青年海外協力隊パプアニューギニア小学校教員

執筆:2014年11月

伊地知 政司さん

イーストアングリア大学、国際開発学部、修士課程:水の安全保障と国際開発

University of East Anglia, The school of International Development, MSc Water Security and International Development

青年海外協力隊・平成22年度3次隊・パプアニューギニア

活動期間:2011年1月〜2013年1月

● 自己紹介

出身地は大阪府高槻市です。龍谷大学理工学部物質化学科を卒業後、コンクリートパネルの建材メーカーに就職し、約7年間開発研究所に研究員として勤務しました。主な研究内容は、コンクリートに染み込ませる補強材の開発や、発泡して膨らむ土木用コンクリートの開発、水や空気を浄化できる新しい材料の開発などです。

私が仕事を退職して青年海外協力隊に応募した理由は、仕事にやりがいを感じなくなったからです。会社や、会社の利益のために働くことがつまらなくなり本当にやりたいことを探しました。元々、海外の様々な文化に触れてみたいという気持ちがありましたし、本当に助けを必要としている人の力になれたらやりがいを感じるかも知れないと思い、青年海外協力隊に応募しました。

● フィールドワークまでの流れ

青年海外協力隊に行くと決めてから、自分の決心が揺るがないことを確認するために4年待ちました。その間に英語の勉強、難民支援ボランティアの活動などをして自分の気持ちの変化を確かめていました。

応募は一次審査が書類審査で、2次が面接です。1回目の応募は2次面接で落選しましたが、半年後に再挑戦して合格しました。自分の経歴から選択できる職種に、理数科教師という職種があり、比較的倍率が低かったので受かったのだと思います。

派遣前に2ヶ月ほどの合同訓練があり、語学・安全衛生・多文化共生・開発学の基礎など、およそ250人の訓練生と任地で必要な知識を学びました。様々な背景を持ちつつも同じ志で協力隊に参加する仲間と出会えたのは本当に有難いことで、とても勇気付けられましたし、色々な話しを聞けて自分の世界が広がるのを感じました。

● フィールドワークの概要

私が派遣されたのは、パプアニューギニアという国です。オーストラリアの北東に位置する常夏の島です。島といっても面積は日本の1.25倍もあります。その中でも2次大戦中に日本軍の駐留地があったラバウルの近くが任地となりました。現地の人たちは比較的日本人に親しみを持っており、すぐに仲良くなれました。

仕事は、町から少し離れた村にある公立小学校で理科と数学の授業を持つことです。また、その教え方を他の教職員に残していくという仕事もありました。住居は学校の敷地内にある教員用の寮で、6畳2間の広さでした。電気はありましたが水道はなく、雨水をタンクに貯めて利用していました。最初の頃は水道がなくて不便だと感じましたが、すぐに慣れて平気になりました。ただ、タンクの水がなくなったときは、何もできなくなり大変でした。

私が受け持った生徒は、小学7年生の2クラスです。日本でいう中学1年生ですが、年齢はバラバラで13歳から19歳までいました。男女比は半々くらいです。元々の問題点として、数学では基礎計算能力が低いこと、理科では実験が少ないことがわかっていましたので、それを改善するのが私の主な任務でした。

● 活動内容

私が取り組んだことは大きく分けて3つあります。数学、理科、その他です。まず、数学に関しては基礎計算能力を向上させるための、100マス計算や公文式計算ドリルによる四則演算の反復練習の導入です。最初は九九を覚えている子がクラスの半分程度でしたが、反復練習のおかげで全員が覚え、計算の速さと正確さが格段に上がりました。それを、他の教職員にも教えるためにワークショップを開き、ほぼ半数の先生が積極的に取り入れるようになりました。

理科は、1年目はとにかく実験をたくさんやりました。設備も予算もない中でもやればできるということを実証したかったからです。しかし、あまりにも負担の大きなことは結局続かないと思い、2年目からは、パプアニューギニアの教育省とJICAが合同で進めているプロジェクトを一足早く導入することにしました。これは、先生にかかる負担がそれほど大きくないので、続けられるかもしれないと思いました。しかし、現地の先生にとって理科の実験は非常にハードルが高く、実際に導入できたは一人の先生だけでした。

その他の活動としては、コピー機の使い方を教えるワークショップや、パソコンなどの修理、ダンスも教えました。毎週末に、近所の子供を集めて映画を見せてあげました。映画は世界の広げる最高の教材だと思っています。

● 体験を通して学んだことや感じたこと

2年間の活動を通して学んだ最も大きなものは、情熱を持って取り組むことの大切さです。私は人を怒ったり叱ったり、自分の意見を強く主張するのが苦手でした。先生として強くあるべき時でさえ気後れしてしまい、クラスのコントロールができないことがありました。しかし、生徒の将来を真剣に考え、このままではいけないと思い、強く叱るようにしました。それ以来、うまくいくこともあれば、ぶつかって生徒と喧嘩することも多々ありましたが、それらを乗り越えたことで強い信頼関係を築けました。「伝わるのは熱意だけ」と、訓練所で教わりましたが、まさにその通りでした。なぜ英語も技術も未熟な自分に、生徒や先生が呼応してくれるようになったのか、それは私の熱意を感じてもらえたからだと、今でも信じています。

その一件がきっかけで、他のことにも思い切りの良さが付き、様々なことにチャレンジするようになりました。失敗や落胆されることは辛いものですが、その積み重ねが成功につながるということを体験できたおかげで、一歩踏み出すことにためらいがなくなりました。そうすると今度はあまりにも多くの仕事を抱えてしまって全然時間が足りなくなりました。しかし、その経験からも大切なことを二つ学びました。一つは、自分のやりたいことをやりたいようにやっているとあまりストレスにならないために、続けられること。もう一つは、効率よく動くために頭を働かせると、物事の本質に気付くことができ、無駄のない行動ができるということです。これらの経験は、私の仕事に対する能力を大きく成長させくれました。

● フィールドワークをめざしている人へ一言お願いいたします!

これからフィールドワークへ行かれる方々にはぜひとも「伝わるのは熱意だけ」という言葉を心の片隅においていただければと思います。これは、協力隊の派遣前訓練で教わった言葉ですが、フィールドでの活動において、相手に理解してもらえないことが多々あります。そのため協力が得られない、反対される、関心が低いことなどが、活動の足かせになります。しかし、下手な英語や現地語でも情熱・熱意をもって訴えていると、ふっと相手が心を開いてくれる時があります。理論や損得勘定ではなく、「あなたが私たちのことを思って真剣に取り組んでくれているから・・・」という理由で。きれい事のような話ですが、私はその素晴らしい体験をしました。そして、最後まで活動をやり通すことができました。

皆様が熱意・情熱を持って活動し、素晴らしい体験をされますことを願っています。

写真1:私が活動したカバレオ公立小学校の校舎です。生徒数約400人、教員数18名で、ココナッツの木に囲まれた、山間の村にあります。街までは歩いて40分ほどです。

写真2:小学7年生のクラスでの記念写真です。生徒が手に持っているのはお土産に持ってきた煎餅です。みな喜んでくれました。

写真3:理科の実験の授業風景です。生徒はみんな実験が好きで、いつも楽しんで授業に取り組んでくれました。これは、水量の変化から、ビー玉の体積を測る実験です。こういうことは実際にやってみないと身につかないですよね。