「MA Education, Gender and International Development」

Institute of Education, University of London

金子 雄大 さん

執筆:2007年9月

大学院紹介

ロンドン大学教育研究所(Institute of Education - IoE, University of London)、教育・ジェンダーと国際開発修士(MA in Education, Gender and International Development - EGID)課程に2006年10月から在籍しております。以下で大学院およびコースについて紹介します。

まず、簡単な自己紹介ですが、独立行政法人国際協力機構の実施する青年海外協力隊事業において、協力隊隊員としてマレーシアで活動したのち、JICA在外事務所に入りボランティア事業の運営を行う調整員という立場でパプアニューギニアにおりました。共に教育分野に携わってきたこともあり、教育分野での専門性を深めたく同大学院に進学しました。


学校全体の紹介(歴史、組織、特色など簡単に)

IoEは 1902年に創設された大学院大学で、Post Graduate Certificate of Education – PGCE(現職教員再訓練)、Foundation Degree、MA、Master in Research、Ph.Dのコースを提供しています。図書館は教育関連蔵書欧州1を誇り、蔵書数英国最大の図書館を擁するSOAS、ロンドン大学図書館が隣接するほか、LSE図書館、British Libraryなども徒歩10〜15分の範囲にあり(IoE以外の図書館の利用は登録手続きを要します)、アクセスできる学術書等図書資料は非常に豊富です。また、IoEをはじめ他大学や外部機関の一般公開講義ならびにセミナー等への出席もしやすい立地条件にあるので、教育と開発を学ぶにあたって、イギリスでもっとも恵まれた環境にあるといえます。

School of Lifelong Education and International Development – LEID(生涯教育・国際開発学部)は、1927年に大英帝国植民地諸国における教育の開発を目的にColonial DepartmentとしてIoEに設置されました。EGIDはもともと同学部のもとにありましたが、現在はSchool of Educational Foundation and Policy Studies – SEFPS(教育基礎・政策研究学部)に属しています。ただし、実際には他の開発関連コースと緊密な連携関係にあります。現在、開発関連コースは4つで、EGIDのほか、Education and International Development (EID)、 Educational Planning, Economics and International Development (EPEID)、 Education, Health Promotion and International Development (EHPID)があります。EHPIDは比較的実践志向ですが、全体的に理論重視のコース内容になっています。

コースと履修の形態ですが、コースは秋・春・夏の3タームにわかれ、モジュールは通常10週、モジュールやタームによっては短期集中(2週間)で行われます。また、オンラインでの履修が可能なモジュールもあります。卒業単位取得にあたって、履修形態は、4モジュール+修士論文(20,000語)、または5モジュール+レポート(10,000語)のいずれかとなります。

必須のモジュール(数)はコースにより異なります(EIDは1コマ、EHPIDは2コマ、EPEIDは3コマ)。選択モジュールは他のコース、学部、他大学(ロンドン大学所属機関)のモジュールから履修が可能となります。論文重視で、テストはありません。モジュールの評価はエッセイ(5,000語)となります。評価はされませんが、場合によりグループプレゼンテーション等が必須となるモジュール(Planning for Education and Development)もあります。コースには、秋タームにパリにあるUNESCOおよび付属機関のInternational Institute for Educational Planning (IIEP)への訪問が含まれています。


履修コースの紹介

EGID必須のモジュールは、今年度はLearning, Education and Development: Concepts and Issues - LED(全開発関連コース必須)、Gender, Education and Development - GED の2つでしたが、来年度はUnderstanding Education Researchが加わったようです。


LED

教育と開発に関する理論と問題について、幅広くカバーしています。人的資本論やそれに対する理論的枠組みの歴史的変遷に始まり、教育と開発の理論と問題を政治学、経済学、社会学、心理学、文化、保健(HIV/AIDS)の側面から学びます。講義は開発専門の講師陣が入れ替わり行う形式です。


GED

今年度はEGID主任のDr. Elaine UnterhalterとDr. Jenny Parkesの講師2名でのCo-Teaching形式でした。開発にける教育とジェンダーの問題やその要因は複雑で多岐にわたります。教育におけるジェンダーの平等もアクセスだけでなく、教育や学習のプロセスや質の問題、そして教育が女性のエンパワーメントにどのように結びついているのかといった側面も加味しなければなりません。

そして、ジェンダーの不平等を解決するにはどうすべきか。阻害要因は、学費、学校施設や設備等の問題だけでなく、政治、経済、文化、フェミニズム、ナショナリズム、グローバリゼーションと多文化主義、教員や家族の影響も絡んできます。理論的枠組みを踏まえ、こうした開発における教育とジェンダーの問題について学びます。講義では講師からさまざまな問題提起がなされ、討論・意見交換を行う形式をとります。模範解答はないので、学生それぞれの経験に基づき講義や討論等を通じて理解や考えを深めていく作業となります。


その他のモジュールと講師陣

開発コースのモジュールでは、Planning for Education (PED)、Learning, Learners and Teaching in the context of EFA (LLT)、Education and Muslim Communities (EMC), Economic Value of Education (EVE)、Participatory Planning and Project Management for Health Promotionなどがあります。以下では上述の必須モジュールのほかに履修したモジュールについて簡単に説明します。


PED

プランニングとは何かから始まり、人的資本論をベースに理論的枠組み、手法やサイクルについて学びます。モジュールでは、途上国での教育プランニングに付随する予算やガバナンス(汚職)、(校内)暴力の問題、紛争地域やポストコンフリクトにおける教育のプランニングについても検討します。各セッションのテーマにそって各担当グループがプレゼンテーションを行うほか、状況設定された課題に沿ってプランニングを行い最終週にグループプレゼンテーションを行うことが義務付けられています(ただしプレゼンテーションの内容については評価されません)。


EMC

履修したなかで一番よかったモジュールです。最低開発国総人口のおよそ半数以上をイスラム教徒が占めるのはなぜか、「読め」という一節からコーランの啓示が始まっているように教育と知識を重視する宗教であるにもかかわらずムスリム社会で教育が立ち遅れているのはなぜかという問いに始まり、ムスリム社会の多様性とそれぞれの社会が抱える諸問題、西洋近代化(ヨーロッパ啓蒙主義と近代科学など)とイスラムの関係について学びます。地域ごとに専門家のゲストスピーカーを招き、講義と討論を行うほか(今回の対象国はギリシャ、イギリス、チュニジア、インドネシア、パキスタン)、最終セッションでグループ毎にケーススタディを発表します。1月及び2月の最終週2週にわけての集中講義(春タームのみ)です。学生数も15名程度と少なく、中身の濃いモジュールです。


Participatory Planning

直接履修はしていないので詳細はわかりませんが、実践的で午前に講義、午後にグループにわかれ実際にプロジェクトデザインを行う形式のようで、EHPID以外の学生の間でも非常に人気の高いモジュールです。


以下では簡単に講師陣の紹介をします。

Professor Angela Little

School of Lifelong Education and International Development

Diploma Diseaseで人的資本論を批判した有名な学者です。直接モジュールは担当していませんが、LEDの一部のセッション(経済的側面)を受け持つほか、修士論文の指導教官も務めています。


Dr.Anil Khamis

EID Lecturer EMC: LLT担当

ムスリム社会における教育、教育と開発の文化的側面やマイノリティの問題などに詳しく、論理的に鋭く、的確な指摘をしてくれます。


Dr. Moses Oketch

EPEID Course Leader: PED、EVE担当

ケニア出身で、アメリカの大学院にて、人的資本論をSocial Benefitの観点から見直したWalter W. McMahon(著書Education and Development:Measuring the Social Benefits, 2002)に師事している教育経済学の専門家です。学生への要求度は高いですが、その分学ぶことも多いと思います。


Dr. Jenny Parkes

EGID Lecturer:GED担当

Masculinity、アフリカが専門で、GEDではDr. Unterhalterと講師を務めます。チュートリアルではとても丁寧に指導してくれます。


Dr. Pad Pritmore

EHPID Course Leader: Participatory Planning担当

教育と保健(HIV/AIDS)の専門家です。LEDで担当する保健のセッションの講義を受けましたが、とてもエネルギッシュな先生です。


Dr. Elaine Unterhalter

EGID Course Leader: GED担当

専門分野および地域:教育とジェンダー、南アフリカ・南アジア。開発における女子教育では有名な学者の一人です。特にジェンダーと学校教育についてGlobal Social Justiceの枠組みで議論をしています。UNESCOのUNIGEIプロジェクト、DFIDとのBeyond Accessプロジェクトに従事しています。


Mr. Chris Yates

EID Course Leader:LED担当

遠隔教育で有名で、専門地域はアフリカです。講師陣のなかでは学生の面倒見がもっともよく、学生の信望を集めている先生です。修士論文指導では、担当する学生でサポートグループを作り、週1回ミーティングを開いています。


修士論文

スーバーバイザー確定にあたり、論文の(仮)テーマと概要に関するフォームを、秋タームからの学生は12月に提出することになります。EGIDでは動き出しが早く、11月頃からDr. Unterhalterとのチュートリアルがあり、講師と相談のうえ方向性をしぼっていきます。EGIDの場合、修士論文の指導教官はDr. Unterhalterか、Dr.Parkesになります。以下では私自身の修士論文について紹介します。

IoEでの研究テーマは教育、ジェンダー、イスラムと開発です。ジェンダー平等はEFA、MDG、CEDAW(女性に対する差別撤廃条約)などの国際取り組みのなかで謳われていますが、こうした動きはジェンダー平等を社会秩序の普遍的価値として広めるというイニシアチブ(Global Social Justice)として捉えることができます。一方で、イスラム圏など非西洋文化圏では異なる価値観に対する集団の権利(多文化主義)を主張しており、西洋の主張するジェンダー平等の権利はイスラムの価値観と相容れないという見方をとるムスリム社会も存在します。こうした相克を乗り越えて多文化主義のなかで普遍主義を追求できるか、具体的にはGlobal Social Justiceとしてのジェンダー平等をいかにイスラムの文脈に置き換えて主張することができるかについて研究しています。修士論文では、この問いを文献調査の章で議論し、本論ではマレーシアにおけるマレイ人(ムスリム)女子教育の拡大と労働市場へのアクセスを統計分析する予定です。


生徒

社会経験、出身国はさまざまですが、大学院大学なので大半が社会経験者です。LEDのように1クラスの学生数が多いというマイナス面はありますが、さまざまな経験をもつ各国の学生と仲良くなることができる点はコースを助け合いながら乗り切るうえでも将来の人脈作りにも大きなプラスとなる思います。


Admission

大学オフィスの対応はあまりよくないので、注意が必要です。特に年度初めのイントロダクションについて連絡が来ない場合もあり、初日の授業に出られなかった学生もいました。出願結果、学生寮での部屋の確保、コースブックやスケジュールなどはオフィスやコースアドミニストレーターに自ら積極的に問い合わせることを勧めます。

当地で開設した銀行口座から学費等を支払う場合には注意が必要です。留学生の口座開設が年々厳しくなっており、申請には大学からレターを持参する必要があります。レター取得にあたっては学生登録が必須となりますが、これは学費の支払い(全額または分割の一部)を済ませないと登録されません。従って、事前語学研修で早めに来られている方は研修期間内に銀行口座開設の申請を済ませるか、自己負担で10月からコースに直接入る方はクレジットカードを用意する必要があります(支払い限度額も要注意)。


関連情報

IoE Website:

http://ioewebserver.ioe.ac.uk/ioe/index.html


IoE School of Lifelong Education and International Development Webpage:

http://ioewebserver.ioe.ac.uk/ioe/cms/get.asp?cid=4458

※EID, EPEID, EHPIDは上記学部に属します。


IoE School of Educational Foundation and Policy Studies Webpage:

http://ioewebserver.ioe.ac.uk/ioe/cms/get.asp?cid=4551&4551_0=4787

Beyond Access Project:

http://ioewebserver.ioe.ac.uk/ioe/cms/get.asp?cid=7746

UNGEI (UN Girls’ Education Initiative) Website:

http://www.ungei.org/


追記

大学内部の人事等の変更がありました。EGID Course LeaderがDr. Unterhalterから、Dr. Parkesに替わります。Dr. UnterhalterがESRCの研究プロジェクト助成金を受け、今後3年間プロジェクトの指揮をとることになったためです。よって、Dr. Unterhalterは、コースでの指導は継続するものの、直接の論文指導はされないようです。このほか、EGIDはLEIDに戻るようです。