「MSc in International Development」「MSc in Development and Security」University of Bristol

東海 右佐衛門直柄さん、福岡 侑希さん

執筆:2008年4月

共同執筆者略歴

東海 右佐衛門直柄(とうかい・うざえもんなおつか)…74年、大阪市生まれ。早稲田大第一文学部卒。中国新聞社入社後、経済部、報道部などを経て、平和構築を学ぶため07年秋からブリストル大修士課程で社命留学中。

福岡 侑希(ふくおか・ゆうき)…82年、神奈川県生まれ。上智大法学部国際関係法学科卒。ブリストル大学政治学部修士課程修了(MSc in International Development)。現在ブリストル大学政治学部博士課程在籍中。


1. 学校紹介

ブリストル大学は、イングランド南西部人口50万人の街、ブリストルにあります。エイボン川を見おろすクリフトンの丘に、美しいキャンパスが広がり、数百年を経たレンガ造りの洋館やゴシック建築物が、大学事務局や教室となっています。構内には、緑豊かな公園が点在し、大学の歴史と伝統を感じさせます。同大学は1876年に設立された、英国有数の名門校です。

日本でいうと、慶応大のようなイメージでしょうか。教育・リサーチ分野で非常に評価が高いほか、オックスフォード・ケンブリッジに次いで入学が難しい大学として知られています。また、比較的裕福な学生が多いというイメージもあるようです。欧州の名門校で組織されるCoimbraグループの加盟校でもあり、英タイムズ誌(2007年)では、全英7位、世界37位の評価を受けています。

政治学部は1964年に設置され、ここ数年急速に拡大している学部です。現在は28名の教員に、400名程度の学部生、170名強(修士:約130名、博士:約40名)の大学院生で構成されております。近年、開発学分野における研究・教育にも力を入れており、開発(政治)学分野で世界的に著名なProf. Mark Duffieldをはじめ、合計7名(2008年現在)の研究者が所属しています。また、2008年からはCentre for Governance and International Affairsという研究所も学部に併設され、英国政府や国際機関、NGOへのコンサルティングといった対外活動も活発になっています。


2. プログラム紹介

ブリストル大学政治学部ではMSc in International DevelopmentとMSc in Development and Securityという、2つの開発学修士課程を提供しています。政治学部がオファーするプログラムということもあって、研究アプローチは極めて「政治学」的です。例えば、国際開発の諸問題を社会・経済要因の変革によって達成すべき「技術的」な問題と捉えるのではなく、冨の分配をゆがめる開発問題の裏側にある政治力学を分析する視点を身につけられるのが特徴と言えます。

なお、両コースともに一学期に必修科目を3科目履修し、二学期には選択科目(3科目)の履修、三学期目には修士論文の執筆となります。コースのアセスメントは学期末のエッセーのみで、筆記の試験等はありません。選択科目については、政治学部のウェブサイト(http://www.bris.ac.uk/politics/)をご覧下さい。


2-1. MSc in International Development

開発学の諸理論、その現実的課題への適用可能性について学んでいます。具体的な開発問題を想定した政策志向の研究が奨励されており、国際開発の分野である程度の職歴を持つ学生を想定したプログラムになっていますが、職歴の無い新卒の学生も入学を認められています。学生数は毎年30人前後で、非常にアットホームな環境の中で授業が進められます。一学期には、開発学の諸理論を学ぶTheories of Development, 国際経済における「国家」と「市場」の役割を学ぶInternational Political Economy、そして「紛争」と「開発」の関係について学ぶConflict Security and Developmentの必修三科目を履修します。前期は理論中心の勉強となりますが、後期からは具体的なケースを通じて開発を学ぶDevelopment Skills in PracticeやManaging and Evaluating Developmentといった科目の履修が可能です。


2-2. MSc in Development and Security

貧困削減のため世界はなにをすべきか、世界の紛争はどのようにして起きるのか、などをアカデミックに研究しています。学生数は10人前後と非常に少ないことが特徴で、その分、密度ある授業が提供されています。一学期にはTheories of DevelopmentおよびConflict Security and Developmentといった開発学関連の科目に加えて、安全保障の諸理論を学ぶTheories of Securitizationを履修します。後期では、世界の諸政策を分析するForeign Policy Analysis や、紛争の火種が絶えないアジア諸国を研究するAsian Security などの科目が選択できます。ほかの大学に比べて、アカデミックセオリーの研究・分析に重点が置かれているように思います。


3. コースの進め方、雰囲気

授業は学生によるプレゼンとディスカッションが中心です。授業進度は速く、クラスによっては、1週間に10冊近くの学術書・文献を読むことが、宿題として課されることもあります。毎日かなり勉強をしないと、ついていけません。 イギリスの学生は非常に真面目です。授業の後、皆でパブに行っても、「明日の授業の予習が終わっていないから」とジュースを注文する生徒も多くいます。日本と違い、いかにいい成績で卒業し、国連などの国際機関に就職するか、シビアな競争が学生間にあります。 留学生は他大学と比べすくないため(07年度修士課程でInternational Developmentに在籍する日本人は0人、 Development & Securityは1人)、英語力も鍛えられると思います。


4. ブリストル大学を選んだ経緯・アドバイス

ブリストル大学という名前も、以前は知りませんでした。イギリスの大学院のうち、開発学や平和構築を専門的に学べる学校を調べ、教授陣の研究分野をホームページで検索し、大学のランキングも参考にして最終的に決めました。 留学先を決めるプロセスは、だいたい以下のようなものではないでしょうか。まず、1) TOEFLなどの英語試験に向けて勉強 2) エッセーの準備 3) 留学雑誌などで学校を調査 4) 推薦書の依頼 5) 合否の結果待ち—。

多くの人がエッセーや英語の試験に追われてしまい、肝心の大学選びに割く時間が少ないように思います。実は、私もそうでした。 留学先を決めるにあたって、ぜひ、各大学のカリキュラムの違いをしっかり調べることをお勧めします。同じ開発学でも、地域別にとらえたクラスを提供する大学や、より実務的な方策を学ぶ大学もあります。また、日本では有名でも、当地イギリスでそれほど評価されていない大学も多くあります。将来、国際機関で働きたいのなら、世界の大学ランキングもある程度参考にしたほうがいいかもしれません。

イギリスの大学は、学部時代の成績よりも、これまでの職務経歴や志望書エッセーを重視しているように思います。自分が思うよりも、はるかに上位校に合格するケースもあるようです。幅広い大学に出願することをお勧めします。 ブリストル大のカリキュラムは、アカデミックな色彩が強く、国際的な評価も高いようです。街も非常にきれいで治安も日本並みです。世界の開発問題や平和問題に興味があるならば、ぜひ受験されることをお勧めします。