「MA Education and International Development」Institute of Education, University of London

(ロンドン大学 教育研究所 「教育と国際開発 修士課程」)

吉田 沙紀(よしだ さき)さん

執筆:2013年3月

1. 自己紹介

初めて開発に興味を持ったのは大学2年の頃。以前より日本の学校教育の在り方に疑問を抱いていましたが、環境倫理の授業で「開発教育」の存在を知り、「南北構造について知っている子どもたちってどれぐらいいるんだろう?地球の裏側で起こっている事柄や文化の多様性をもっと子どもたちに伝えることが必要なのでは?」と思ったことが、最初のきっかけでした。

卒業後に勤めた教育系企業では、学校現場の教員・学生の課題を拾いつつ、休みになると度々海外ボランティアへ参加したり(フィリピン、カンボジア、インド)、地域で開催される開発教育の研修を受ける日々。「勉強にも部活にも意欲を見出せない子どもが増えている」「大学の全入化の影響でモチベーションを喚起する材料がない」という声を頻繁に耳にする中で、開発教育やその手法(参加型)の可能性を感じずにはいられない毎日でした。

しかし入社4年目「開発教育のビジネスイメージが湧かない」と社長に一蹴されたことを機に、もっと開発に関する知見と経験値を高めてこの夢を絶対に叶えたいと思い、渡英を決断。開発分野の中でどの専門に定めるか悩んだ時期もありましたが、キャリアに一貫性を持たせるため「教育」を選びました。退社後はウガンダ地方部のpro-poor の私立小学校でボランティアを行い、帰国後その経験に基づいて日本国内の高校で講演会活動等を行っていました。

2012年1月に渡英、University of East AngliaのGraduate Diplomaコースを経て、10月よりIoEに在籍しています。


2. 所属コースの概要

<概要>

開発×教育を学べるコースには、下記の4つがあります。

Education and International Development (EID)

Education, Gender and International Development (EGID)

Education, Health Promotion and International Development (EHID)

Educational Planning, Economics and International Development (EPEID)

上記いずれかのコースに所属し、教育と国際開発に関する諸問題を、理論と応用の観点から学びます。

コースは(フルタイムの場合)秋・春・夏の3ターム構成です。モジュール1つにつき、通常3時間(週)×10週で行われますが、1週間集中型のインテンシブ型や、オンラインタスクが中心となるものもあります。

MAMIDでは、必修科目(30 Credits)+選択科目(30 Credits×3)+修士論文(60 Credits、20000語)または必修科目(30 Credits)+選択科目(30 Credits ×4)+レポート(30 Credits、10000語)のいずれかをもって卒業となります(後者の場合は担当教諭に要相談)。

各モジュールとも、評価は基本的に100%期末エッセイで決まります。加えて80%以上の出席も必須です。

<強み・弱み>

IoEの強みは、なんといっても教育分野の先進機関であるが故に、教育に特化したモジュールが圧倒的に多いこと。教育を専門にしたい人にはぴったりの機関です。逆にいうと、開発全般の知識や、環境、政治、紛争等その他の分野も幅広く知見を得たい方は、少々物足りなさを感じられるかもしれません。ただ、後半でも触れているように、他大学の図書館やセミナー等に気軽にアクセスしやすい立地条件にあるので、そこは十分にカバーできると思います。

<生徒構成>

出願時に半年間以上の開発途上国での実務経験が求められることもあって、国際機関、政府機関やNGOで経験を積んだ学生が大変多いです。学生の年齢層も比較的高いように感じます。授業で学ぶ理論を現場の体験に落とし込んで考えるには最適の環境かと思います。私の所属コースの在籍人数は約50名以上。国籍はイギリス・アメリカはもとより、アフリカ、アジア、南米などからの留学生も多く在籍しています。本年度は日本人が7名在籍しています。


3. 授業の概要

・授業名:Education and Development: Concepts Theories and Issues

・内容:理論ベースの必修科目。前半では、基本的な理論として、HCT(人的資本論)や、それに対する反論から生まれた現在主流になっているRight-Based Approach、また比較的新しい枠組みであるCapability Approach等を学びます。

後半では、政治経済、ジェンダー、保健(HIV/AIDS)、持続的開発、グローバリゼーション等幅広い側面を踏まえた上で教育開発を考察します。

5000字の期末エッセイに加え、ターム中に1000字×2本のエッセイが課されます(後者は成績評価には入りません)。期末エッセイは、現段階ではインドの民間・NGOが教育に果たす役割とその功罪に関して、Capability Approachを用いて書く予定です。


・授業名:Gender, Education and Development

・内容:開発途上国でのジェンダー×教育に関わる問題を扱います。最初に理論の枠組み(Women in Development, Gender and Development, Capability Approach等)に触れ、後にカリキュラム、教室、教員、暴力、家族、地域、エンパワーメントといった多岐に渡る切り口で議論を行います。クラスメイトは約15名程度でそのほとんどが女性でした。授業中の生徒のプレゼンテーションはありませんが、Writing Exerciseといって、ターム中に1度、テーマに沿った1000文字のエッセイを書き、グループ内で発表するタスクが課せられます(成績評価には入りません)。

感想:たとえば、ジェンダーの授業の中の1テーマとして教育が触れられる、もしくはその逆パターンの大学は多数ありますが、IoEのこのモジュールは各回全て「ジェンダー×教育」に特化しているため、かなり深い知見を得ることができました。

現在多くの国でGender Parityは達成されつつありますが、そんな統計の裏にいまだにジェンダー格差は根強く存在しています。実際に学校現場レベルで生じている問題について、また学校を越えて家庭や地域社会で生じている政治・経済・文化的なジェンダー要因について、クラスメイトと議論を深められるのがこのモジュールのいちばんの醍醐味かもしれません。Dr. Jenny Parkes (アフリカ、Violence専門)と共に講師を務めるDr. Elaine Unterhalterは、Social JusticeやGADアプローチで大変有名な方。授業の運営も抜群に優れています。

現在、ケニアの女子初等教育のジェンダー平等について、FPE(初等教育無償化政策)の功罪及びWIDとGADの枠組みを踏まえ、期末エッセイを執筆しているところです。


授業:Planning for Education and Development

内容:貧困、紛争、環境問題等が問題となる開発途上国での、国際機関・政府・NGOの教育援助プログラム・プロジェクトのプランニング方法及びその問題点を学びます。授業の初めには毎回10分程度のグループプレゼンテーションがあり、その後前半はレクチャーを中心に、後半はグループディスカッションを中心に授業が進みます。モジュールの最終週には、各グループで考えたプロジェクトプランニングの発表が義務付けられています。

感想:Logframesなど現場で応用ができる理論や、計画立案、実施、モニタリング、評価といった一連の流れを、実際にプランニング経験のある学生と共にグループで討議できるのが非常に良かったと思います。Final EssayではタンザニアにおけるDFIDとJICAの教育政策の違いをテーマに論文を書きましたが、包括的な視点でロジカルに比較分析する力が身に付いたように思います。

ちなみに、このモジュールのコーディネーターはMoses Oketch准教授。アフリカのFPEの問題点についてこれまで数多くの執筆をされている、ケニア出身の教育経済学の専門家です。(非常にテンポの良い独特の語り口調で、皆授業に夢中になっていました。)

その他、Development Education in the era of globalisation(学科外科目)とPromoting Health and Wellbeing::Planning, practice and participationを履修しています。


4.大学紹介

キャンパスはRussel Squareというロンドン中心部の大変立地の良い場所にあります。Senate House Libraryや、他開発学で最大の蔵書数を誇るSOAS、またLSHTMやLSE等もすべて徒歩15分圏内。外部で開催される開発系のセミナーにもアクセスしやすいため、大学外においても幅広い知識やネットワークを得ることができる抜群の環境です。

また、ロンドンというと多忙な暮らしを連想される方も多いと思いますが、Green ParkやHyde Parkなど広大な公園が数多くあり、散歩をするとリスやアヒルの群れに遭遇することもしばしばです。大英博物館も徒歩圏内。忙しさも寛ぎも両方体験するには、ここロンドンは最適の場所だと思います。


5.その他

学校から徒歩3分の場所に、家賃£600-700/月程度のJohn Adams Hall(学生寮)があります。近所にスーパーやレストランも多数あり、とても便利な場所のようです。私が住んでいるフラット(£400/月)は学校からバスで30分程度の場所ですが、トラベルカード(学生の定期券のようなもの。£81/月)のおかげで、空き時間になる度にロンドン中を動き回っています。

学校に近い立地&友達と多く過ごされたい方には寮、お金を抑えたい&自由に動き回りたい方にはフラットがおすすめかもしれません。どこが絶対に安全!とは一概に言えませんが、西のエリアは比較的治安もよく日本人も多く住んでいると聞きます。


6.留学をめざしている人へ一言

私の渡英前を振り返ると、留学を決断してから渡英までの2年間は、長いようですごくあっという間だったように思います。会社勤めをしながらの準備だったので、土日を全て大学院探しと英語の勉強に費やしていました。今となっては、あの時期の準備が現在の自分を全て支えてくれていると思います。

留学には思った以上に多大な労力、お金、覚悟が求められますが、目的意識さえ強く明確に持ってくることができれば必ず実りある体験が待っています。IDDPの留学レポートを読んで、一人でも多くの方がイギリス留学に興味を持っていただけることを心から願っています。