「MA in International Education and Development」Sussex School of Education, University of Sussex

(サセックス大学 「国際開発教育 修士課程」)

上野 明菜(うえのあきな)さん

執筆:2012年3月

自己紹介

開発は大学在学中から興味があり、ボランティアサークル(ハビタット)に所属し、主に募金活動をしていました。開発学を真剣に学びたいと思った決定的な瞬間は、休学して2年間シンガポールで勤務していた頃、出張で東南アジアの途上国へ行った時に現地の人々の生活水準の低さを目の当たりにした時です。卒業後は4年間私立高校で英語の教員をしていましたが、学びたくても教育にアクセスできない子供達に質の良い教育を届けることを今後の人生の目標とし、開発の世界では修士号を取ることが必須であるため、退職して留学を決定しました。

なぜ開発教育?

貧困の原因は多岐に渡りますが、人のエンパワメント(能力付与)は基本的に教育がその根源であること、全ては教育から始まるという思いから迷うことなくこの分野を選びました。もちろん、教員経験も関係しています。

なぜ海外留学&英国?

日本やフィールドに近い東南アジアの大学院で学ぶことも考えましたが、開発の研究・理論は欧米が中心であることと、様々な人種の人々との英語による討論や、論文執筆等のアカデミックスキルを習得することはこの先のキャリアで必須だと思ったため留学を決めました。また、英国は米国と違い、1年で修士号が取れることは経済的にも20代後半のキャリアチェンジという点でも魅力的だったので英国にしました。

なぜサセックス大学?

神戸大学と提携を結んでいる関係で、現役学生の方と連絡を取ることができ、出願前に実際に詳しく話を聞けたことが大きいです。ロンドンは経済的に難しく、また都会ではなく静かな環境で勉強に励みたかったのも理由の一つです。IDS(Institute of Development Studies)という開発学の研究機関が大学内にあり、大学全体が開発学に力を入れているのも良いと思いました。実際にほぼ毎週、開発関連のセミナーやワークショップがさかんに行われています。

コース概要

コースメイトは30名で(日、韓、英、米、加、伊、印、NZ,アイルランド、タイ、ミャンマー、ナイジェリア)昨年は大半が日本人だったらしいのですが、今年は欧米系の生徒が多いです。ちなみに日本人は6名です。ほとんどの人が1年以上の途上国勤務経験(NGO,政府関係、青年海外協力隊等)、又は教員経験を持ち、授業でも頻繁に各国での経験に基づいた議論が行われます。経験の有無に関わらず、個人的に取り組みたい分野が明確で、強い熱意を持っている点は皆共通です。

授業全体について

・秋学期、春学期、夏学期の3ターム制です。

秋学期(10月3日~12月9日 ※うち1週間授業の無いReading Weekあり。)

・Debates in International Education and Development (理論)

・Perspectives on Education Policy and Practice for Development (実践)

・Academic Skills for International Education and Development (論文執筆のためのスキル)

が必修科目です。

最初の2か月で開発教育学の理論と実践の基礎を固めるというイメージです。アカデミックスキルのクラスは、ノートの取り方、プレゼンテーションの仕方や論文構成から計画まで実際に役立つスキルの習得を目指します。特に英語が母国語でない生徒にはとてもありがたい授業です。

春学期 (1月9日~3月16日)

・Education Planning and Governance for Development

(国際機関やNGOの役割、政策評価等)

・Gender, Inclusion and Educational Development

(ジェンダー、女子教育、障がいを持つ児童に対する教育等)

・Quality Education: Learning, Pedagogies and Assessment for Development

(教科書、カリキュラム、試験、言語と教育等)

・Teacher Education for Development

(教員教育カリキュラム、教員指導法等)

・Global Governance of Education and Conflict

(復興・平和構築と教育等)

秋学期で開発教育一般の理論と実践の基盤を固めた上で、春学期は専門性を高めるために

5科目中個人のキャリアプラン等を考えた上で2科目を選択します。

夏学期 (4月16日~6月22日)

・Research Methods in International Education and Development (研究手法)

・Academic Skills for International Education and Development

全ての授業(Academic Skillは2時間)は毎回1テーマ、1コマ3時間(休憩15分)の授業で、教授によって授業スタイルは違いますが、グループで議論を求められる機会が多いです。秋学期と春学期の間の1か月のクリスマス休暇明けに5000字のエッセイを2本、春学期と夏学期の間の1か月のイースター休暇明けにも5000字のエッセイを2本、そして6月初旬に修士論文の3000字の概要を提出し、9月初旬に15000字の修士論文を提出します。授業時間数は1週間に計8時間と少なく感じますが、Key Reading(授業までに絶対に読んでおかないといけない本や論文)の量がとても多いので、毎日のほとんどがリーディングで時間が過ぎます。例えば、少ない週で1科目あたり約70ページ、多い時には1科目あたり約200ページにもなります。

これまでに受けた授業内容・感想

Debates in International Education and Development(秋学期)

開発教育の歴史を見る上で重要な理論(Human capital theory、Neo-Marxism、Post-structuralism、Post-modernism、Post-colonialism等)を学びます。最初は各理論を理解するのに苦労しましたが、グループディスカッションを通して、また、春学期でも何度も繰り返し授業で触れられるので理解が深まりました。この授業は今後1年間に扱う問題を理解する上で大変重要な授業だと思います。評価は5000字のエッセイ1本で決まります。テーマは授業でカバーした範囲内で自由に決めることができます。ちなみに私は「生徒中心教育はカンボジアの教育政策にどのような課題を与えているか」というテーマで書きました。

Perspectives on Education Policy and Practice for Development

援助と教育、ジェンダー、HIV/AIDS、貧困削減、紛争等、開発教育をめぐる様々な問題をテーマに、理論の授業で学んだフレームワークに当てはめて実践的に取り組むという授業です。授業スタイルはディスカッションが多いです。特に途上国出身者やフィールド経験があるコースメイトから多くを学びました。評価は5000字エッセイ1本。こちらは「FTI-EFA合意後の日英(JICAとDFID)の教育援助政策の違い」をテーマにしました。

Teacher Education for Development

大人の学習と子供の学習・発達の違い、教員教育カリキュラムのデザイン、ICT導入の可能性などをテーマに途上国の教員に対する教育がテーマの授業です。特に、教授が設定したある仮想の国に対して3人グループで初等教育の教員教育カリキュラムを作成・発表をするという実践的な課題では、理論だけの学習では見えてこなかった、途上国における政策実施時に考慮すべき現実面が多くあることに気づきました。こちらも評価は5000字のエッセイ1本。「カンボジアの初等教育教員訓練カリキュラムの現状分析」について執筆中です。

Quality Education: Learning, Pedagogies and Assessment for Development

教育の質とは何か、その質を高めるにはどのような考察が必要か?という問いに答えるべく、学習、教授法、評価(PISA等の試験)に焦点を当て、現在の途上国の教育の質について分析する授業です。ウガンダやフィリピンの初等教育のカリキュラムや教科書の問題点や試験制度が教育に与える影響等、教育の質向上のためには教育全体のどの部分を改善すべきかについて意見交換するのは実際に一国の政策立案者になったようでとても楽しかったです。評価は5000字のエッセイ1本。「シンガポール独立直後の言語政策と教育政策が教育の質にどのような影響を与えたか」とうテーマで出す予定です。

大学&学部自慢

「イギリスで唯一の国立公園内にある大学」として有名です。キャンパス内はとても静かで、うさぎやリス、キツネを見ることも日常で、勉強の気分転換に裏山にハイキングに行くこともできます。ブライトンは海辺の街として知られていますが、少し離れると美しい緑の丘が広がる景色を見ることもできます。論文を書く合間に、キャンパス内にある公園をジョギングするのが気持ちいいです。キャンパス内には24時間オープンの図書館とITセンター、カフェ、パブ、小さめのスーパーマーケットもあり、普段の生活で不便に感じることはほとんどありません。

勉強に集中しやすい静かな環境と、街の中心部にもバスで30分、電車だと10分で遊びにいけるというオンオフの切り替えのしやすさがとても気にいっています。また、ブライトンは様々なイベントが1年中ある街なので飽きることは無いと思います。さらにロンドンへも電車で約1時間というロケーションの良さに満足しています。

当コースで一番気に入っている制度は、生徒一人に対し、必ず1人担当教授(チューター)が割り当てられることです。初めての論文執筆の際には内容に対して細かいアドバイスを頂き、本当にお世話になりました。また、「教育」を学ぶ人間が集まるからなのか、自然と勉強会グループができてお互いに助け合う精神が常に見られます。最大の楽しみは、例年春に予定されているパリのUNESCOとOECDへのスタディートリップです。

最後に、留学前にしておくべき事は、語学力向上は言うまでもなく、さらには批判的に物事を見て、疑問点や意見を自分の言葉で簡潔に述べる練習、専攻分野に関連する知識をできるだけつけておく、国内・海外の政治、経済問題に興味を持つ、何の為に留学に行くのか目的を再度考える。ということです。目標が明確でパッションがあれば途中で折れることはない。というのがここに来て教授やクラスメートから学んだことです。