教科のうち、もっとも得点のしやすい教科だと思います。

・授業名:アカデミック・イングリッシュ

・内容:英国式のアカデミックな論文を英語で書く方法について学びます。(資料の読み方、本からの引用の仕方、プレジャリズム(盗作)を防ぐには、論文の構成、よく使われるアカデミックな表現方法)

・感想:最初のうちは、こつをつかむのに時間がかかり、なかなか自分のものにすることができませんでした。何度も他教科のアサインメントを繰り返して書いているうちに、教えられた引用の方法、論文の構成や、表現方法が使えるようになってきます。5回に一回くらいTimed Writingのテストがあり、講師によって、採点の基準がずれているのが難点だが、 最後のファイナステストで、評価が揃うため、あまり気にせず授業に取り組んでよいと思います。講師の教材は、自分で復習するのにクオリティーの高いものだったと思います。


4.大学紹介

SOASは、とても小さなキャンパスで、ビルは4棟くらいしかなく、それ以外の敷地はほぼないと言っていいくらいです。図書館は、学校名のとおり、アジアアフリカ関係や開発の資料がそろっており、夜11時半まで使用できます。校風は、良くも悪くも「反体制的」という感じで、学生のたまり場は秩序がなくいかにも学生らしい印象です。大学の事務処理は、時間がかかることが多く、資金不足のせいか電子化はそれほど進んでいません。設備関係は、上記のように不自由な点は多いが、致命的に困ったことは特にありません。講師の質は高く、特に「開発」関係の講師は、研究熱心で、体制に対して常に鋭い批判の目をもって講義に当たっています。生徒の質問にも丁寧に答えてくれており、特に論文の書き方の指導は非常に丁寧です。やや左寄りの傾向はあるが、授業自体は本当に満足のいくレベルだと思います。


5.その他

ロンドンは、便利な街なので、生活必需品で困ることはほとんどありません。日本食も繁華街までいけば手に入るので、大体月に一回くらいの割合で調達し、自炊すれば和食中心の生活が送れません。また、寮もSOASが持っている学部生用、院生用の寮にも入居でき、またロンドン大学全体のInternational Collegeにも入居可能です。フラットメイトが世界各地から来ており、生活しているだけで英語を話す環境にあるのが大きな魅力です。一方で、サービスの質は非常に悪いです。たとえば、寮のWifiが数日つながらなかったり、水道管が破裂して、2日間断水になったり、寮では火災警報器が非常によくなるというトラブルもあります。携帯電話も大手の通信会社と契約しているにも関わらず、月々のチャージがオンラインでできなくなって放置されたり、日本では考えられないような、サービスの質の悪さに悩むことがよくあります。ある程度、ヨーロッパのサービスについては慣れることが大事です。


6.留学をめざしている人へ一言

SOASのファウンデーションコースは、さまざまな目的で参加している人がいるが、私のようにマスターの授業についていきたいもしくは、英語での課題にスムーズに対応したいという目的の人が最も多いように思います。授業数が多く(週に11コマ)、常に課題に追われ、やや息苦しく感じることが多いが、これらの課題をしっかりとこなしていると、英国式の論文の書き方、特に構成要素の組み立て方、自分の意見のサポートの仕方などがしっかり身に付くので、わたしのような目的を達成するのには、ベストなコースだと思います。また、中国人や韓国人、日本人の友人も増え、英語で情報交換ができて励みになります。また、英国のマスターは一年しかないため、ファウンデーションと合わせて2年いくことで、余裕をもって勉強を進めることができると思います。