「MA Conflict, Security and Development (Department of War Studies)」King’s College London

(キングスカレッジ・ロンドン 「紛争、安全保障、開発学研究科(戦争学部) 修士課程」)

武藤 祐希(むとう ゆうき)さん

執筆:2012年3月

1. 自己紹介

学部時代は法学部政治学科に所属しており、政治思想・統治機構論や行政学を勉強していました。学部時代は政治理論や歴史の流れを重視して勉強していたので、大学院では実践的な視点で現代起きている紛争や国際問題、安全保障について見識を深めたいと考えていました。英国には幼い頃から関心があったのですが、ブリティッシュカウンシルでのインターンを通じて英国の教育水準の高さに心を打たれ、英国への大学院留学を決めました。


2. 所属コース概要

このコースでは、名前の通り紛争解決・安全保障・開発学という3つの視点から現代社会における国際問題を考察します。私の所属するコースは90人程の学生が所属しています。学生の約40%は英国・米国をはじめとする英語圏の学生で構成されており、残りの約40%はヨーロッパ、約15%がアフリカからの留学生といった感じで、私の知る限りアジアからの留学生はたったの5人しかいません。(日本人2人、韓国人1人、マレーシア人1人、バングラディッシュ人1人で、珍しく中国からの学生は1人もいません。) War Studiesという名前からは想像しがたいですが、女性の学生が多く、教育のバックグラウンドも様々で心理学・人類学などを学部時代に学んでいた人もいます。学部卒業後にそのまま修士課程へ進学した学生も在籍していますが、政府から派遣されてきている人(各国の外務省・国防省・教育省から)や職歴(メディア・NGO・その他民間・国際金融機関等)のある学生も多いので、コース全体の考え方は実践的でリアリズム的な傾向があると思います。


3. 授業全体に関して

コースは3ターム制となっていて、1・2ターム中はレクチャーとセミナーがあり、3ターム目は修士論文に取り組むというのが大体の流れになっています。このコースでは、卒業条件として180credits(通年の授業は40credits、1タームのみの授業は20creditsであり)、core moduleの40creditsと修士論文の 60creditsが共通で、残りの optional module 80creditsについては学生が授業を自由に選択できます。学部の特徴としては、War Studiesが全部で15のコースで構成されていることもあり、選択できる授業が幅広く、キングスカレッジでしか勉強できないような授業がたくさんあるということです。基本的な授業としては国際関係学や外交政策、人権、紛争解決学や開発学などがありますが、War Studiesならではの授業としては、インテリジェンス論(諜報活動やスパイについて)やテロリズム研究、核非拡散研究や移民とナショナリズム研究というようなものがあり、学生の関心によって自由に研究することができます。


4. 授業内容及び感想

Security and Development (40credits, core module)

成績評価 エッセイ50%(各ターム3000字×2)、テスト50%

授業内容 紛争解決前・中・後における平和構築のプロセスや安全保障、開発に関する考察を行います。授業ではケーススタディが重要視され、アフリカやラテンアメリカを中心とする紛争地域での問題に取り組みます。イラク・アフガニスタンの問題も一部で取り上げられます。

キーワード 貧困、社会的不平等、グローバリゼーション、開発、紛争解決、開発教育、天然資源と紛争、紛争地域の児童兵士と女性の人権、DDR、SSR、紛争解決のためのNGOと国際機関の役割、ODA、国際連合・IMF・世界銀行の取り組み、平和構築、公衆衛生


East Asian Security (40credits, optional module)

成績評価 エッセイ90% (各ターム4000字×2)、プレゼンテーション10%

授業内容 東アジア及び太平洋地域における安全保障について考察します。ミリタリーバランスや地政学的な視点はもちろんのこと、政治的経済的な視点からも安全保障と防衛について考察します。

キーワード 歴史と地政学、中国脅威論、中国の軍拡とその影響、北朝鮮問題、竹島・尖閣諸島問題、日本の戦後補償問題、日米同盟、韓国のアフガニスタン・イラクでの取り組み、自衛隊と憲法問題、台湾問題、シーレーン、海洋の安全保障、インドとパキスタン、ミリタリーバランス、ASEAN、リージョナリズムとグローバリズム


Natural Resource and Conflict (20credits, optional module)

成績評価 エッセイ100%(3000字×2)

授業内容 アフリカを中心とする天然資源と紛争の解決について考察する。石油などの燃料系資源はもちろんのこと、ダイアモンドや水資源等幅広い資源問題を扱う。

キーワード 石油・木材・天然ガス・土地をめぐる紛争、紛争ダイアモンド、水資源、レアアース、国際河川の共同管理、中国のアフリカ開発、発展途上国におけるグローバルカンパニーの役割、グローバリゼーションと貧困、CSR、キンバリープロセス、NGOと国際機関の役割、国際連合・世界銀行・IMFのドナー問題


Responding to Terrorism (20credits, optional module)

成績評価 エッセイ80%(1500字×1、2500字×1)プレゼンテーション20%

授業内容 テロリズムの防止・またはテロリズム発生後の国際機関および政府、地域社会のレスポンスについて考察する。テロリズムがもたらす心理的影響や人々の行動等にも着目。ロンドンオリンピックのテロ対策チーム・スコットランドヤード(ロンドン警視庁)のテロ対策チーム等、テロ対策の実務経験者がゲストスピーカーで授業をおこなうのが魅力。

キーワード テロリズム、7.7ロンドンテロ、radicalisation、community resilience、生物兵器テロ、CBRNテロリズム、CONTEST(英国のテロ対策政策)、小型爆弾テロリズム、核とテロリズム、テロがもたらす心理的影響と行動心理学、メディアとテロリズム


5. 大学情報

キングスカレッジは、ロンドンに5つのキャンパスを持つ総合大学ですが、私のコースはストランドにあるキャンパスです。ロンドンの真ん中にあることもあり、ストランドキャンパスはオフィスのようなビルの作りになっています。キャンパスのすぐ近くにあるThe Maughan Libraryは国の特別歴史建築物にも指定されており、キングスカレッジの歴史を物語る建物の一つといえます。テムズ川やビックベンにも徒歩でいける立地条件は、英国での生活をより一層満喫できる要素の一つといえるのでないでしょうか。今年は女王陛下が新校舎(サマーセットハウスの一部をキングスカレッジが教室として利用)の視察にいらしたこともありキャンパスは一層活気づいている様子です。