「MSc Public Health in Developing Countries」London School of Hygiene & Tropical Medicine, University of London

(ロンドン大学 衛生・熱帯医学校 「途上国における公衆衛生 修士課程」)

西村 恵美子(にしむら えみこ) さん

執筆日:2013年5月

1.自己紹介

大学(専攻は国際関係)卒業後、日本の援助機関に勤め、本部やアフリカの在外事務所で保健・公衆衛生分野の開発事業に携わってきました。その中で、より効果的に事業を進めていく上で、公衆衛生分野の基本的な知識を体系的に身につけたいと思い、留学を希望しました。とくに、疫学・統計に関する基礎知識を身につけるとともに、保健システム・保健政策についてより深く学びたいと思い、途上国における公衆衛生を包括的に学べることで定評のある本コースへの留学を志望しました。


2.所属コースの概要

LSHTMには約20の様々なコースがありますが、中でも「途上国における公衆衛生(以下PHDC)」コースの特徴は、コースメイトの多様性と、「途上国対象に特化している」という点にあると思います。

学生数は、2012-13年度は約40名と例年より少なかったようですが、出願時に2年以上の途上国経験が必須となっていることもあり、NGO、国際機関、ボランティア等で途上国で働いたことのある人が集まってきています。とくに医療緊急支援で有名な「国境なき医師団(MSF)」での勤務経験がある人が多く、3分の1くらいを占めていました。国籍はアメリカ・イギリス・ヨーロッパに加え、アフリカ、アジア、中南米と幅広く、また医者や看護師といった医療職の人も多いですが、国際関係やジェンダー、政治など幅広いバックグラウンドの人が集まっています。他コースより年齢層が比較的高く、経験豊富な人が多いです。2012−13年度は日本人は4名でした。

コースは3 termに分かれており、第1学期(10-12月)は全て必修で、疫学、統計、保健政策、保健経済、社会調査の5科目と、PHDCコースセミナー(コースメイトが自分のこれまでの経験を共有・議論する)を受講します。第2学期(1-3月)は選択科目となり、疫学系、政策系、経済系など幅広い選択肢から各々関心のある分野の科目を受講します。第3学期(5月)は総まとめとなる「公衆衛生の途上国への応用」という科目を受講し、6月に最終試験、9月に修士論文にあたるサマープロジェクトを提出、というスケジュールになっています。第1学期にインテンシブに公衆衛生の基礎を学び、2学期には関心分野をより深く学び、3学期にまとめ、ということで1年間バランスよくオーガナイズされていると思いました。


3.授業の概要

・授業名:Extended Epidemiology (応用疫学)

・内容:1学期の必修科目の1つです。公衆衛生の基礎となる疫学について、週2回×3時間でインテンシブに学習します。各回1時間の講義と1時間半のセミナーがセットになっています。評価は6月の試験で決まります。

・感想:LSHTMは疫学に強いと言われているようですが、実際、2ヶ月で疫学の基礎を系統立てて学ぶことができたと思います。非常にインテンシブでついていくのが大変でしたが、将来にも役立つ知識が身に付いたと思います。


・授業名:Health Systems (保健システム)

・内容:2学期の選択科目の1つです。2000年のWHO世界保健報告書で取り上げられて以降注目が高まっている保健システムに関する概念、機能、構成要素、評価方法等に関して、講義とセミナーを通じて学びます。セミナーは先進国・中進国・途上国対象でグループ分けされ、1グループ15名くらいで生徒中心で運営されました。評価はセミナー運営(25%)と1500語のエッセー(75%)でした。

・感想:個人的には一番学びたいと思っていたテーマで、保健システムの様々な側面の最新の学術的動向について学ぶことができて有益でした。


・授業名:Current Issues of Safe Motherhood and Perinatal Health(母子保健)

・内容:2学期の選択科目の1つです。前半は母子保健について、理論・モデル・最新のエビデンスを学習し、後半はグループワークを通じて、与えられたテーマについて、学会発表で用いるようなポスターを作り、発表します。評価はポスター発表(50%)、700語のエッセー(50%)でした。

・感想:我々のグループのテーマは「ナイジェリアにおいて新生児死亡率を削減するための政策を提言する」というものでした。3週間かけて、5名のグループメートと意見交換を重ねてポスターを制作するというのは非常に大変でしたが、良い経験になりました。


4.大学紹介

メインキャンパスは、ロンドン中心部のロンドン大学一帯にありSOAS、IOE、UCLなどの近くで非常に便利です。LSHTMは学部を持たず、大学院生以上(修士・博士・研究員)しかいないので、比較的校内の雰囲気は落ち着いていると思います。建物は古いですが歴史的な趣があります。メインキャンパスの他に、徒歩10分くらいのところにもう1つ別のキャンパスがありますが、授業やセミナーでは、ロンドン大学のLSHTM以外の学部の建物も借用することもあります。

5.その他

LSHTM専用の寮というものはなく、ロンドン大学の寮が近くにいくつかあります。私はGoodenough Collegeという様々な大学のpostgraduateの学生が集まる寮に住んでいました。大学から徒歩10分という非常に便利なロケーションと、寮での様々な催しを通じて寮での友人関係もできるのがよかったです。

6.留学をめざしている人へ一言

留学準備はいろいろと大変だと思いますが、留学志願書のエッセーの準備や、IELTS対策の勉強などは、大学院の勉強においても絶対に役立ちます。とくに私はIELTS対策で学んだAcademic Writing(図表の説明なども含む)が、授業での課題(エッセーや試験)で非常に役立っていると感じます。全ての準備過程が将来に通じると思って、あきらめずにがんばってください。