「途上国における公衆衛生(PHDC)修士課程」LSHTM

吉田 友哉 さん

執筆:2007年9月

1 自己紹介

ロンドン大学衛生・熱帯医学校にて「途上国における公衆衛生(PHDC)」修士課程に在籍中(07年9月修了予定)の吉田友哉です。私は日本・アメリカの援助機関で当校に来る前の7年間、保健・公衆衛生分野の開発事業に携わってきました。

初めて保健・公衆衛生の分野で仕事をしたのはフィリピンでのプログラムオフィサーとしてでしたが、学部時代の専攻とはまったく違う分野であり、文字通り一からの出発で、周りの専門家の方々に教えを請いながらプロジェクトの現場を知ることができました。

その後アメリカの援助機関の国際保健局にて援助協調担当官として2年ほど働く機会を得ました。局内には公衆衛生の様々な分野の専門職員がおり、各国で行われている活動への技術的支援を行っておりました。またワシントンDCを初めとする米国各地に公衆衛生分野での開発プロジェクトを受託し実施する団体が多数存在しており、こうした専門家と仕事ができたことでさらにこの分野の知識・興味が深まるとともに、こうした人材を支えるアメリカの公衆衛生大学院の充実ぶりも知ることができました。

その後、日本に戻り途上国の感染症対策の部署で働き、公衆衛生分野を体系的に学んでみたいという気持ちが強くなり、幸い休職研修制度の機会を得ることができ、昨年9月から本校での修士課程をスタートさせま した。


2 学校全体の紹介(歴史、組織、特色など簡単に)

ロンドン大学衛生・熱帯医学校は、元々は熱帯植民地における英国人の健康を守るという趣旨から開設され、源流をたどると19世紀初頭にできた船員病院にさかのぼります。1899年にLondon School of Tropical Medicineとして設立され、その後1929年にSchool of Hygieneと一緒になり、正式にLondon School of Hybiene and Tropical Medicineとして現在の場所(Keppel Street)に発足しました。

現在でも発展途上国とのネットワークを活かし、熱帯医学については最先端の研究機関の一つとして有名です。

大きくは3つのDpartment(Epidemology and Population Health、Infectious and Tropical Diseases、Public Health and Policy)とCenterによって構成されていますが、修士レベルはプログラム(コース)ベースで動いているので、普段あまり意識されることはないようです。


3 専攻しているコースの紹介

1) 特徴(強いところ、他との違い等)

プログラムのオリエンテーションでも何度も言われることですが、「途上国における公衆衛生」プログラムの最大の特徴は、参加している生徒の多様性にあると思います。入学の条件として途上国における勤務経験が求められているため、他のコースと比べても年齢層も高く、経験豊富な生徒が多いように思われます。

ある教員は、コースの生徒を同じ教室に詰め込んでお互いから学ぶだけでも十分な教育となると述べていました。その言葉通り、毎週行われた各生徒による経験をふまえたプレゼンテーションの内容は多様かつ非常に充実したものばかりでした。

タイトルに「途上国における」と関しているプログラムも他の公衆衛生校ではほとんどみられませんので、これも特徴の一つかもしれません。

学校全体としては保健政策・保健システムが有名なようですが、このコースではあまりこうした分野の授業を取ることはできませんでした。またマラリア対策、特に蚊帳の活用に関しても研究が進んでいるそうで、選択した授業の中でもマラリアの授業は良かったと思います。必修授業の中では疫学の授業は充実してレベルも高かったと思います。疫学はBasic(週一コマ)とExtended(週二コマ)の選択肢がありましたが、Extendedをおすすめします。


2) 生徒

生徒数は年々増加する傾向にあり、06年〜07年度の当プログラムには60名以上の生徒が所属していました。おおまかに半数が途上国出身で、残りが先進国出身者といった感じです。生徒のバックグラウンドとしては、途上国で活動をするNGOでの勤務経験を有している生徒が多く、特に医療緊急援助で有名なMSFでの経験がある人たちが目立ちました。その他は、ボランティア、途上国の政府機関・病院勤務、国際機関などの経験などを持った人たちとなります。年齢は前述の通り、他のプログラムに比べて比較的高いと思われます。平均年齢は30代前半から半ばくらいで、この年齢層の生徒が多いのですが、20代前半から40代までいました。

MD(医師)のバックグラウンドがある人は半分くらいでしょうか。残りは看護師、薬剤師などの医療関係資格を持っている人、政府関係者、NGO経験者などです。


3) 教員、授業内容や進め方(有名な教授、科目履修のシステム、アセスメント)

プログラム共通ですが、3Term制となっています。Term1は10月から12月の10週間となっており、基本的にすべて必修授業となっています。具体的には「疫学」、「統計」、「保健経済」、「政策」、「社会調査」で、疫学と統計は週二コマありました。(「ヘルスプロモーション」を取る場合は疫学が一コマになります。)5週目を終えた時点でReading Weekとして一週間授業のない期間があり、ここで前半の復習をすることになっています。

授業の構成はほとんどの科目で共通しており、1時間の講義のあと1時間半の演習となります。講義は大教室で行われました。いくつかのプログラムで必修となっている科目などは履修している人数が多く100人以上の授業もありました。演習は15〜20人くらいに分かれ、さらに小グループでのディスカッション・発表となります。

Term2は5週間の科目を2科目×2、Term3は5週間の科目を2科目、合計6科目を選択することとなります。プログラム毎に選択肢が与えられており、10科目くらいの選択肢の中から1科目ずつを選ぶことになります。

Term2,3の科目は、最終週に試験またはレポートの提出で成績がつきます。Term1の科目は、6月に4科目を選択しての試験が行われます。これにサマープロジェクト(後述)のレポートの評価を加えて総合評価となります。

公衆衛生分野で有名な教授は多くいますが、科目の中で一コマ程度レクチャーにくるくらいなので若干物足りない気がしました。修士レベルでは教授について研究を進めるというよりは、授業中心で進みます。


4) 修士論文

修士論文とは呼ばれていませんが、サマープロジェクトを実施してそのレポートを提出することが求められています。サマープロジェクトについてはプログラム当初から説明されているものの、多くの人は6月の試験終了後に着手したようです。中にはTerm2と3の間のイースターにフィールド調査に行く人もいました。

長さは7000語から10000語の範囲となっています。現時点では作業中なのですが、疫学データの収集や行動変容に関するインタビュー調査をして分析している人が多いようです。


4) コースの雰囲気

全員実務経験があるため、議論についてもフィールド経験を基にして行われる傾向があると思います。また途上国での経験という異文化における仕事をしたことがある人ばかりなので、コミュニケーション能力の高い人が多いのも印象でした。演習の時間なども、他人の意見を尊重せず自分の主張ばかりを通そうとする人もいましたが、PHDCの人が入ることでバランスがよい議論ができた場面も多くありました。

コースの結束も堅く、毎週木曜日はパブで親睦会が開催されていましたし、各楽器の終わりには大規模なパーティもありました。その他夕食会や休日の小旅行などいろいろな催しが企画されていました。


5) 卒業生の進路

現在まだ決まっていない人が多いのですが、途上国で働くNGOなどに戻る人が多いようです。PhDに進む人もいるようですが、あまり多くないと思います。


6) Admission

出願はアプリケーションフォームを学校のページからダウンロードして書き込むことになります。志望理由やこれまでの経験などもこのアプリケーションフォームの中に入っているため、独自に書く必要はありません。ただし、書き込めるスペースが小さかったため、私は別用紙に書いて提出しました。

このフォームの他に履歴書、推薦状を2通、大学時代の成績証明書、TOEFL/IELTSの成績証明書、財政能力証明書を同封して学校に郵送します。推薦状については、一通は職場、一通は学校といった指定はありませんでした。(これもアプリケーションフォームのようにフォームになっていて英語能力や学習意欲などの評価項目も入っています。こちらも枠が小さかったので、フリーライティング部分は別紙にしてもらいました。)

私の場合は学校時代の専攻が違ったこと、卒業後10年以上たっていたことから、2通とも職場関係の方に書いていただきました。(一通はアメリカでの勤務時代のスーパーバイザーで、同じ公衆衛生分野でPhDも持っている方でした。)

英語の成績ですが、昨年度はTOEFL CBTで総合250点以上、かつWritingが5.0以上となっていました。IELTSは、総合7、Writing7以上です 。私は書類送付時にTOEFLで総合250点以上はクリアしていたのですが、Writingが5.0に届いていなかったため、英語の成績のみ後から送付することになりました。この場合は、条件付きの合格をまず与えられその後英語の成績を送って初めて正式なOfferがもらえるということになります。

合格証明書はあっさりとしたもので、手紙が数枚郵送されるだけでした。学校案内やコースハンドブックなどは同封されていません。学校案内についてはBritish Councilで閲覧できます。


4. 関連情報

学校ホームページ http://www.lshtm.ac.uk/

途上国における公衆衛生プログラムページ http://www.lshtm.ac.uk/prospectus/masters/msphdc.html

入学関連ページ http://www.lshtm.ac.uk/prospectus/howto/

その他、質問などあればtomoya-y*ca2.so-net.ne.jp (*→@)までお願いします。分かる範囲でお答えさせていただきます。