在カンボジア日本国大使館 草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員

執筆:2017年6月

勤め先:在カンボジア日本国大使館 草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員

出身校:

「MA Education and International Development. Institute of Education, University College London」

(インスティテュート・オブ・エデュケーション、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン 教育と国際開発 修士課程) 卒業

崎元 大志(さきもと たいし)さん


1、 自己紹介

北海道大学文学部を卒業後、日本国内の経営コンサル会社(10ヶ月)・学習塾(3年5ヶ月)での勤務を経て、イギリスへ留学。INTO Manchester(マンチェスター)のGraduate Diploma(準修士)コースへ通った後、インスティテュート・オヴ・エデュケーション(ロンドン)の修士課程(教育と国際開発コース)へ進学。大学院留学中、IDDPスタッフも務める。帰国後、東京の国連開発計画駐日代表事務所にて3ヶ月半インターンを行い、2016年4月から、在カンボジア日本国大使館において草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員として従事。


2. 現在の仕事内容

現在は在カンボジア日本国大使館で草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員というポストで勤務しています。対カンボジアの草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下、草の根)と日本NGO連携無償資金協力(以下、N連)のうち主に教育案件を担当しています。

草の根というスキームは、日本政府の他の無償資金協力に比べて供与額は小規模ですが、草の根レベルで地域住民のニーズに適う協力を行う趣旨で行っています。中央政府ではなく、地方自治体や地元NGOなどをカウンターパートとして実施するため大規模な援助が入りにくい遠隔地などでも実施が可能なスキームです(※1)。近年行なっている対カンボジア草の根の教育案件は、9割以上が学校の校舎やトイレなどを建設するプロジェクトです。例えば、2016年度だと教育案件が7件採用され、そのうち5件が小学校、2件は中学・高等学校に校舎やトイレを建設する案件です。

N連は、日本のNGOへの資金協力を通して開発を援助するプログラムです(※2)。こちらでも、私は教育に関するプロジェクトを担当しています。担当プロジェクトの一例として障がいの有無に関わらず教育を受けられるInclusive Educationの推進事業というものがあります。教育省の発表によると、2015/16年度のカンボジア国内全体での小学校就学率は97.7%であり、開発途上国の中でも非常に高い水準にあると言えます(※3)。ただ、残り数%通えていない子どもというのは、言語や民族、地理的条件などで不利な条件にあるグループに多い傾向にあります。障がいも就学を阻害する大きな要因のひとつとなっており、カンボジアでは障がい児に絞った就学率は、全体の就学率に比べて極めて低い就学率になってしまいます(※4)。実際の教育現場では、学校教員が障がい児に対してどう接して良いのか分からないために、教員が障がい児の入学を拒むケースさえあります。特に、視覚または聴覚が全く無いなど重度の障がいの場合、より顕著に就学率が低いと言われています。こういった状況を改善するために、本プロジェクトでは、教員トレーニングや学校の施設改善(障がい児用トイレやスロープ)などを通して、障がい児がより通学しやすい環境整備を行っています。

これらの草の根、N連の各プロジェクトに対して、私自身が何をしているかというと、案件形成前のニーズ調査、関係者の聞き取りなどを含めた事前調査、事業開始後のモニタリング・フォローアップです。例えば、上述の通り2016年度に草の根教育プロジェクト7件が採用されましたが、その7件を選ぶためにその何倍かの候補案件を現地調査しに行きました。実際に現場を見て、現地の人達と話すことで、案件ニーズや申請団体の実施運営能力、仮に採用した場合のインパクトなどを測ります。

採用された案件については、建設案件であれば進捗状況や建設会社への支払状況が適切になされているかなどを監督します。完了後には、供与された建物や備品は適切に維持管理されているか、案件形成時に見通していた裨益効果が発現しているか、などのフォローアップを行います。開発途上国ではせっかく供与した物品でも、使い方の分かる人がおらず放置されてしまうようなことも起こり得ます。フォローアップでは、そのような問題が起こっていないか、万一起こっている場合には解決に向けてファシリテートします。

在カンボジア日本国大使館での仕事を始めて、積極的に現場に足を運んで実情を見ることが大切であると考え、できる限り出張調査を行っています。その結果、(プライベートも含めると)約10ヶ月でカンボジア全州(1都24州)に足を運ぶことができました。各州で人の雰囲気も抱えている課題も違いますが、実際に訪れてみないと分からないことがたくさんあります。私のオフィスはプノンペン都にありますが、国境際など首都から遠い地域ほど深刻な問題を抱えている傾向にあります。その上、そういった遠隔地ほどドナーからの支援も届きにくい傾向にあるため、問題が山積していることが多々あります。そのため、私は首都から遠いエリアほど積極的に現場視察を行うようにしています。

※1 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/kaigai/human_ah/

※2 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/region/page23_001066.html

※3 https://drive.google.com/file/d/0B1ekqZE5ZIUJYmV5eFhCenRfcmc/view

※4 http://english.aifo.it/disability/apdrj/apdrj207/cambodia_disabled_children.pdf


3.就職までの流れ

修士課程ではカンボジアの基礎教育に重点を置いて研究を行ったため、開発のなかでもカンボジアの基礎教育に携わる仕事に就きたいという希望を持ちながら就職活動を始めました。しかし、それまでに開発に関する職務経験が少ないため、応募対象をあまり絞り過ぎず幅広く開発分野の人材募集にアプローチしました。求人情報を探す上で最も重視したことは開発途上国で勤務できることです。私自身、現場での勤務を希望していましたが、途上国勤務のポストであれば、分野もエリアも幅広く応募しました。実際に地域はアフリカ、南アジア、中東など、分野では保健、農業、環境など幅広い求人に応募書類を提出しました。最終的には、自分が最も望んでいた「カンボジアの教育分野」に携わる仕事に就けたことは真に幸運だと思います。

選考プロセスは、結構スピーディに進みました。2月末が応募〆切であったためそれまでに選考書類を提出した後、すぐに2次試験(電話面接)の案内があり3月中旬にそれを受け、3月20日には赴任の通知がでました。そして、4月からカンボジアで着任することとなりました。


4.所属コースの概要

私が実際に履修したモジュールと学期末に提出したエッセイなどのテーマは以下のとおりです。

■秋学期(10~12月)

①Education and International Development: Concepts, Theories and Issues

Essay Title: ‘Completion Rate in Rural Cambodian Primary Schools: Analysed by the Rights Based Approach and the Capabilities Approach’

②Education and Development in Asia

Essay Title: ‘A Comparison of Education Provision in Rural and Urban Areas in Developing Countries: A Case in Cambodia’

■春学期(1~3月)

③Planning for Education and Development

Essay Title: ‘Cambodian Education Strategic Plan & Education Sector Support Program: Analysed by the SWOT Analysis & Theory of Change’

④Learners, Learning and Teaching in the Context of Education for All

Essay Title: ‘Education Quality at Cambodian Primary Schools: Focusing on Teacher Quality & Teacher Training’

■修士論文

‘Teachers’ Perspectives on Causes and Solutions to the Drop-out Problem in Rural Cambodian Primary Schools’

修了課題として、Dissertation(20,000語)またはReport(10,000語)のいずれかを選ぶことが出来ます。私のコースでは①が必修科目で、それ以外に選択科目をDissertationの学生は3つ、Reportの学生は4つ履修します。それぞれの科目が3時間×10週の授業で構成されていて、学期末のエッセイ(5,000語)で成績を評価されます。


4、 在学中にしておいてよかったこと、またやっておけばよかったこと

[在学中しておいてよかったこと]

修士論文に際しては、データ収集をフィールドリサーチで行いました。リサーチエリアがカンボジア東北にある山岳部で、イギリスから現地へ約1ヶ月間訪れて調査をしました。私の場合、この調査までカンボジアへ訪れたことがありませんでした。入学当初から教官からは「カンボジアを研究するのにカンボジアへ行ったことがないのであれば、現地調査をした方が絶対に良い」と強く言われていました。実際、私のコースでは多くの学生が実際フィールドへ行って調査を行っていました。実際に現地をみて現場で働いている人の話を聞くことで、文献で読んだことが腑に落ちたり、実感レベルで理解できたり、新たな切り口で問題を見ることが出来たりしました。こうした研究費も自己負担であるため、研究費のためにアルバイトをする時間も捻出しなければなりませんでしたが、実地で得られた調査情報は説得力もあり、大変役に立ちました。少し頑張ってフィールドリサーチをしたことは非常に良かったと思います。

もうひとつは、シンプルですが授業の課題をどれだけ真面目にこなすかが本当に肝要です。毎回の授業でとてつもない量の課題が出ました。1科目につき多いときは数百ページに及ぶレポートを読んでくるようなこともありました(次の週まで)。日本語で読むにしても大変な量の課題を英語で読むのは本当に大変でした。しかも履修しているのは1科目ではありませんし、前学期の課題エッセイを同時に進めないといけない時期と重なることもあります。毎回すべての課題をこなせた訳ではありませんが、自由な時間は出来る限り図書館にこもって課題と向き合うようにしていました。1回1回の授業に向けてどれだけ準備できたかによって、授業で得られるものが違ってきます。

また、科目やコースメンバーによっては授業の始まる1時間前にクラスメイトと課題に関してディスカッションや内容共有を行うこともありました。課題で読んだ論文や記事に関する理解が正しいのか、勘違いしていないか、主題や論点が何なのかが確認でき、またテーマに関してクラスメイトと具体的な体験やエピソードの共有を行ったり意見交換ができたりする場でもあったため、積極的に参加するようにしていました。

[在学中しておけばよかったこと]

授業中のディスカッションへもっと積極的に参加すべきだったという反省はあります。授業内容について不明確だったことを確かめるための質問をすることくらいはできても、例えば自分はこう思うけどみんなはどう思うのか、自分はこういう体験をしてこう感じたがみんなの考えを聞きたいなど、創造的なコメントや発言は1年間を通してほとんど出来なかったように思います。自分の経験がそこまで及んでいなかったことももちろんありますが、授業の準備でそこまで内容を落とし込んだり、自分と照らし合わせたりまでは出来ていなかったように感じます。また、授業中は内容を理解することに必死でそこまで追いついていなかったということも正直な反省です。


5、 今後のキャリアプラン、将来の夢など

せっかく開発分野に参入することができたので、この業界でより深いキャリアを積んでいきたいと考えています。特に、開発途上国の現場で出来る限り長く働き続けたいと考えています。まだまだ開発の道で経験は浅く、経験したことのない職種も地域もたくさんあるため、いろんな地域でいろんな角度から開発途上国における教育課題にアプローチしていきたいと考えています。特に、アフリカ、中東、紛争地域などでは基本的人権さえ脅かされている人も多く、それが子どもとなると更に脆弱な状況に追いやられてしまうケースも多いため、そうした人々を対象とした仕事がしたいです。

将来の夢は、キャリアをさらに積んで、国連機関の途上国オフィスで教育プロジェクトを実施するようになることです。


6、これから留学する 学生、在学中の学生に一言

留学は本当に貴重な機会です。修士論文は確かに大変なタスクではありましたが、自分の関心事にこんなにも集中して向き合えることはなかなかないでしょう。だからこそ、「自分は本当に何に興味があるのか」、「それを留学後どのように活かしていくのか」、「留学後はどんな道を歩みたいのか」を明確にもって留学するといいと思います。