「MSc Crisis and Disaster Management」University of Portsmouth

(ポーツマス大学 「防災・危機管理プログラム 修士課程」)

水野 太郎(みずの たろう)さん

執筆:2013年3月

1.自己紹介

日本では学部時代に物理学、大学院では半導体工学と脳神経科学の融合分野を専攻し、科学技術の知見を活かすべく金融機関系シンクタンクにて勤務をしておりました。東日本大震災後に被災地の復興支援活動に関わった際に、危機管理や災害対応といった分野の研究が日本に求められていると実感し、英ポーツマス大学で開講されているMSc Crisis and Disaster Management(防災・危機管理プログラム)へ進学致しました。


2.所属コースの概要

現在所属しているコースは地球環境科学部とビジネススクールの共同プログラムであり、自然災害の発生メカニズムを科学的視点から学ぶと同時に、災害が発生した際に発生する被害を軽減する手法、また災害発生後に求められる持続的な組織運営手法を経営の視点から学ぶことができます。コースの構成としては1ヶ月ごとに異なるテーマについて学び、1週間の集中講義が続いた後に自習とレポート作成の時間が3週間与えられます。授業以外に社会見学や外部講師の特別講義も入ることがありますが、参加は自由で、自ら積極的に行動する方には時間を自由に使えます。

強みとしては自然災害にかぎらず、自然災害が発生した後に訪れる人的災害やテロリズム等の人的災害について、実際に各分野の専門家から話を伺えるほか、関連施設に訪問して学ぶことができます。弱みとしては、分野が幅広い分、教室で学ぶ内容が薄くなり、分野に依っては表面的な知識しか身につかない点が挙げられます。


3.授業の概要

・授業名:Disasters: hazard, vulnerability and risk

・内容:地震や火山といった自然災害の発生メカニズムについて学びます。

・感想:内容としては基礎的なものが多く、高校地学IBの内容と思って頂ければちょうどよいかもしれません。すでに学部で地学や地質学を勉強された方にとっては物足りない内容だと思われますが、あまりその分野の勉強をされたことがない方にとっては導入としてちょうどよいのではないかと思います。

・授業名:Logistics and Financial Planning for Disasters

・内容:災害による被害に対して金融面からどのような対策がとれるのかを学びます。

・感想:自然災害だけではなく人的災害も含めて、被災によって発生する損失がどれほど発生するのかについて最も研究が進んでいる保険業界の視点から、災害リスクの計算方法や金融面での対策を学びます。リスク計算を行う際に基礎的な統計解析を行うため、事前に統計の入門書を読んでおいたほうがよいかもしれません。この授業では座学だけではなく、最先端の研究がされているロンドンの金融街に社会見学で訪れる機会があり、大手の保険会社・再保険会社で活躍されている方から直接お話しを伺うことができます。

・授業名:Disaster Management Techniques and Study Visits

・内容:GISを用いた衛星写真の分析手法を学びます。

・感想:近年様々な分野で活用されているGISの使い方を基礎から学びます。具体的には配布された地図データをGISソフトで読み込んで高度毎に色分けをして簡単な洪水リスクマップの作成といったことを行います。すでにArcGISやQuantumGISを利用した経験のある人にとっては、内容が基礎的過ぎて物足りないかもしれません。

・授業名:Crisis Management and Governance

・内容:災害発生時にどのような対策を行うべきかについて、組織運営やビジネスの視点から学びます。

・感想:災害が発生して会社の事業がストップしてしまった際にどのような対策を取るべきか、危機管理体制はどのようにつくりあげて運営すればよいのかについて、企業で危機管理を担当されている方の講義やワークショップを通して学びます。座学では何をしなければいけないのか分かっていても、模擬訓練をやってみると本当に組織内のコミュニケーションが混乱してしまうことや、即応体制を整備することの難しさを学ぶことができます。


4.大学紹介

英ポーツマス市にはイギリス最大規模の海軍基地があり、トラファルガー海戦で有名なネルソン提督の拠点やノルマンディー上陸作戦の前線基地として使われた歴史があり、当時使われた戦艦や施設を見学したり海軍博物館・海兵隊博物館でより詳細な海軍史を学ぶことができます。またクリスマスキャロル等の作者チャールズ・ディケンズの出身地であり、シャーロック・ホームズの作者アーサー・コナン・ドイルが晩年を過ごした町でもあり、定期的に文学イベントも行われています。その一方、海軍基地として栄えていたため文化的な建造物等はあまり存在せず、第二次世界大戦時にドイツ軍の空爆を受けて市の大半が破壊されたため歴史や伝統を感じる機会がほとんどありません。

町中にあるオフィスビルのような建物が大学の校舎として使われており、広大な芝生があるキャンパスに伝統ある校舎のイメージとは大きく違い、キャンパスと町の境目が無いため、雰囲気としては予備校に通っている感じです。


5.その他

ポーツマスは比較的人口の多い町なので、日々の生活に必要なものを買う商店は多く、港の近くにはアウトレットモールもあるため、物不足で困ることはありません。寮は食事のでる寮と自炊しなければいけない寮があり、それぞれフラット形式と個室形式の部屋が用意されています。学部生と大学院生の寮が分かれていないため、騒がしい部屋の近くになると騒音が勉強や睡眠の妨げになることもあるのが難点です。

ロンドンへは頻繁に電車とバスが出ており、片道1.5-2時間でロンドンに出ることができます。安いチケットを買うと往復で13ポンド程度(2,000円弱)なので、容易にロンドン観光やIDDP勉強会に参加することができます。


6.留学をめざしている人へ一言

イギリスの大学には世界各国から留学で来ている学生がおり、クラスメイトや寮友と仲良くなることで世界の見方が変わったり、日本の特殊性が実感できたり、逆に出身地や生まれ育った文化が違っていても大して考えていることは変わらないということを肌で感じることができます。画一的な日本社会でくすぶっているのではなく、多様性にあふれた世界に飛び込み、自分自身の可能性を広げたいと考えられている方には強く留学をオススメします。