「MA in International Education and Development」Sussex School of Education, University of Sussex

(サセックス大学「国際教育開発 修士課程」)

今泉 奈保(いまいずみ なほ)さん

執筆:2009年1月

自己紹介

高校時代から国際協力の分野に関心があり、大学在学中は主専攻のドイツ語の他に副専攻で国際関係論や開発経済等を学びました。また、日本ユニセフ協会の国際協力講座を受講したり、教育NGOでアルバイトやボランティアをしたりしていましたが、卒業後は一般企業に就職し、開発とは全く異なる翻訳・通訳業界で計 5年半勤務しました。社会人としてある程度経験を積んでいったなかで、やはり自分が本当にやりたかった開発分野にチャレンジしたい気持ちが強くなり、将来のキャリアを考えるとこの分野では必然的に修士号が必要であることから、退職し大学院に進学することにしました。

イギリスの大学院への留学を決めたのは、

1.開発の分野ではイギリスが草分け的存在であること

2.イギリスの大学院の多くが1年で修士を取れるため、年齢的・金銭的な面で好都合であること

3.もともとアメリカよりもイギリスに強い憧れを抱いていたこと

が挙げられます。

サセックス大学を進学先に選んだのは、開発分野の研究では世界的に有名であり、開発関連の修士コースが多々用意されている中で、自分が専門的に学びたい教育開発コースがあったことと、都会よりも自然に囲まれた郊外でキャンパスライフを送りたかったからです。


所属コースの概要

今年のクラスメイトは計19名、出身国の内訳ですが、イギリス5人以外は、すべて1人ずつとなっています(アイルランド、イタリア、アメリカ、ベネズエラ、コロンビア、ナイジェリア、ガーナ、カメルーン、ウガンダ、インド、マレーシア、スリランカ、中国と日本)。

年によってメンバー構成は大分異なるようですが、今年は非常に国際色豊かで、かつほとんどの人が国連や政府機関、NGO等での職務経験があります(ボランティアを含む)。開発の中でも教育に特化していることから、英語教師や小中高教師だったという人もいますが、全員に共通しているのは、途上国が抱える様々な教育問題に取り組みたいという強いモチベーションです。途上国出身の人も多く、またフィールド経験のある人も多いため、授業では自分の経験に基づいてディスカッションが展開される場面も多々あります。


授業全体について

3学期制を取っており、秋学期は必須科目「Debates in International Education and Development」、「Perspectives on Education Policy and Practice for Development」、「Academic Skills for International Education and Development」を全員が受講します。教育開発全般を理論(Debates in International Education and Development)と実践(Perspectives on Education Policy and Practice for Development)の両方の視点から学んで基礎を押さえることで、特に関連分野の学習・職務経験のない人は自分の関心を見出すことができ、春学期の選択科目を選んだりその後の修士論文のテーマを決めたりする際に役に立ちます。

春学期は選択科目「Education Planning and Governance for Development」、「Gender, Inclusion and Educational Development」、「Quality Education: Learning, Pedagogies and Assessment for Development」「Teacher Education for Development」の中から個人の興味に合わせて2科目受講します(2科目のうち1科目はIDSなど開発関連の他学部のコースからも取ることができますが、今年度は全員本コースから選択しました)。

どの科目も3時間の講義+Seminar(間に15分休憩をはさむ)です。秋・春学期とも、学期開始から1ヶ月が経った頃(5週目)にTerm Paperの課題が与えられると同時にReading Week(ターム中間にある1週間の休み)が1週間あり、その間は授業がない代わりにTutorial(30分程度)で事前に自分が決めたテーマやアウトラインをTutor(講師の先生)と話し合います。その後通常の授業に戻りますが、授業の予習をこなしながら自分のペースで論文も書き進めます。最終週の10週目はReading Weekで授業がない代わりに、クラス全員の前で自分の論文についてプレゼンテーション(15分程度)をしてフィードバックを得る貴重な機会があります。


これまでに受けた授業の内容・感想

授業名:Debates in International Education and Development(秋学期)

内容・感想:

この授業は特に理論重視であるため、日本語でのバックグラウンドがないと事前にリーディングで予習をしても授業を完全に理解するのは難しかったです。Human capital theory、Neo-Marxism、Post-structuralism、Post-modernism、Post-colonialism等の様々な理論的なフレームワークを、実際に教育開発でどのように活かすことができるかを考えることを通じて理解できれば実践に役立てることができるという意味で、取っ掛かりにくく知識の習得に時間はかかってもこのコースの登竜門として大変重要な科目だと思います。

授業は毎回、教授のプレゼン講義をベースに進められ、各自予習をしている前提で都度ディスカッションや質問が交わされます。評価は冬休み明けに提出するTerm Paper1本(5,000 words)で決まり、この論文のテーマは授業で扱ったトピックの中から各自の興味に合わせて選ぶことができます。


授業名:Perspectives on Education Policy and Practice for Development(秋学期)

内容・感想:

この授業はDebates in International Education and Developmentと比べるとより実践に近く、International Agenda-setting、 Vocational Education and Lifelong Learning、Education for Poverty Reduction、 Privatisation and Marketisation of Education、Culture and Education等のテーマについて学びます。Debatesの授業同様、教授のプレゼン講義がベースですが、Debatesと比べると生徒の授業への貢献度が高く、事前に複数のグループに分かれて、各グループが担当の国を決めてその国の教育政策や課題などについて調べたものを当日発表したり、授業中にグループワークを行った後ポスター発表したりする機会もありました。自分の国や経験を踏まえてディスカッションをし、それを活かすことができる点で、Debatesよりも身近で取っ掛かりやすい授業だと思います。評価方法はDebates同様冬休み明けに提出するTerm Paper1本(5,000 words)で、テーマは授業で扱ったトピックの中から各自の興味に合わせて選び、それを関心のある国の教育政策などと結びつけて書きます。


大学情報

イギリスの大学で唯一国立景勝地の中にキャンパスがあることからも分かるように、雄大な自然に囲まれた最高の環境のもとで落ち着いて勉強することができます。初めは驚きましたが、キャンパス内ではカモメやリスが堂々と歩いています。そんな環境にもかかわらず、ロンドンへは電車で1時間程度で行くことができ、休日は自然と都会の両方を満喫することができます。

私はキャンパス内の寮に5人のフラットメイト(メキシコ人、コロンビア人、スワジランド人、ベラルーシ人、UAE人)と住んでいて、一緒に料理を作って食べたりお喋りをしたりして楽しく過ごしています(人によってはフラットメイトとの相性が合わなくてフラットを移る人もいますが、その点私はとても恵まれています)。また、授業のある場所まで徒歩15分で行くことができるのでとても便利です(学外の寮の場合、バスだと朝は1時間近くかかったりするようです)。

学内に食材や日用品を置いているスーパーもいくつかありますが、週に一度、野菜市がキャンパス内に立つほか、週に二度近所の大型スーパーまで無料の送迎バスを利用できるので、キャンパスを出なくてもたいていの事はすんでしまいます。


その他の情報

英語はもちろんできるに越したことはありません。ネイティブではなくても皆授業中積極的に発言しているなかで、話している内容は理解できてもなかなかディスカッションに加われず苦労しています。また、論文執筆時は膨大な量の文献を読んで書く(秋・春学期は計10,000words、夏学期は15,000words)ことになるので、文字通り聞く・話す・読む・書くの4技能をできるだけ高めておくことをお勧めします。

また、事前に日本語の文献を読んで関連分野の基礎を押さえておくと、授業にスムーズに入っていけると思います。渡英前に日本語の関連図書を購入しておくのも、後々とても役立ちます。