「MA in Governance and Development」Institution of Development Studies (IDS), University of Sussex

(サセックス大学開発学研究所(IDS)「ガバナンスと開発修士課程」)

粒良 麻知子(つぶら まちこ)さん

執筆:2009年1月

自己紹介

日本の大学を卒業後、米国の大学で国際開発学修士を取得し、国連開発計画(UNDP)、在タンザニア日本大使館での勤務を経て、2008年9月からサセックス大学開発学研究所(IDS)のガバナンスと開発修士課程で学んでいます。

本修士課程への進学を決めたのは、

1.アフリカの政治と開発に関心があり、両者の接点となる「ガバナンス」という分野を包括的に習得したいと思ったこと、

2.タンザニアのガバナンスについての理解を深めたいと思ったこと、

3.アフリカと歴史的に関係の深い英国で学びたかったこと(前の修士が米国の大学だったので英米の大学院を比べてみたいという気持ちもあり)などが理由です。


所属コースの概要

1966年に設立された開発学研究所(IDS)は、サセックス大学の中にありますが、独立した研究所で、教授陣は教鞭を執るのみならず、様々な研究事業を行っています。IDSは財政的にも大学から独立しており、研究事業と学費によって研究所を運営しています。

現在IDSには7つの修士プログラムがあり、それぞれ研究チームとセットになっています。例えば、ガバナンスと開発修士は、IDSのガバナンス・チームの下に位置づけられており、同チームの研究員の方々がガバナンスに関する授業を担当しています。

本修士課程は2000年に開講され、学生がガバナンスに関する様々な理論と、途上国のガバナンスに関する政策立案・実施のためのスキルを習得することを目的としています(なお公的セクターが中心で、民間セクターのガバナンスは扱っていません)。

今年度の学生は24人で、IDS全体に言えますが、出身国は多岐に渡っています。地域別に見るとヨーロッパ8人、北米1人、アジア12人(うちインド9人)、アフリカ2人、中南米1人です。ほぼ全員、政府、ドナー(バイ・マルチ)、NGO等での開発関連の実務経験があり、クラスメイトから学ぶことも多いです。

日本人は毎年1~3人で今年度は私を含め3人(あとのお2人はJICAの方)、また、インド政府派遣の学生を受け入れていて、例年インド人学生が多い傾向にあります。


授業全体について

IDSはサセックス大学と同様、秋学期(10~12月)、春学期(1~3月)、夏学期(4~6月)の3学期制で、その後9月まで修士論文執筆の期間となります。ガバナンス修士課程では、後述のとおり秋学期は必修2科目を履修し、春・夏学期はそれぞれ選択科目から2科目を選択します。


これまでに受けた授業の内容・感想

授業名:Ideas in Development and Policy, Evidence and Practice(秋学期)

内容・感想:

昨年度導入されたIDS全修士課程の必修科目で、週2回の講義(Lecture、2時間)と週1回のゼミ(Seminar、1時間半)で構成されていました。講義は大教室での授業で、ゼミは修士課程ごとに分かれ、講義の内容について議論しました。

授業内容は、秋学期の前半は「開発学とは何か」から始まり、政治学、経済学、人類学などの各学問分野からのアプローチの長所・短所をふまえ、開発を学際的に捉えることの重要性について学び、後半は開発に関する重要課題(例えば人間開発、ジェンダーなど)を取り上げ、それらの歴史的背景や最新の課題などを学びました。成績は中間論文(2500語)と期末論文(2500語)で評価されます。

個人的には、本科目の扱った範囲が開発全般だったため、授業によって関心度の高低の差が大きく、ガバナンスに特化した修士プログラムを選んだのに、なぜ一般的な内容の授業を受けているのだろうと疑問に感じた授業もありました。逆に政策分析や市民権に関する授業など、非常に興味深い授業もありました。

いずれにせよ、ゼミでは各開発課題のガバナンスへの関連性に着目しながら議論が進められたので、ゼミで学ぶことも多かったように思います。


授業名: Governance, Politics and Development(ガバナンス・政治・開発)(秋学期)

内容・感想:

ガバナンス修士課程の必修科目で、週1回の講義(2時間半)と週1回のゼミ(1時間半)から成ります。内容は、国家と財政、グローバル・ガバナンス、市民社会、民主主義・非民主主義、脆弱国家などについて、それらの歴史的背景、長所・短所、具体的な事例、最新の課題などを学びました。

成績は期末試験のみにより評価されます。本科目は、予想していた以上に政治学の理論がたくさん出て少し驚きましたが、ガバナンスの様々な側面が学べたので良かったです。「ガバナンスとは何か」という点については最初の授業で取り上げられましたが、コースの最後に、援助の潮流なども絡めながらガバナンスという分野について改めて考える機会があっても良かったのかなと思いました。

春学期はガバナンスに関する4科目(1.公共管理と組織開発、2.民主主義と開発、3.グローバル・ガバナンス、4.社会のエンパワメント)から2科目を選択しています。秋学期の必修科目よりも特定の分野に絞られており、より専門的かつ実践的な内容になっています。例えば「公共管理と組織開発」では、具体的な事例を用いながら、どのように開発プロジェクトや公務員改革を実施するかを検討したりしています。夏学期はガバナンスのみならず幅広い分野の約15科目の中から2科目を選択します。

本修士課程の授業では、政治学の理論・概念が頻繁に出てくるので、それらを理解し、議論に参加するのは容易ではありませんが、講義やゼミでは学生が質問・発言しやすく、先生やTutor(講師)も含めて皆で考えていこうという雰囲気があるように思います。

上記の他に、IDSの全修士課程共通科目として、プロフェッショナル・スキル・ワークショップ(隔週、成績はつかない)があります。また秋学期には参加型開発で著名なロバート・チェンバース先生によるワークショップ(成績はつかない)が数回ありました。

その他、IDS及びサセックス大学が様々なセミナーを開いているので、学びの機会は多いと思います。秋学期は、特にDFIDガバナンス・アドバイザー(元IDSガバナンス・チームの方)による、DFIDのガバナンス研究の動向についての講演があり、興味深かったです。また、本修士課程の学生は週1回、過去の経験や問題意識をざっくばらんに話し合うランチ・ミーティングを開いていて、クラスメイトの出身国の状況や経験が聞けて面白いです。

(注:チェンバース先生のワークショップは、彼の退官に伴い、2009年度以降は開催されない可能性があります。)


大学情報

IDSは落ち着いて勉強できる環境が整っていると思います。IDSの事務職員は丁寧に対応してくれますし、IDSの図書館には開発関連の書籍が揃っており、司書も親切です。また、IDSはこぢんまりとしてアットホームな雰囲気で、留学生が多いので、日本人にとっても過ごしやすい環境だと思います。 留学生は大学内の寮、あるいはバスで30分くらい離れたブライトンという街にある寮に入居することができます。私はブライトンにある寮に住んでいますが、海沿いに建っているので部屋から海が見えるのが特徴です。買い物するにも便利な立地で、特に生活に困ることはありません。ただし、近くにクラブやバーがあり、音に敏感な人にとっては週末の夜に聞こえてくる音楽や人の声がうるさく感じられるかもしれません。