「MSc in International Public Policy」, University College London (UCL), University of London

(ロンドン大学UCL 国際公共政策修士課程)

吉浜 智美(よしはま ともみ)さん

執筆:2010年3月

自己紹介

高校時代に国連職員になりたいと考え、日本の大学、大学院で国際行政学を勉強しました。修士在籍中に国際労働機関(ILO)やコンサルタント会社でのインターン、NGOでのボランティアを経験しました。卒業後も、大使館、児童施設、シンクタンクで5年9ヶ月働くかたわら、休日はボランティアを続けていました。その後、海外勤務の話がなくなったことを機に、かねてから課題だった英語力を伸ばすため留学しました。早い時期から国際協力に興味をもったものの、開発分野での実務経験はなく、この留学を機にキャリアチェンジをはかりたいと思っています。児童労働に関するILOの国際労働基準について勉強しており、できるだけその道での専門性の高い修士論文を書くこと、欧米文化を知ること、いろいろな国の出身者と話し、彼らの価値観を知ることがこの留学の目的です。


所属コースの概要

MSc International Public Policy (IPP)は、Department of Political Science という学部(普段はSchool of Public Policy (SPP)と呼ばれます)の中にあります。コースは政策決定や政策分析にかかわる人材を育成する目的で作られていて、政治と経済をバランスよく学べるようになっています。また、修士論文をきちんと構成するため、調査法が必修となっており、将来、政府や国際機関、シンクタンクなどで働く際に有用なデータの扱い方を学びます。

2009-10年度、SPPには8つのコースがあり、人数や雰囲気、課題の量はコースによってまったく違います。IPPはその中で最も人数が多く、特に2009-10年度は定員が60名のところを116名に拡大したとのことで、授業が始まって半年経った今でも、顔と名前が一致するコースメイトは半分以下です。セミナーなど本来少人数で行うはずの授業もほかのコースに比べて人数が多く、友達が作りにくい、授業で英語をしゃべる機会が少ないといったデメリットがあると思います。その分、コースメイトの出身は、他のコースに比べ多彩ですが、それでもコースの性質上、ヨーロッパや北米の学生が多いようです。SPPには多少なりとも職務経験のある学生が多いようで、特に日本人留学生は、シンクタンク出身の私のほか、全国紙や報道局のジャーナリスト、各省庁や参議院から派遣留学中の職員など、私が知る限り、全員5年以上の実務経験があります。コースの雰囲気は日本の政治理論系の大学院のイメージに近いと思います。また、科目の取り方にもよりますが、IPPはタームの間の課題が比較的少なく、年度末に試験を課す科目が多いようです。そのこともあってか、趣味のサークル活動や、貧困削減のためのグループを立ち上げて署名や寄付活動をするなど、活発に社会活動をする学生が多くみられます。実際に起きているケースや実務を扱うコースとは違いますが、開発に興味のある学生は多く、人権や国際関係といった理論を使いながら、不平等な社会の大局的な背景を分析していくというアプローチになると思います。


授業全体について

SPPは3学期制です(9-12月、1-3月、4-6月、論文執筆を経て9月卒業)。1学期、2学期の各学期には途中で1週間のReading weekという休暇が入り、それぞれ旅行に行ったり、国に帰ったり、宿題や予習をするなどして過ごします。3学期には若干補講が入りますが、公式には授業はなく、5、6月の試験のみです。

IPPでは3科目と修士論文が必修です。「国際機構」「公共経済分析」の2科目は1学期のみ、「調査法」は質的調査と量的調査がそれぞれ1学期と2学期に分かれて行われます。180単位のうち135単位はこの必修でまかなわれます。そのほかに、「国際関係理論」「国際政治経済学」「国際安全保障」の3科目から1科目取ることが必須となっており、これは15単位です。これらはほぼ基礎理論で、学部で一通り勉強していれば問題ないと思います。ただ、科目によって課題の量が違い、「国際政治経済学」は提出物やプレゼンテーションなどで忙しい一方で、ほかの2科目はそれほどハードではありません。

残りの30単位は政治制度論、政治哲学、倫理、ジェンダー、人権、テロリズムなど多彩な科目の中から2科目を選びます。私は「グローバルガバナンスとグローバリゼーション」「国際法と人権」という科目を選びました。特に国際法の授業では、概論ではなくそれぞれの個別事例で、人権を守るために国際法がどのように役に立つかを議論するため、非常に興味深いです。選択科目の内容は応用理論がほとんどで、マネジメントなど実務的な内容はほとんどありません。いずれも机上の勉強のため、職務経験のある人が自分の経験を整理したり、最新の理論を勉強したりするのに向いていると思います。


これまでに受けた授業の内容・感想

授業名:International Organisation

内容・感想:

IPPの必修科目です。毎回、世界保健機関(WHO)、世界銀行、国連安全保障理事会、世界貿易機関(WTO)、国際原子力機関(IAEA)、グローバル・コンパクトといった特色のある組織・制度を1つとり上げ、その組織の歴史、扱っている問題、今後の課題について学びます。週に1時間の講義と1時間のセミナーがあり、セミナーでは事前に読んできた文献と講義内容をもとに議論をします。セミナーの人数は20名強で、発言する機会は1人1~2回程度です。評価は3,000字のエッセイと、3学期の試験がそれぞれ50%ずつ考慮されます。最終授業では、2009年12月に行われたCOP15のシミュレーションをしました。各人が国の大統領や大使、NGO職員、ジャーナリストとなり、それぞれの立場を会議でアピールしました。皆、真剣に取り組んでいましたが、当日会議室に入れるのは限られた学生だけで、実際の会議でも声にならない人たちがたくさんいることに気づき非常に良い経験となりました。


授業名:Public Policy Economics and Analysis

内容・感想:

IPPの必修科目です。基本的にはスティグリッツの『公共経済学』に沿って授業が行われます。貿易、公共財、市場の失敗、税制といった、政策分析に必要なテーマを扱います。週に講義が2時間、セミナーが1時間ですが、セミナーの人数は30名程度でほぼ講義に近く、2回同じ講義を受けているようでした。学年期末の2時間の試験で100%評価されますが、学期中に2つのエッセイを出すことになっています。どちらも800~1,500字程度と短く、評価もされないため、それほど時間はかかりません。


授業名:Theories of International Relations

内容・感想:

名前の通り、国際関係の基礎理論を毎週順番に扱います。リアリズム、リベラリズム、マルクス主義に始まり、社会構成主義、フェミニズム、ポスト構造主義など最新のものも体系立てて学ぶため、理論をしっかりと踏まえて修士論文を書きたい人には非常に良い授業だと思います。週に講義が1時間、セミナーが1時間で、やはりセミナーの人数が30名弱ですが、前半はいくつかの質問が与えられ、2~3人で話し合う時間があるため、そこで自分がきちんと理解しているかどうかを確認し、後半の議論の準備をすることができます。学年期末の2時間の試験で100%評価されます。


大学情報

UCLはロンドンの中心にあり、どこへ行くにも、生活面でもまったく不便はありません。日本人も多く、日本語で話す機会は多くなりがちですが、慣れない海外生活で困った時に母国語で相談できることは非常に助かります。UCLのメインの図書館は映画でも使われるような重厚な建物で、蔵書数も問題ないのですが、中で勉強するスペースが学生数の割に少なく、ほかのロンドン大学の図書館も利用できることから、そちらに行って勉強する学生もいます。UCLは小さなものも含め15以上の図書館があり、それぞれの専門書が貯蔵されています。学食は明るく、席数も十分ですが、味はあまり評判が良くないようです。

UCLの学生が住める寮は30弱ありますが、すべての希望者に部屋が保証されているわけではなく、大学からの距離も寮によって異なります。通常、留学生は優先的に部屋をもらえますが、私は合格通知をもらったのがぎりぎりだったため、寮は空いておらず、自分で不動産屋を通して部屋を探しました。


その他の情報

とにかく、留学前にできる限り英語力を高めてきてください。大学側が要求するスコアぎりぎりで入学すると授業についていくのはやや苦労しますし、英語力によって留学の成果もまったく違ってくると思います。特に留学中は英語そのものの勉強をする時間があまりなく、1年でそこまで英語力は伸びないので、同じ学部の日本人でも、指定されたテキストの日本語の訳本を手に入れて課題をこなしている人も少なからずいます。1年は短いので、留学の目標を明確にしてきた方が良いと思います。

理論は机上の空論と考えられがちですが、世の中をどうしていきたいのか議論をするというのは学生の特権でもあるので、腰を落ち着けて世界各地から集まった学生たちと理論を話し合うことは非常に良い機会だと思います。国際的な仕事をしようと思った場合には、どうしても西洋中心にものが決まっていくことがあると思いますが、なぜそうなってしまうのか、その際に日本人としてどのような働き方ができるのかを考える機会は、その後の仕事にも活かしていけると思います。理論・実践どちらを学ぶか、ロンドンと地方どちらを選ぶかなど、どちらも長所・短所があると思いますので、迷った時には留学経験者の話をたくさん聞かれることをお勧めします。