「MA in Conflict Resolution」University of Bradford

ブラッドフォード大学 平和学部 「紛争解決学 修士課程」

上原 悠(うえはら はるか)さん

執筆:2009年3月

自己紹介

日本の大学で4年間、国際関係学(国際協力論・途上国政治論・社会開発論・環境経済学等)を学びました。在学中、名古屋に本部を置くNGO「Tools for Self Reliance(自立のための道具の会)」に参加し、3回生時には、米国シアトルのワシントン大学で、交換留学プログラムを通じて「Peace and Conflict Studies」を学びました。この時、ガンジーの非暴力不服従の歴史、民族紛争、武力介入等に関する理論的な授業に参加しました。また、現地の平和活動家による、実践的な非暴力運動の手法を学ぶワークショップを体験し、武力によらない援助介入とその効果に強い関心を抱きました。

帰国後1年間休学し、再びシアトルに留学し、非暴力介入を実践する国際NGO「Nonviolent Peaceforce」のボランティア活動に参加しました。4回生夏には、京都のNGO「社団法人 日本国際民間協力会NICCO」のインターンに参加しました。こういった経験から、紛争解決の根本的概念にどこまで非暴力理論が挑戦できるのかを追求したいと思い、大学院進学を決意しました。


所属コースの概要

まず、私の通っているブラッドフォード大学では、前期・後期の2学期制を採用しており、平和学部には平和学・紛争解決学・アフリカと紛争・国際政治と安全保障等のコースがあります。私の所属する紛争解決学科では、前期・後期にわたって「Conflict Resolution: Theory and Practice 1&2」の取得がコア科目として設定されています。コア科目によって自由選択の枠が減りますが、満足度の度合いによっては途中で学科変更可能な場合もありますので、その点は融通がきくと思います。平和学部全体ではヨーロッパ圏からの生徒が多いですが、他にアフリカ、カナダ、そして日本人も比較的多いと思います。


授業全体について

授業は2学期制です。冬休み(12月中旬~1月初旬)とイースターバケーション(4月中旬)の2回、休暇があります。私の場合、各セメスター3コマあたり、必修科目が前期2コマ(うち平和学部生全体の必修1コマ・紛争解決学科必修1コマ)、後期に1コマありました。

授業は理論重視です。国際色豊かで学部卒業生も予想外に多い中、開発援助等の現場ですでに経験を積んできた生徒も沢山いますので、授業での質疑応答時は、取り上げられた理論の実践的可能性に関して、教授と生徒の間で熱気溢れる討論が繰り広げられることが多いです。問題意識が高い仲間に囲まれて、私も日々、本当に良い刺激を与えてもらっています。ただ授業を聞くだけでなく、自分はどう考えるのか、誰の意見により賛成・反対なのか、といったように自分なりの主張を常に考える姿勢がとても重要だと感じています。


これまでに受けた授業の内容・感想

授業名:Area in Conflict:Middle East (地域紛争:中東研究)

内容・感想:

この中東研究の授業は、約15人の小規模なクラスで、教授主導の授業が1時間、残りの1時間は生徒主導でプレゼン&ディスカッションを行いました。社会的構造主義(Social Constructivism)の考えをベースに、イスラエル・パレスチナ紛争の歴史的背景を年表順に辿りました。主要人物を明確化し、各年代別の動きやそれに伴う影響、当時の社会状況等を考察しました。歴史を辿る作業は、紛争の根本原因を追求する上で非常に重要になりますが、一見明確な事実が確認できてもそれだけにとどまらず、当時そこで生きていた人々にとってそれがどんな意味を持ったのか、というところまで分析することで、そこに隠された意図や目的を追求しました。課題はエッセイ(4000字)の提出が求められます。


授業名:Conflict Resolution: Theory and Practice1&2 (紛争解決:理論と実践)

内容・感想:

この授業では、前期は教授2人によるレクチャーとセミナー(グループワーク・ワークショップ形式)のセットで行われました。前期は、主に現代の紛争の概要、紛争解決の歴史、紛争時・和平合意時・紛争後・和解といった複雑な各々のプロセスにおける解決方法や直面する問題を、理論的な視点から学びました。後期は、授業の講師が毎回変わり、経済・文化・ジェンダー・宗教といった要素が紛争解決に及ぼす影響について勉強しました。こういった学びや分析の行程は、授業だけでは決して十分ではなく、本当の意味で“習得”していくには、セミナーは勿論、個人の勉強時間の確保が大きく影響すると日々痛感しています。成績はエッセイ(4000字)で評価されます。


授業名:Applied Conflict Resolution Skills (紛争解決の手法とその応用)

内容・感想:

この授業は、セメスター2に入って初めて開講されました。現段階では試験的授業なので、今後継続して開講されるか分かりませんが、現在は生徒から大変人気のある授業の1つです。授業はワークショップ形式で、時々教授によるレクチャーがありますが、授業の趣旨からほとんど生徒による積極的参加が求められています。授業で取り上げられている紛争解決の手法は、「Mediation(調停・仲裁)」です。紛争当事者のみで進めるNegotiation(交渉・折衝)とどう異なるのか、そのプロセスにおいて困難な点は何か、といったことを、実際に自分自身で体験する中で獲得していくことが授業の最大のポイントです。クラスメイトとのロールプレイを通して、Mediationの役割を実践的に学びます。成績は、授業での経験と関連書物によるエッセイで評価されます。


大学情報

キャンパスは、ブラッドフォード中心地から徒歩約10分の距離にあります。図書館は通常24時間(特別休暇を除き)開いています。カフェテリアや軽食がとれる場所は数か所あります。Student Unionというエリアに売店やバーもあります。またブラッドフォードはもともとパキスタン人が移民してきた都市なので、大学付近に本格的なカレー屋やアラブ系の食料品店がいくつかあります。個人的には、スーパーでカレースパイスの種類の多さにびっくりしたり、見慣れないドライフルーツを味わってみたり…と英国にいながらイスラム系文化に触れています。寮は、大学の敷地内と、徒歩で約10分歩いた所にあります(学部生専用・院生専用・混合等、条件に応じて選択できます)。寮によっては内部にジムやサウナ施設がある建物もありますので、生徒にとっては良い気分転換になります。


その他の情報

滞在に関して、ブラッドフォードは治安がやや悪いのが現状です。滞在費を抑えるために、寮ではなくフラットにするのも選択肢の一つですが、泥棒等の被害に合う可能性がありますので、セキュリティーの面に関しては、24時間しっかりと管理されている学生寮の方が安全です。

最後に、留学中は、特にセルフマネージメントが重要だと感じています。エッセイの締切りまでのスケジュール管理や、授業と課外活動のバランスのとり方など、その過程で仲間の助けをかりることができても最後は自分がやりきるしかありません。一貫した目標と将来への熱い想いを持って、是非、有意義な留学生活を送って下さい。