「MSc in Development Studies」 「BA in Development Studies」 SOAS

西山 卓 さん、安達 敦史 さん、小倉 あかね さん、楯石 絢子 さん

執筆:2008年4月

1. 自己紹介

ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)のMSc in Development Studiesに在籍中の西山卓です。日本の大学で国際政治を学び、国際協力に関心を持ちました。ロンドンという地理的に恵まれた条件と地域研究が有名なためSOASを選びました。

2008-9年度、交換留学生の安達敦史です。日本では外国語大学の四年生に在籍しています。大学2年から貧困、紛争問題に興味を持ち始め、自分なりに本を読み進めていくうちに開発学と出会いました。交換留学生は学年の垣根を越えてコースを選ぶことができます。僕は開発学の1、2年の必修コースを同時に受講しています。上限は通常のBAと同じ4Unitです。

BA in Development Studies and Linguisticsを学んでいる小倉あかねです。高校卒業後、東京の留学機関で一年間、イギリス・カンタベリーのカレッジでFoundation Courseを一年間という準備期間を経て、2007年9月からSOASで学び始めました。2年後の卒業まで、ロンドンという街、SOASという大学をチャンスの場として存分に活用し、出来る限りたくさんのものを吸収していきたいと思っています。

同じく、日本の高校を卒業した後、東京の留学機関、カンタベリーでのファウンデーションコースを経て、SOASに入学しました楯石絢子です。BA in Politics and Development Studiesを専攻しています。政治と開発を両方勉強しているということもあって、興味分野は主に政策、政治体制と発展の関係です。

これから4人でSOASの修士と学部について紹介していきます。


2. 学校全体の紹介

SOASはロンドン大学の一部で、イギリスで唯一アジア・アフリカ・中東地域の言語、文化、社会に専門を置いている大学です。そのため、その分野の専門家が多数集まっています。1916年にThe School of Oriental Studiesとして設立され、1938年に現在のThe School of Oriental and African Studiesに改名されました。100カ国以上からの留学生も合わせ4,300人以上の生徒数を持ち(その内40%は大学院生)、1200万冊を越えるアジア・アフリカ・中東地域の蔵書や電子資料が揃った図書館は特に有名です。


3. 専攻コースの紹介

(1) MSc in Development Studies(9月始まり翌年9月終わりの1年間コース)

コースは3タームに分かれています。ターム1、2は必修が2科目{Theory, Policy and Practice of Development (TPP)、Political Economics of Development (PED)}、選択が1科目ずつあります(私はResearch MethodとDevelopment Practiceを採りました)。TPPは開発学の理論を学びます。トピックはModernism, Postmodernism, Marxism, Globalisation, Good Governance, Poverty Reduction Strategies, State & Market, Civil Societyなどです。PEDは主に開発経済学です。トピックはCatch up theory, Industrial Policy, Washington Consensus, Debt Crisis, Corruptionなどです。ターム3は実質復習のみで、すぐにテストに入ります。

それぞれ2時間の授業と1時間のチュートリアル(ゼミ形式の少人数クラス)があります。チュートリアルでは毎週のトピックについてプレゼンテーションとディスカッションをします。プレゼンはターム1、2で数回する必要があります。その他に課題としてターム1、2で3000字のエッセイがあります。エッセイは最終評価の30%ほどを占めます。あとの7割は最終テストで決まります。最終テストの比重が大きい点はSOASの特徴と言えます。これらのコースワークに加え、1万字の修士論文があります。自分の好きなトピックを選び、それにあった指導教官を希望します。教官とのミーティングをへて7月ごろまでに内容を固め、9月中旬までに書いて提出します。

コースには約80人が在籍しています。約8割が英国または米国人です。南アジアとアフリカ出身者がそれに続きます。日本人を含め、東アジア人は5、6人と少数派です。女性が多く、全体の7、8割を占めます。国際機関やNGO出身者もいますが、学部卒で若い人が多数です。クラスメートの卒業後の進路はよくわかりません。欧米人などはコース中に就職活動を同時進行する人もいます。ほとんどの人がなんらかのかたちで開発や国際協力に携わりたいと思っているようです。

コース全体の感想ですが、やはり1年間の修士は時間が少ないです。毎週のコースワーク(科目ごと毎週最低4本は論文を読まなければなりません)をこなすだけでも大変です。とくにDevelopment Studiesは開発学の重要テーマを政治、経済の面から網羅的に学びます。開発の全体像が理解できる反面、浅く広くになりがちです。学びたい分野がすでに固まっているのであれば、SOASの他コース(開発学の中には他にDevelopment & Globalisationと Violence, Conflict and Developmentがあります)や他大学の方がいいかもしれません。

もう一つ大きな特徴は、世界銀行やIMFなど開発政策の主流派(ネオリベラリズム)を批判的に考察する点です。英国の大学全体に言えることかもしれませんが、SOASは中でも厳しい批判者だと思います。開発分野で主流を占める機関や学者の意見を学びたいのであればSOASはお薦めできないかもしれません。一方で、現在の開発政策を批判的に考察し、これからどんな開発のあり方が可能かを模索する場としては最適と言えます。


(2) BA in Development Studies

BA in Development StudiesはCombined Degreeとして他の1教科と組み合わせて取ります(小倉はLinguisticsと、楯石はPoliticsと)。各週2時間のレクチャーと1時間のチュートリアルで構成されています。レクチャーは100人以上の大人数で行われますが、チュートリアルは10人ほどの小さなクラスで、主にディスカッションとプレゼンテーション中心に行われます。生徒のバックグラウンドは様々で、イギリスはもちろん中東、アジア、アフリカ、北・南米、ヨーロッパ各国から来ています。


A: Development Conditions and Experience(BA 1st yearの必須コース)

一年生のコースなので、開発における“考え方”を勉強していきます。毎週違うトピックや論説から開発というものを考えます。トピックの例としては、Colonial legacies and Post WWII development, Dependency and Underdevelopment, Industrialization: Argument for and against, Food and Hunger, Neo-liberalism: state, market and government などです。このコースは国々の発展してきた条件や経験を元に、従来の経済発展の方法では解決できない発展途上国における問題、格差や貧困を考えていきます。また、開発学におけるオーソドックスな考え方と同時にオルタネイティブな考え方も勉強します(たとえばPost-development theory)。

マスターコースの紹介にもありましたが、SOAS独特な(主流に対してやや批判的な)開発学の考え方も勉強できるという点で、柔軟な思考力を養えると思います。私(楯石)は今まで開発に興味はあったものの学問として勉強したことがありませんでした。開発を基礎から学べるのでありがたいのですが、今までの開発に対する楽観的な見方を根底から覆さるほどの衝撃がありました。と同時に、開発の問題をもっと現実的に、地に足が着いた状態で考えられるようになりました。こういった点で、開発学一年生には大変ありがたいそして刺激的(?)なコースだと思います。


B: Comparative Economic Growth in Asia and Africa(BA 1st yearの選択コース)

アジア・アフリカ各国を中心に主に第二次世界大戦後の経済発展と構造変化に焦点を当てています。19世紀から20世紀にかけての現在の先進国の発展プロセスと発展途上国の現状を比較することもあります。発展のレベル(国家収入や教育、健康など)は、World BankやUnited Nationなどの国際組織の資料を基にしています。1年生のためのコースなので、各国の経済発展のプロセスの基本を広く浅く学んでいくintroduction的な感じです。基本的な世界の経済発展の知識をつけるには良いコースです。

評価は1st, 2nd termにそれぞれ1つずつのエッセイと3rd termのExamに基づきます。エッセイは大体2000-2500文字で、自分がチュートリアルでプレゼンテーションをしたトピックについて書きます。エッセイ2つで20%、Examが80%の合計100%で評価されます(Examの比重がかなり多い)。Examはエッセイスタイルで、選択問題です。


C: Theory & Evidence in Contemporary Development (BA 2nd yearの必修コース)

1年次の必修コースを掘り下げた授業です。新自由主義の授業であれば構造調整政策(SAP)時代の主権(ownership)の議論や貧困削減戦略文書(PRSP)との比較、ガバナンスの授業であれば汚職やrent-seekingなどの経済理論へと議論が発展していきます。1年次では表面的な理論を学び、2年次ではさらに深いレベルでの議論が取り扱われる印象です。範囲は開発分野ほぼ全般を取り扱います。講師は約3回毎に変わっていき、SOASでも著名な教授陣が授業をしてくれます。

開発学のBAは3年次は必修がありません。地域研究メインの選択科目のみとなります。そういった意味でSOAS(BA)の開発理論を学ぶ上で、最も内容の濃い授業だと言えます。受講人数は50人ほどです。授業の構成は週一回、2時間の講義と1時間のチュートリアルから成っています。チュートリアルでは博士課程のtutorを中心に前回の講義内容を皆で議論します。

課題はTerm 1とTerm 2にそれぞれ2500語のエッセイがあります。一応、プレゼンもあるのですがBAの場合、評価には入りません。ただプレゼンをしなければ、エッセイの採点をTutorにしてもらえなくなります。プレゼンもほぼその週のreadingの要約というだけで、形式ばったものではありません。一年間の成績はTerm1, 2のエッセイがそれぞれ10%、残り80%はTerm 3の試験で評価されます。

以上、BA in Development Studieの3科目を紹介しました。SOASのDevelopment Studiesは世界的にも高い評価を得ています。世界各国からの留学生を含んだモチベーションの高い多数の生徒がこの教科を学んでいます。チュートリアルでは、みんな活発に発言し、意見の交換・ぶつけ合いを楽しんでいます。同国籍を持つ者だけではどうしても視野が狭くなりがちですが、ここでは様々な国(発展途上国を含む)から来た生徒たちの生の意見を聞けるので、とても現実的かつ広い視野で開発を考えることができます。

そして、MSc in Development Studiesのコース紹介の中でも書かれていますが、SOASの開発学は今現在開発の主権を握っているWorld BankやIMFを批判する視点に基づいています。そのため、今の開発をより批判的に冷静に分析する力がつきます。このCritical Thinkingという力は、開発分野に限らず、どの分野においても必ず役に立つと思います。“広い視野で現実的(批判的)に開発を学べる。”これがSOASで開発学を学ぶ利点だと考えています。

SOASはロンドンの中心Russell Squareに位置しています。キャンパス自体はこじんまりしていますが、緑に囲まれ、大英博物館まで徒歩5分という魅力的な立地でもあります。蔵書の種類、数が豊富な図書館は、とても気に入っています。南アジアやアフリカなどのエキゾチックな文献がたくさん揃っていて、眺めているだけでも楽しいです。たびたび運転停止になるエレベーターと、反応の遅いコピー機を抜かせば、学校の施設には満足しています。