NGO(PIVS)提供プログラムによるケニア・キスムの孤児院でのボランティア活動

執筆:2013年12月

「Foundation, Diploma for Postgraduate Studies, International Business and International Development Studies, School of Oriental and African Studies, University of London」

(ロンドン大学東洋アフリカ学院)

望月 優紀(もちづき ゆうき)さん


1.自己紹介

学部(日本)→ケニアにてボランティア→修士(イギリス)

2013年9月からSOASのPre-master's Programmeで学んでいます。日本の大学に在学中は就職活動も行いましたが、開発への道を諦め切れず、イギリスの大学院に進学することを決めました。しかし、学部時代は全く別の畑で学んでいたため、開発学の基礎知識を身につけるべく、直接Masterに行くのではなくてPre-Masterという道を選択しました。自分の興味分野はBOPビジネスで、フォーカスしている地域はアフリカです。開発を学ぶのだからその前に途上国の現状を見ておきたいと考え、Pre-Masterが始まる丁度1ヵ月前に、ケニアのNGOでボランティア活動を行いました(当時は開発教育に興味があったので、教育でのボランティアを選択しました)。


2.フィールドワークまでの流れ

「アフリカ」、「NGO」、「ボランティア活動」の3つのキーワードで検索した結果、NICEという日本のNPOと提携しているPIVSのプログラムを知りました。応募時には、履歴書と細かい志望動機書(どうしてやりたいのか、現地では何をしたいのか、自分のどんな能力を活かせるのか、現地での経験を将来どのように活かしたいのか等)を送り、1週間ほどで返事を頂きました。


3.フィールドワークの概要

2013年8月の1ヵ月間、ケニアのキスムという場所でボランティア活動を行いました。このプログラムはケニアのNGOであるPIVS(Pamoja)が提供しているもので、事務所はナイロビにあります。活動内容は孤児院(Mamangina)にいる子どもたちのお世話(食事の提供や後片付け、掃除、洗濯)をしたり、勉強(数学、理科、英語)を教えたりするものでした。ボランティアは4人で、内訳はイタリア人男性2人、カナダ人女性1人、そして日本人1人でした。孤児院なので年齢層はかなり幅広く、2歳のまだ初々しい赤ちゃんのような子どもから、進路に悩む18歳の高校生まで様々でした。この孤児院は、幼稚園のように孤児ではない子どもたちを朝から15時頃まで預かるシステムもあるので、幼児教育にも携わりました。年少から年長まで細かくクラス分けされていて、算数や英語だけでなく、絵を描いたり、一緒に遊具で遊んだりしました。活動時間は、8時半頃から1時間のお昼休憩を挟んで、16時~17時頃まで活動していました。帰宅後は、ホームステイ先で食事の手伝いや文化・言語交流をしました。


4.現地での活動内容

現地の子どもたちはとても明るく、英語にも小さい頃から慣れ親しんでいるようで、コミュニケーションは全く苦になりませんでした。現地入り前に個人的にスワヒリ語を勉強しておいたのですが、全く必要ないくらいでした。英語が堪能な彼らに十分な教育が与えられていなかったり、仕事がなかったりすることは、非常にもったいないことだと思いました。特に数学や理科などの教育レベルが低く(暗算が苦手、なんでも筆算しようとする等)、教育レベルを向上させる余地があると感じました。一方、子どもたちはみんな好奇心旺盛で、勉強に対する姿勢も非常に熱心でした。教えたことはきちんとノートにまとめて再度実践したり、積極的に日本語を教わろうとしてきたりしました。彼らはアスピレーションが高く、将来は教師や医者になりたいという志を持つ子が多くいます。しかし、そのために必要となる教育を受けさせるためのお金は孤児院にはないのが現状で、高校を卒業すると働きに出るのが一般的だそうです。

現地で生活をする上では、数多くの問題もありました。まず、現地の人(特にキスムなど農村地域の人々)たちの間には、先進国の人間はお金持ちで頼めば何でもくれるだろうと考える風潮があるように感じました。例えば、初日のナイロビで滞在させていただいたホストファミリーのお宅では、寝ている間に400ドルを盗まれてしまいました。貴重品は常に身につけておこうと入国前に肝に銘じていたはずだったのですが、優しくもてなしてくれたホストファミリーに対して、完全に気を許してしまっていました。また、ナイロビは交通量がかなり多く、一般道路でも高速道路かと思うほどスピードを出しており、正規の横断歩道も少ないため、移動時は非常に危険です。加えて、盗難やスリは当たり前なので、貴重品にも常に気をつける必要があります。キスム入りしてからも、様々な問題に直面しました。例えば、新しいホストマザーには「それくれない?」や「あれくれない?」とせがまれたりしました。ボランティア前に維持費やホストファミリーに払うため、PIVSに250ユーロの支払いを行っていたのですが、それがきちんとホストマザーに十分に渡っていなかったのか、10日間ほど過ごした後に「さらにお金を支払わないなら出て行ってほしい」と言われて追い出されてしまいました。また、食料や水も250ユーロで賄われるはずが、実際にはそうでなく、度々キャッシュで支払わなければなりませんでした。現地ではケニア・シリングしか使うことができないので、クレジットカードでキャッシングを行っていました。このように現地NGOは必ずしもきちんと運営されているわけではなく、あらかじめお互いがサインした規定やルールを破ってくることもしばしばあります。また、NGO職員も大幅な遅刻をしたり、後から現地入りすると言ってなかなかしなかったりと、スロー・カルチャーが見受けられました。このように途上国はNGOもまだまだ発展途上で、改善の余地があるとともに、先進国のそれとは収入源や活動方法も大きく異なっているように感じました。

また、こちらではシングルマザーもかなり多く見受けられました。そこで興味深いと感じたのは、多くのシングル家庭が家政婦を雇っていることでした。自分の働きに出る間子どもをどこかに預けるのではなく、家政婦にみてもらい、また家事も全てやってもらっていました。家政婦になるような女性たちは幼少期に孤児であったり、十分な教育を受けることができなかったりした人たちです。非常に安い給料で、食料の買い出しで外に出る以外は365日1日中ずっと家の中で働いて過ごします。休みはほぼないようでした。先進国では家政婦は富裕層が雇うイメージのあるものですが、ケニアでは言い値で安く雇うことができるため、シングル家庭も雇う傾向にあり、全く状況が異なりました。

衛生面に関して言えば、水は必ずボイルした後でなければ使えません。ボイルした水を大きなボトルに溜めておくのですが、水は毎日使うものでありすぐになくなってしまい、そのたびにボイルしなければならないので、供給が需要に追いつかないこともしばしばありました。また、非常に興味深いことに、彼らの生活における物事の優先順位は私が思っていたものと全く異なっていました。例えば、キッチンには食べかすが残っていて、ゴキブリがよく出る上に、カビの生えた野菜や果物が普通に置かれていたりしました。トイレットペーパーも、常時あるわけではありません。そこまではなんとなく想定していたのですが、衛生にお金をかけないかわりに、エンターテイメントにはかなりのお金を費やしている点に驚かされました。大きなテレビやソファ、コンポが部屋にあったり、毎晩のようにパブに向かう姿が見られたりしました。実際に彼らに聞いてみると、いわゆる「遊び」に関する好奇心が大きく、限られたお金の使い道は「遊び」の方に優先順位がありました。私から見ると、生活に重要であるはずの衛生面がなおざりにされて、彼らにとって関心のあることから先進国に追いつこうとしているように思えました。携帯電話を持っているのは当たり前ですし、パソコンやゲーム、テレビ、DVDプレーヤーなどのハイテク機器は高くても需要があり、またそのおかげでビジネスとしても発展している分野であるようでした。

ビジネスに関して言えば、上記で述べたようにテクノロジーと関連したビジネス参入を考える若者が非常に多かったです。先進国の大手メーカー製品の中古品を利用してビジネス展開しようとしている方もいました。先進国出身のビジネスパートナーを探している人もかなり多く、自分もパートナーになってくれないかと相談されることもありました。良い企業に勤めようとするよりも、自身で起業したり、どんなに小さいビジネスチャンスであっても参入しようとしたりする傾向が強いように感じました。それは企業の給料の安さ、残業時間の多さを懸念してのことだとも言えると思います。

私が参加したボランティア活動は、簡単に言えば子どもたちに勉強を教えたり、一緒に遊んだりしただけでしたが、非常にたくさんのものを得たように思えます。よく現地のNGOは組織立っていなくて不満足だったと帰国後おっしゃる人がいますが、与えられた内容や役割だけではなく、自分がどう動くかが大切だと思います。そこを受け身にならず、自分が気づいたことから率先して仕事を見つけたり、周りの環境を観察したり、現地の人と積極的にコミュニケーションをとったりと自発的な行動をすれば、有意義なボランティア活動になると思います。ボランティア活動はよく「自己満足」だと言われます。自分で見つけた意義をやり切るのがボランティアなのならば、本当にその通りだと思います。一方で、子どもたちが私の名前をしきりに呼んでくれたこと、笑顔でありがとうと言ってくれて、寂しいと泣いてくれたこと、それだけで自分のためだけでなく、少しは他人のためにもなっていると思えました。実際に現地に足を踏み込んでみたら、自分の価値観や考えも変わってくると思います。


5.フィールドワークを目指す人への一言

ボランティア活動を有意義なものにできるかは自分次第だと思います。現地に行った際はぜひ積極的にたくさんのことを提案して実行してみて下さい。