「MSc Development Administration and Planning」The Bartlett Development Planning Unit, University College London

石井 瑶子(いしい ようこ)さん

執筆:2011年2月

1.自己紹介

日本の大学では文学部考古学専攻に所属し、主に古代エジプトを研究していました。近年、エジプトでは発掘活動だけではなく遺跡保存が重要視されているため、UNESCOの活動や国際協力による保存活動を勉強するうちに、開発という分野に興味を持つようになりました。日本では開発学という学問が確立されていないことと、当たり前かのように就職活動という波に乗るのが嫌で(笑)、開発学で有名なイギリスへの留学を決意しました。しかし、開発学の基礎知識がないうえに、旅行でしか英語を使ったことがなかったので、大学卒業後の2010年9月からSchool of Oriental and African Studies (SOAS)にてFoundation Diploma for Postgraduate Studiesという1年間の大学院準備コースを受講し(開発学と国際関係論を専攻)、2011年9月よりUCLの大学院へ進学しました。

2.所属コースの概要

このコースでは、主に開発に関する政策やプロジェクトのプランニングについて理論的、実践的な面の両方から学ぶことができます。理論的な面では、ODAや国際機関が提唱する政策(Structural Adjustment やPoverty Reduction Strategy)から近年の開発への取り組みやアドボカシー(インフラ分野における官民連携PPPやBOP business)までとても幅広いテーマを勉強します。どのテーマもガバナンスや経済政策に関連したもので、国際関係論の要素も入ってきます。実践的な面では、プロジェクトのプランニングとマネジメントについて学びます。開発現場ではプランニング・マネジメントスキルというのは必ず要求されるもですが、意外にもこれらを教えてくれるコースはあまりありません。ワークショップ、チームプロジェクト、フィールドトリップと実践を通して学ぶことができることはこのコースの最大の特徴だと思います。

このコースには60名ほどの生徒が在籍しています。生徒は様々な国から来ており、今年は33カ国から集まりました。残念ながら東南アジア出身の生徒は1人(タイ)しかいませんが、いわゆる「発展途上国」と呼ばれる国出身の生徒が多いので、生の声を聞くことができます。また、欧米出身の生徒も多いので、欧米vs元植民地の議論が授業中に展開されることもあり、様々な視点から物事を見る力が養われます。年齢層は比較的高く、職務経験や開発現場での実務経験を持つ生徒が多いこともこのコースならではだと思います。私のように経験がないと苦労することもありますが、経験のある生徒から学べることが多いのでとても勉強になります。

3.授業全体に関して

コースは3ターム制となっていて、1タームと2タームは授業中心で、3ターム目にはフィールドトリップ(3週間ほど)があります。3ターム目終了後(6月中旬)~9月初旬までが主な修論執筆の期間となります。1ターム目にはWindsorでの合宿形式のワークショップもあります。必須科目(修論除く)が3科目あり、選択科目が1~2科目(単位数による)になります。選択科目は学部内の科目であれば自由に取ることができます。授業は1科目3時間でレクチャーとセミナー(生徒によるプレゼンまたはディスカッション)を行います。評価はエッセイとテストで決まるものが多いです。ただ、このコースは3ターム目にフィールドトリップがあるので、すべてのテストが2ターム目終了後すぐに行われます。なので、授業とテスト勉強、選択科目によっては2ターム目の終わりにエッセイ提出があるので、3月はとてもハードです。また、1年を通してチームプロジェクトがあるので、授業がない日やReading Week(ターム中の1週間休み)、イースター休暇でもミーティングが入ることも多いです。

4.授業の内容

Management and Planning for Development: International and National Dimensions(必須)

1ターム目では、開発におけるstate 、(capitalist)market、 civil society(NGOs)のそれぞれの役割について学びます。2ターム目では、urbanisation は開発のプロセスとして必要かどうか、urbanとruralのつながりについてと、ODAの性質や変遷について学びます。セミナーでは生徒が事前に与えられた議題についてグループでプレゼンをし、その後クラス全体で質疑応答及びディスカッションを行います。ODAについての授業は国際関係論の視点から見るので、基礎知識がないと少し難しいかもしれません。

Political Economy of Development:Industrialisation and Infrastructure(必須)

1ターム目は開発に関する政治経済の理論(Modernisation Theory, Marxism, Dependency Theory, World System Theoryなど)について深くまで学びます。教授がパワーポイントやハンドアウトを一切用意しない人で、2時間ほどひたすら話していることをノートに書き留めなければならいので、大変でした。また、経済学の知識も少し必要となるので、バックグラウンドがない私は話についていけないこともありました。2ターム目にはテーマが2つに分れ、生徒はLand, Food and Agricultureか Industrialisation and Infrastructureのどちらかを選んで受講します。私は後者を受講しました。1ターム目が理論だったのに比べ、2ターム目はテーマに関する実際の動向(発展途上国におけるインフラの民営化推進、BOPビジネス、Global supply chainなど)について、教授による授業と生徒によるグループプレゼンを通して考察します。

Development in Practice(必須)

1ターム目から2ターム目の最初までは、プロジェクトのプランニングの仕方やプランニングに必要な分析について勉強します。授業と同時並行で、チームで現実に基づいた仮想プロジェクトを考え、予算をもらうためのプロポーザルを作成するという実践も行います。また、1ターム目にはワークショップもあり、実際にトルコで提案されている開発計画について、様々な関係者になりきり、どのように計画を進めていくか交渉するということを行いました。関係者それぞれの要望があり、計画を進めていくことの難しさを実感する良い機会となりました。

2ターム目の途中から3ターム目はプロジェクトマネジメントの要素が強くなり、フィールドトリップとその準備と報告を行います。今年はエチオピアに行くのですが、様々な分野に(インフラ、教育、医療、ツーリズムなど)分かれて、視察やインタビューを行い、国及び地域の開発政策が履行されているか評価し、改善策を提案します。

Social Diversity, Inequality and Poverty(選択)

1ターム目では、アイデンティティとは何かということから始まり、政策やプロジェクトを考えていく上で、アイデンティティ(特にマイノリティー)をどのように考慮すべきかということを勉強します。2ターム目では、貧困問題に注目し、貧困とは何か、そして解決するためにはどのようなアプローチが必要かということについて、様々な視点(経済的、社会的、権利など)から学びます。とても概念的で「正しい答え」がないトピックを扱っているので、時に難しく感じますが、開発に携わるうえで重要な考え方を学ぶことができます。

5.大学情報

UCLはロンドン大学の中でも一番最初に創設された、一番大きな大学です。正門から見えるメインの図書館の建物は壮観で、圧倒されます。創始者であるベンサムのミイラ(?)が展示されていることでも有名です。近くには大英博物館もあり、中心街へのアクセスも良く、勉強だけでなく、ソーシャルライフも充実させることができます。