「MA in Gender and Development」University of Sussex (IDS)

石井 洋子 さん

執筆:2007年9月

1 自己紹介

サセックス大学にてジェンダーと開発(MA in Gender and Development)の修士課程に2007年〜06年度に在籍していました石井洋子と申します。当校に来る前は、約3年間インドに滞在し、そのうち1年は大学にて社会福祉を勉強し、2年間はNGOにて教育・ジェンダー関係のプロジェクトに携わりました。インドでの現地経験から、現場での事実を理論的に分析し伝えることのできる能力の必要性を感じ、大学院でジェンダーについて学ぶことを決めました。以前から大学院留学は考えていましたが、フィールド経験を得たこととある程度英語が上達したことを感じ大学院留学の準備が整ったと思ったため、このタイミングで留学を決意しました。サセックスを選んだのは、ジェンダーと開発の分野において先端の議論をリードする学者が多くいたので、それだけ質の高い教育を期待できると考えたためです。

2007〜08年度からはコースの内容が少し変更になるようですが、本投稿では私自身の経験を元に2006〜07年度のコースについて紹介させて頂きます。


2 学校全体の紹介(歴史、組織、特色など)

ジェンダーと開発の修士課程は、サセックス大学とInstitute of Development Studies (IDS) が共同で運営されているコースですが、ほぼ全ての授業がIDSで行われるため、IDSの紹介をしたいと思います。

IDSは、1966年に設立されて以来、研究機関・教育機関及び情報発信機関として国際開発の分野において先端を行く機関として名を誇っています。研究機関としては、4分野における研究チームにて100名程の学者が研究に従事し、英国政府の開発援助機関であるDepartment for International Development (DFID)を含めた機関へのコンサルタント等を行っています。教育の面では博士課程及び4コースの修士課程(2007年度より8コースに増えました)にておよそ150名の学生が学び、情報発信機関としては書物やジャーナルの出版、ウェブを通して開発分野の研究における情報発信・交換を行っています。現在IDS在籍の著名人としては、構造調整を批判したRichard Jolly、参加型開発の第一人者であるRobert Chambers、ジェンダーと開発の分野では一番の著名人であるNaila Kabeer などがいます。研究者それぞれが個々のネットワークを活かして、政府機関、国際機関、NGO等と手を組んで様々な分野・地域にて研究に従事しているので出張者が多く、IDSの建物自体は普段とても静かです。

また、IDSや大学自体が情報交換の場としてセミナー等が盛んに行われているので、そのような場で授業ではカバーされない開発における様々な議論を耳にするのはとても興味深いものでした。


3 専攻しているコースの紹介 (MA in Gender and Development)

1)特徴(強いところ、他との違い等)

このコースの強みは、ジェンダーと開発の分野における著名人の研究が行われている側で勉強できるということだと思います。恐らく一番有名なNaila Kabeer先生は忙しすぎるためか教壇に立つことはありませんでしたが、様々な分野の先生が毎回交替で講義をするような形式の授業が多く、時々かなり有名な人が講義をしてくれます。有名でなくても先生方はジェンダーの専門家ですので、毎回なるほどと思わせられるようなことも多々あり、様々なアプローチからジェンダーと開発を深く勉強することができました。選りすぐりの書物や議論を通して1通り勉強することになるので、1年後にはジェンダーと開発の主要な議論には精通するようになり、テーマやリーディング教材の組み方については上手くできていると思います。


2)生徒(出身、バックグラウンド、年齢層等)

ジェンダーと開発のコースは元々15人程度の小規模なクラスだったそうですが、年々増加する傾向にあり、私の在籍した06から07年度のクラスには30名以上いました。出身国はまちまちですが、日本、インド、英国出身者が最大の各4名で、その他はアフリカやアジアからの途上国出身者と少数の欧米出身者で占められていました。性別は2名の男性を除きすべて女性でした。年齢については、下は学部卒業者から上は国連で経験を積んだ60歳くらいの人までかなり幅がありましたが、全体的に20代後半から30代に集中している感じがありました。ほとんどの学生が途上国で何かしらのフィールド経験を持っている人が多く、その経験はNGO、政府機関、国際機関など様々です。学生同士がそれぞれ違った経験を授業で話し合うことによって、授業がより内容の濃いものになったと思います。また、男性は2名だけでしたが、彼らの存在は大きく、ややもすればフェミニズムに陥りがちな女性たちのジェンダーの議論を中立に保つ役割を担ってくれました。


3)教員、授業内容や進め方(科目履修のシステム、アセスメント)

サセックスの開発学のコースと同様、3学期制となっています。1・2学期目は2コマずつ、3学期は1コマ+10,000字の修士論文または20,000字の修士論文が必修です。

1学期は10月第一週目から10週間、12月の上旬までです。1学期目の2コマは、1)ジェンダーと開発における理論的視点 (Theoretical perspectives of gender and development)、2)ジェンダーと開発における経済・社会的問題点 (Economic and political issues of gender and development)、の2つです。前者はフェミニズムの流れから発展してきたジェンダーと開発の様々な理論をリーディングをベースに授業で議論し、5000字のタームペーパーがアセスメントの対象となります。後者は、ジェンダーと開発を取り巻く様々な社会・経済的項目を取り上げ分析していくもので、エッセイ(2500字)+コンセプトノート2本(各1000字)またはエッセイ(2500字)+統計プロジェクト(2000字)のいずれかがアセスメントの対象として課されます。

2学期は1月の上旬から始まり、10週目の3月中旬で終了します。2学期目の履修科目は、1)ジェンダーと開発におけるキー・イシュー(Key issues in gender and development)、2)ジェンダーと開発の実践における政治学(Politics of implementing gender and development)の2コマですが、上記の1コマだけを履修してもう1コマは他の開発コースから選択することも可能です。1)では、アイデンティティ、社会保護、リプロダクティプヘルス、環境などの分野におけるジェンダーと開発の諸問題にアプローチし、2)においてはジェンダーの政治に絡む理論と問題を講義と学生のプレゼンテーションを通じて学んでいきます。1)のアセスメントは5000字のタームペーパー、2)については4000字のタームペーパー+プレゼンテーションに基づいています。

3学期目は、Doing Developmentというコースの中ではもっとも実践的な授業が4月中旬から5週間だけあり、ここではジェンダートレーニングやプロポーザルの書き方、参加型手法など実際の業務に応用できるような知識を習得します。本授業のアセスメントは5000字のプロジェクトペーパーです。ただし、2万字の修士論文を書く学生は本授業に出席する必要はありません。

授業の形式は全てクラス全員参加の大グループでの講義です。形式は教授によって異なりますが、大半が講義+ディスカッションという形をとり、学生が発言する場が必ず与えられます。また、小グループで議論したりグループワークに取り組む形式も多々あるので、積極的な参加が常に求められます。ジェンダーと開発のコースは、他のサセックスやIDSの開発コースに比べて人数が多い割りに少人数でのセミナー等の場が全くありません。従って、授業において参加ができないと議論する場がほとんど無くなってしまいます。自分の考えが全体の中でどのような位置を占めるのか知ること、また、自分の抱いた疑問をクラスメートにぶつけることで新たな視点が生まれることから、授業での議論は自らの考えを発展させる大事な場であると感じました。

他のコースに比べて少人数での議論の場が少ない、という点は1年を通じて個人的に最も不満に感じた点でした。この点は、学生同士の少人数のグループが集まって勉強会を開くことで少しは解消しました。

2007年度からIDSでは修士のコース数が増え、複数コースの学生が合同で出席するような授業も開設されるそうなので、学生が議論できる場が更に減ってしまうのではと危惧しています。もともと先生方は忙しい方が多く、学生のために時間を割くことができない、というところから放任主義になってしまっているので、学生自身が積極的に先生に近づいていかないと例え指導教官であっても放っておかれがちです。ただ、意欲を見せれば真摯に指導して下さる先生方も多いので、教授陣からどれだけの利益を得るかは全て学生自身の姿勢に依存していると言えます。


4)修士論文(自分のテーマ、他の人のテーマで多いもの・特徴など、作成の流れ)

修士論文は3学期の履修方法によって10,000字または20,000字のどちらかを選ぶことになります。大半の学生は10,000字を選択し、それに加えて5000字のプロジェクトペーパーを書きます。修論の基本なやり方としては、リーディングの知識から理論を組み立て議論していく方式をとるので、現地調査には行かないことが前提とされています。 ただし、現地で生のデータを手に入れた方が論文も書きやすく面白みもあるという理由から、06〜07年度の学生は私を含め10人弱が約1ヶ月の現地調査に出掛け20,000字の論文を書きました。

テーマはジェンダー関連のものであれば何でも可能ですが、タームペーパーと重複するものは認められません。多くの学生は3学期に入ってから論文に取り掛かる直前にテーマを決定しますが、個人的にお勧めしたいのは漠然とでも事前にテーマを決め、早い段階にその分野の専門の先生と話を始め、論文についての指導を頂くことです。他のコースワークで論文まで手が回りにくいと思いますが、それでも何かしらアイデアを練って早めに先生に指導してもらうと良いと思います。そうでないと後々に論文の構想を練る時間が十分にとれなくなります。これは、私個人の苦い体験からアドバイスできることです。


4)コースの雰囲気

様々なバックグラウンドや信念を持つ人々がクラスの中にいたので、毎回興味深い議論が展開されました。意見が食い違う中でも、雰囲気はとても良かったので経験や英語力の差に関わらず誰もが発言できるクラスでした。それは、バックグラウンドが全く違ってもやはりジェンダーと開発という共通の興味を持っていること、更に、時に手に負えないコースワークに同じように苦しんだ経験から、クラス全体に一体感が芽生えたことが良かったように思います。クラスの外でも様々な催し物を企画する、とても仲の良いクラスでした。


5)卒業生の進路(就職先の傾向、就職サポート、自分の求職経験)

進路は人それぞれです。コースを終えて直ぐの就職はやはり難しいですが、NGO、国際機関、コンサルタントなどが主ではないかと思います。06−07年度の学生はまだ決まっていない人が大半です。


6)Admission(出願から入学まで、自分の体験、学費と奨学金、出願者へのアドバイス)

出願はサセックス大学のホームページから書類をダウンロードして郵送するか、オンラインでの出願になります。奨学金は早いうちに応募して確保しておいたほうがいいですが、奨学金の結果を待ってからではコースの締め切りに間に合わない場合が多いようです。大学からオファーを貰ってから奨学金が貰えないことが分かり、財政的に厳しいなどという場合は、コースへの参加を翌年まで延期してもらうこともできます。その場合は本コースのadmission担当の人に相談すれば良いでしょう。本コースでは事前に必要な実務経験について具体的に明記されていませんが、短期間であっても途上国での経験があったほうが自分自身にとっても授業を理解しやすいという理由から、何らかの開発現場での経験があったほうがいいかと思います。


4 関連情報

サセックス大学 http://www.sussex.ac.uk/

Institute of Development Studies http://www.ids.ac.uk/ids/index.html

MA in Gender and Development http://www.ids.ac.uk/ids/teach/magend.html

入学関連HP http://www.sussex.ac.uk/Units/publications/pgrad2007/paperapplication

その他質問などがあれば、yocandoit29*yahoo.co.jp (*→@)までお願いします。

分かる範囲でお答えさせていただきます。