「MA in Environment, Development and Policy」School of Social Sciences and Cultural Studies, University of Sussex

(サセックス大学「環境開発政策修士課程」)

井上 直己(いのうえ なおみ)さん

執筆:2009年1月

自己紹介

環境省で6年間程勤務している間に、地球温暖化対策の国際交渉に携わりました。そこでは先進国が主張する途上国における排出削減の要請と、途上国の経済開発のニーズとが真正面から衝突する場面を目の当たりにしました。その経験から、途上国を説得し国際交渉を有効に進めるためには、途上国の立場に立ち、彼らの経済開発という目的に沿った合意を模索する技量が重要であり、その土台となる開発に関する専門知識を身に付けることが必要だと認識するに至り、開発学を専攻しようと考えました。


所属コースの概要

環境開発政策修士課程(MA in Environment, Development and Policy: EDP)は、途上国における経済開発とそれに起因する環境問題の相関関係、さらに両者の両立策を考える際の議論のポイントについて理解を深めることを目的としたコースです。

秋学期は環境と開発のそれぞれの視点に立った科目を履修し、双方の視点から問題の所在を理解する力を養うことが目指されます。両科目とも、それぞれの問題を包括的に扱うものであることから、それぞれの分野の初学者でも幅広い知識を得ることができます。一方で、学部時代に開発の勉強を進めてきた学生にとっては、授業が基礎的かつ総花的な内容で物足りないと感じる方もいるかも知れません。しかし、春学期の授業では更に掘り下げたトピックスについて学ぶ機会が与えられていますので、そこで知見を深めることが期待されているのだと思います。

クラスメイト総勢17名のうち留学生は14名で、国籍は実に様々です。国籍の内訳は以下の通りです;英国(3名)、ドイツ(2)、日本(2)、エクアドル(2)、フランス、スペイン、イタリア、ギリシャ、スロバキア、メキシコ、中国、南アフリカ。

今年度はアジア・アフリカからの留学生が通常の開発学コースと比較して少ない点が特徴的ですが、例年はもっと多くの学生が同地域から来ているとのことでした。英語のネイティブスピーカーは3 人のみであり、その他は留学生であるため英語を話すスピードはやや遅いです。また、留学生が多いという事情を考慮してか、教授の話すスピードもやや抑えられており、授業中の英語の聞き取りに関する苦労は比較的小さいと思います。

クラスメイトの過去の職歴としては、学部卒業後まもなく同コースに進学した3名の他は、環境及び開発NGO、UNDP、イタリア外務省(インターン)、ギリシャ外務省(インターン)、BBC放送、コーヒー会社と、実に多様です。特に、途上国開発や環境保護活動の現場で活動に従事した経験を持つ学生の話は面白く、ディスカッション中も具体例を用いた議論が展開されるため、授業が有意義なものとなっています。


授業全体について

【年間の履修科目】

今年度、サセックス大学は、秋学期(10月6日~12月12日)、春学期(1月12日~3月20日)、夏学期(4月20日~6月26日)の3学期制で、秋学期は必須科目2つとワークショップ5回、春学期は選択科目2つとワークショップ3回、そして夏学期は選択科目1つと修士論文作成、という流れになっています。


【プレゼンテーション】

秋学期に課されたプレゼンテーションは、3~5人程度のグループ形式のものが合計4回でした。学生同士は飲み会を通じて、もしくはプレゼンを通じて仲良くなっていたという点は緊張感を和らげる要因ではありましたが、それでも15人余りの学生の前で英語を話すのは非常に緊張する課題でした。しかし、プレゼン能力は今後の社会人としての重要な技能なので、数をこなしてコツを掴んでいくのはやりがいのある過程です。

春学期は選択授業となり、授業当たりの学生数が減るため、プレゼンを割り振られる頻度が更に増えます。私の選択した授業では、毎週何かしらのグループワークやプレゼンが割り振られていますが、やはり学生数が少ないことからプレゼンの緊張感は大幅に和らいでいる印象です(プレゼンに慣れたことを示しているかも知れません。)


【エッセイ課題】

EDPでは、秋学期の2科目において2000wordsのMid-term Paper(11月中旬提出)と、3000wordsのTerm Paper(1月中旬提出)の2つの論文課題が課されています。これは留学生が多く、英語の論文執筆に慣れていないことが予想されるため、まずはMid-term Paperを学生に書かせてフィードバックをし、Term Paperでより良い論文につなげていくことを期した学部側の配慮によるものです。教授と1対1のTutorialを通じたMid-term Paperに関するフィードバックは丁寧かつ有意義なもので、学生の学力向上に向けた教授陣の行き届いたケアの一端を示すものだと考えます。


【理論vs.実践】

サセックス大学のIDS(Institute of Development Studies)と比べた場合、IDSは開発現場で実際に活動するための実践的な技能を身につけることが主眼である(もちろん理論もみっちり学びますが)のに対し、EDPはやや理論の学習に比重を置いているという印象を持ちます。

ただ、EDPでは、IDSのRobert Chambers先生主催の開発ワークショップを始めとした様々なセミナーに参加することも求められており、それらを通じて、開発現場での問題や実践的技能に触れる機会を得ることができます。すなわち、通常履修科目の受講以外の学びの機会を最大限生かすことによって、各学生の志向に沿った、理論と実践のバランスの取れた学びを追求することが可能になるのではないかと考えます。


これまでに受けた授業の内容・感想

授業名:Theories of Development and Underdevelopment(秋学期)

内容・感想:

途上国開発を巡る数々の理論を総論的に学ぶことができ、私のような開発の基礎知識が少ない学生が新たな分野として学び始めるために実に相応しいコースだと言えます。逆に、学部時代に開発の勉強を進めてきた学生にとっては、授業が基礎的かつ総花的な内容で物足りないと感じる方もいるかも知れません。担当のRonald Skeldon教授は学生が発言しやすいような配慮をしてくださるため、各学生の母国の事情について多くの発言を呼び、活発なディスカッションが展開されています。


授業名:Political Economy of Environment(秋学期)

内容・感想:

地球規模での環境問題の根源にある構造的問題や複雑に絡み合う要因について、地球規模での市場拡大や加速する貿易、活発化する外国投資といったグローバリゼーションの文脈から理解を深めることを目的とした授業です。環境経済のように、排出量取引や環境税などの個々の政策ツールについて分析するものではない(春学期において、SPRU:Science and Technology Policy Researchにおいて環境政策を研究する科目が開設されています。)ですが、自由市場経済を前提とした地球規模の枠組みに、環境問題の根源を見出す視点を養うために大変有効です。担当のOr Raviv教授は環境問題のあらゆる分野について実に深い知識を有しており、授業の運営は抜群に優れています。


大学情報

私はブライトンの街の中心部で海岸に面した大学所有の寮(Kings Road)に住んでいます。大学へは電車やバスを用いて30分かけての通学となりますが、静かな大学の中に住むよりもにぎやかな街の中に住むことを好む私にとっては最高の立地です。

ただ、寮の周りはパブやクラブが多く立地しており、週末は非常にうるさいです。私も入寮した頃は余りの騒音に閉口してしまいましたが、日が経つにつれて随分慣れ、今では騒音に感じることなく、むしろクラブの音楽を楽しむくらいの境地です。