「MA in Development Studies, Institute of Development Studies (IDS)」University of Sussex

(サセックス大学開発学研究所(IDS)「開発学修士課程」)

諏訪 ゆう子(すわ ゆうこ)さん

執筆:2011年2月

自己紹介

留学の理由:開発関連の仕事に就くためには関連する修士号の取得がほぼ必須であること、イギリスでの修士であれば定評もあり且つ通常1年間で修士号取得が可能であること、以上が留学を決意した理由です。

これまでの経歴:学部卒業後に一旦民間企業に勤務した後、青年海外協力隊員としてマダガスカルで2年間、チュニジアで6ヶ月間活動をしました。

所属コースの概要

開発学修士コース(以下、MA-Dev)は「ゼネラリスト養成コース」と言われているだけあり、IDS内にある7つのMAコースの中でも最も学際色の強いコースです。(※今年度は「MA in Participation, Power and Social Change」コースがキャンセルになったので、実際には全部で6つのMAコースが実施されています。)

コースの長所:IDSの修士コースは最終学期である第3学期が終了するまでに全部で6本の授業を取りますが、MA-Devは必修授業が第1学期に1本あるだけです。従って卒業するまでのカリキュラムをそれぞれの生徒がそれぞれの必要にあわせてデザイン出来るよう柔軟性のあるシステムになっています。

コースの短所:MA-Devは常に生徒数が多くなりがちで、今年度は40人強です。その為、2月段階においても未だに名前が分からないコースメイトが大半で、今でも時々MA-Dev内で自己紹介をして名前を確認し合っているような現状があります。また、カリキュラムをカスタマイズ出来る自由がある一方、カリキュラムをデザインする難しさがあります。

一般的にIDSのMAコースはIDS内の研究員から成る研究グループ群の一つと密接に関連した構成となっているため、学期末論文や卒業論文作成時の論文監督者(Supervisor)も、自らが所属するMAコースと最も関連する研究グループからだと比較的獲得し易いようです。(例:「MA in Globalisation and Development」コースと「Globalisation」研究グループとの関係。)しかしMA-Devに限ってはこのようにIDS内に特定の関連研究グループを持たない為、他MAコース生と比較して論文作成時に希望するSupervisorの獲得の難しさが伴います。

授業全体について

修士コースは1年間が3学期制で区切られており、1学期ごとに授業を2本選択することにより、前述にあるよう最終的には6本の授業を受けるようになっています。その他、単位にはならない授業として毎回テーマが変わる「プロフェッショナルスキル・コース」という授業が週1回実施されています。これに関しては各自が必要に応じて参加出来るようになっています。また、定期・不定期で行われるワークショップも大抵自由に参加できます。このワークショップには時折サセックス大学生も参加しているようです。

なお、長期休暇は学期と学期の間にありますが、次の学期の開始日が前学期の各授業から出された課題の提出日になっているので、「学校のことは全て忘れて羽を伸ばす」といったような休暇の過ごし方はまず難しいシステムになっています。

(第1学期)必修科目:「Ideas in Development and Policy, Evidence and Practice」

(第1学期)選択科目:「Managing Globalisation」または「Sociology, Anthropology and the Development Conundrum」

(第2・第3学期)各学期2本ずつ授業を選択します。

第2学期以降の授業選択時の条件として、IDS内の他5つのMAコース向けに行われる授業群のうち、あるMAコース向け授業群から2つ授業を選択することは出来ません。例えば、IDS内には「MA in Governance and Development」というMAコースがあります。このコース向けに第2学期には2つの授業が“授業群”として用意されています。この授業群から、MA-Dev生はどちらか1つの授業を選択することは可能ですが、2つ以上選択することが出来ないという制限があります。

これまでに受けた授業の内容・感想(複数可)

授業名:Ideas in Development and Policy, Evidence and Practice(第1学期)

内容・感想:開発学の大枠・概要を把握するために第1学期に設けられた授業であり、IDS内の全てのMAコース生に対する必修授業となっています。「開発とは何か?」から始まり、経済、政治、人類学、ジェンダー、人間開発、市民社会、ビジネス、環境などの視点と開発学の関係に焦点を当て、開発学を「広く浅く」カバーするといった感じの授業です。授業は講義とセミナー(ディスカッションを中心にした講義のフォローアップ)から構成されています。

講義は全MAコース生約130名が大ホールに一斉に集まって行われるので、MA-Dev以外のコースに属する生徒達の意見にも触れられました。また、毎週トピック毎に講師が変わるのですが、それぞれがその分野の第一線で活躍しているような方々ばかりだったのでとても貴重な機会になりました。一方、セミナーは各MAコースに分かれて行われました。MA-Devに関しては生徒数自体が大勢なので、更に8つのグループに分けられた後、2つのグループごとにセミナーが実施され、講義を元に更に発展したディスカッションが出来るようになっていました。

課題は中間論文と期末論文の2本構成で、学期半ば頃に中間論文(3,000単語、授業の最終成績の30%に相当)、翌学期にあたる第2学期第1日目に期末論文(3,000単語、最終成績の70%に相当)を提出します。論文トピックは決められたリストの中から選ぶのですが、どれもあえて様々な解釈の余地が残された抽象的なトピックとなっており、生徒がそれぞれ自分の興味にあわせて論文内容を深めていけるようになっています。

授業名:Managing Globalisation(第1学期)

内容・感想:「貿易自由化の加速、中国やインドに代表される巨大な新興国の登場、気候変動がグローバリゼーションに最も影響力を与えるファクターである」という前提のもとに、「グローバリゼーションをマネージメントすることは可能か?」を問う授業です。この3つのファクター以外にも、国際金融システム、2008年に発生した金融危機とそれに対する政策、WTO、グローバル・スタンダード、CSRなどの観点からグローバリゼーションとそのマネージメントの可能性を探ります。

この授業も講義とセミナーから成り、講義は授業を選択した生徒全員で一斉に行う(この授業が必修である「MA in Globalisation and Development」コース生と、この授業を選択したMA-Dev生徒のみ)のに対し、セミナーは生徒間でのディスカッションをよりスムーズに行うために2つのグループに分かれて行われました。

課題は期末論文(5,000単語、最終成績の100%に相当)です。論文トピックに関しては授業内容に関連したものであれば各自が自由に設定できます。

授業名:Economics for Development(第2学期)

内容・感想:講義では経済学の中でも特に開発に関連のある貧困、農業貿易、教育と健康、人口の都市集中化、工業化、投資、援助の効果とその評価方法、などのトピックを取り上げ、経済的視点からそれぞれの指標をどう評価すべきかを学びます。また、「STATA」という統計ツールの利用方法、数値として出た結果の解釈なども併せて学びます。一方、セミナーでは生徒各自につき1回、自分の好きなトピックのセミナーでプレゼンテーションをするような仕組みになっています。

第2学期中に予定されている授業の中ではこの授業に限り、選択希望者が8人以上集まらないと実施されないという条件があります。その為毎年実施される保証のない授業ですが、今年度は約20名の生徒が集まる盛況ぶりとなり無事実施にまで漕ぎ着けました。

課題は毎週出される宿題(その週にカバーされた授業内容の理解と、授業範囲以上の追加リサーチを求められる問題集。最終成績の20%に相当)、期末試験(最終成績の50%)、期末論文(2,500単語、最終成績の30%)です。

授業名:Competing in the Global Economy(第2学期)

内容・感想:グローバル化の進む市場の中で、途上国の中小企業がいかに市場進出を果たし且つ競争力をつけられるのか、果たしてそれは可能なのかをテーマに、グローバル・バリュー・チェーンとクラスター、テクノロジーとイノベーション、中国が与える途上国への影響、投資、工業化、などの点から検証します。

課題は期末論文(5,000単語、最終成績の100%に相当)です。論文トピックに関しては授業内容に関連したものであれば各自が自由に設定できます。

その他の情報

IDSで最もユニークな点はサセックス大学との関係だと思います。1966年に設立されたIDSは、歴史はまだ浅いながらも世界で最も古い開発学専門の研究所です。研究所としては設立認可という点からも資金という点からもサセックス大学から完全に独立しています。授業もほぼ全てIDS独自の授業を受け、IDSの研究員から課題や卒業論文の指導を受けます。ただ、IDSがサセックス大学のキャンパス内に設立されているという点から、IDS生徒に対する単位制度や学位などの面でサセックス大学と関連があります。また運用面として、IDSの生徒はIDSが独自に持つ図書館(BLDS。EU圏内の開発学関連の書籍を集めた図書館としては最も大きい)、コンピューター施設、IDS生としてのEメールアカウントなどが利用・所有できるのと同時に、サセックス大学の図書館、コンピューター施設、サセックス大学生としてのEメールアカウント(つまりIDSのものとあわせて2つのEメールアカウント)も利用・所有できます。それ以外にも、IDS内・キャンパス内の食堂および寮などはIDS生・サセックス大学生の区別無く自由に利用出来ます。

IDSは研究所であるため、イギリスの一般の大学のようにイギリス・EU出身の生徒とそれ以外からの生徒の間での授業料の格差がありません。その為かIDSにはイギリス人の生徒が非常に少なく、今年度のMA生約130人に関して国別だとインド人(19人)と日本人(12人)が最も多く、言語別では英語を母国語・または母国語同様に使用する生徒が多いです。また、MA生であっても圧倒的に実務経験者・現場経験者が多いです。この点と、IDSの“学校ではない”という点が相まってか、IDSの研究員は生徒を教えている・いないに関わらず生徒をいわゆる“生徒”としてよりもむしろ“同僚”として扱っているような印象を受けます。