London School of Hygiene and Tropical Medicine (LSHTM)

執筆:2014年6月

勤め先:London School of Hygiene and Tropical Medicine(LSHTM)

Research Fellow, Faculty of Epidemiology and Population Health

出身校:

「PhD in Epidemiology and Population Health London School of Hygiene and Tropical Medicine(LSHTM)」

(ロンドン大学 衛生・熱帯医学校) 卒業

町山 和代(まちやま かずよ)さん


1、 自己紹介

明治大学政治経済学部政治学科を卒業後、在ウガンダ日本国大使館にて在外公館派遣員として2年間勤務しました。帰国後は、半年程JICA本部及びインドネシア事務所にて短期調査員として勤務し、その後ウガンダで興味をもった国際保健を学ぶため、米国ボストン大学の公衆衛生学の修士課程に進学しました。米国のMPH(Master of Public Health)取得には、授業履修の他に、インターンをすることが必須条件です。そのため、私は馴染みのあるウガンダに戻り、アフリカのNGO、ADEO(African Development and Emergency Organisation)のスーダン難民キャンプで3ヵ月間インターンをし、その間人口学的調査(出生力、子どもの死亡率、家族計画)をしました。その後半年程、世界保健機構西太平洋地域事務所で勤務した後、LSHTMの博士課程に進みました。博士論文のテーマとして、DHS(Demographic and Health Surveys)を使ったアフリカの出生力転換の再検討をしました。


2、 現在の仕事内容

仕事の内容は、他の大学と同様に研究と教育ですが、LSHTMはリサーチを中心とした大学なので、仕事のうち研究が高い割合を占めています。スタッフにもよりますが、LSHTMでの働き方は、大学職員というよりも開発コンサルタントに近いと想像してもらった方がわかりやすいと思います。各国政府、国際機関、民間の慈善基金団体から研究業務を受注しています。

私の専門は、人口学で、主にサブサハラ・アフリカの出生力の動向、リプロダクティブヘルス、家族計画、望まない妊娠等についての研究をしています。例えば、日本のJICAに当たる英国のDFIDのプロジェクトでは、米国、ケニア、バングラディッシュの研究機関、英国のNGOと共同して、サブサハラ・アフリカとアジア5ヵ国における望まない妊娠、家族計画に関する研究をしています。ゲイツ財団のプロジェクトではアフリカ6ヵ国のHIV・AIDSに関わる保健サービスの評価をしています。また英国公的機関とヒューレット財団から資金を受けたプロジェクトでは、マラウイでの望まない妊娠がどう家庭に影響を及ぼすか等を研究しています。

今の仕事の醍醐味は、世界100ヵ国以上から来ている学生と職員がいる国際的な組織でありながら、今までの勤務先と違って、日本人だからこうしなければならないと気負う必要がなく、同時に日本人であるからと守られることなく、個人の経験、専門性と人脈で、様々な機関の人と仕事ができることです。また、議論を発展させるために、人と違う意見・考え方を持ち発言すること、論理的に人の意見を理解し自分の意見を説明することが訓練されることもこの仕事の面白さだと思います。


3、就職までの流れ

博士課程に在籍中、同じグループのスタッフに声をかけられたことをきっかけに、あるプロジェクトの研究員として雇用していただきました。この研究の提案書を出す時点で共同研究者として名前を入れてもらったので、公募のポストのような選考過程はありませんでした。しかしこのようなプロジェクトベースという形態の雇用契約は短期間なので、常に次の研究プロジェクトを探していかなければなりません。


4、 在学中にしておいてよかったこと、またやっておけばよかったこと

[在学中しておいてよかったこと]

DHSのデータを使った研究と、ティーチング。DHSは途上国の保健に関する主要なデータソースで、ミレニアム開発目標の指標など国際的な統計の多くはこのデータを使っています。そのため、DHSのデータを使った研究は多く、共同研究をさせていただく機会が多くあります。また、ある分野の専門家になると、教育機関以外に勤めていても、何らかのかたちで人に教える機会があると思いますので、ティーチングの経験はとても役に立ちます。多様なバックグランドを持ち異なる教育を受けてきた人々と接するのはとても面白いですし、そのような学生達を指導することで自信もつきました。

[在学中しておけばよかったこと]

英語力をきちんと向上させること、フランス語の基本が理解できるレベルまで勉強すること。周りには、3-5ヵ国語を話せる人が多くいますし、西アフリカの人と共同研究することも増えてきているので、フランス語ができないことは仕事上バリアになってきています。また、英国のPhDは必修の授業がないので、もっと積極的に大学内外で研究の方法について色々と学んでおけばよかったと思います。


5、 今後のキャリアプラン、将来の夢など

今後3年程は、出生力研究の専門家としての軸をきちんと確立して、独立した研究者になれるよう努力する考えです。その過程で途上国の人口問題、リプロダクティブヘルスの改善に向けて、有用で影響力を与えられる研究ができればと思います。専門性がしっかりしてきたら、フィールドで現地の人々と働くか、政策形成及び評価に近いところで働けたらと思っています。また、今までアフリカの研究が中心でしたが、日本、アジアにおける少子化も重要な問題ですし、他の途上国でも少子・高齢化の問題が深刻化してきているので、アジア、アフリカの両地域で仕事ができればと思います。


6、これから留学する 学生、在学中の学生に一言

10-20代のうちに、何がしたいのか、得意なのか、好きなのか、次の10-20年の間に世界で何が重要になるのか、私生活で重要なことは何か等を鑑みて、将来のキャリア&ライフをとことん考え抜き、行動するとよいと思います。それは色々な人と会って、実際にいくつかの所で働いてみて、初めてわかってくることです。国際開発の仕事を見つけることはあくまでもスタートで、特に専門家になりたい場合は、その中でパッションを持ち続けられる分野を見つけていくかがより大事だと思います。そして実際にそのエリアに居続けることはとても大変なことだと思います。私は、中学生の頃から国際開発に興味がありましたが、修士を終える頃になって、国際保健の中でも人口学、家族、特に出生の分野をライフワークにしたいということがわかりました。いつ、何人の子どもを持つ、持たないというのは、万国共通かつとてもプライベートなことですが、マクロレベルで見ると、政治経済及び環境に大きな影響を及ぼし、また受けるので、とても重要で面白い分野だと思っています。

また、特に公衆衛生分野はそうですが、どこの機関で働くかというのはあまり重要でなくなってきているように思います。私の仕事では、政府機関、国際機関、NGO、民間団体が一緒に働いており、同じような仕事をし、経験、専門性を求められ、人の移動・異動も多くあります。組織の改編もありますので、何がしたいのか、どの分野で自分が貢献できるのか、日々の生活で自分が納得し、幸せを感じられる環境を模索し、見つけていくのが重要かと思います。

執筆:2014年6月

勤め先:London School of Hygiene and Tropical Medicine(LSHTM)

Research Fellow, Faculty of Epidemiology and Population Health

出身校:

「PhD in Epidemiology and Population Health London School of Hygiene and Tropical Medicine(LSHTM)」

(ロンドン大学 衛生・熱帯医学校) 卒業

町山 和代(まちやま かずよ)さん


1、 自己紹介

明治大学政治経済学部政治学科を卒業後、在ウガンダ日本国大使館にて在外公館派遣員として2年間勤務しました。帰国後は、半年程JICA本部及びインドネシア事務所にて短期調査員として勤務し、その後ウガンダで興味をもった国際保健を学ぶため、米国ボストン大学の公衆衛生学の修士課程に進学しました。米国のMPH(Master of Public Health)取得には、授業履修の他に、インターンをすることが必須条件です。そのため、私は馴染みのあるウガンダに戻り、アフリカのNGO、ADEO(African Development and Emergency Organisation)のスーダン難民キャンプで3ヵ月間インターンをし、その間人口学的調査(出生力、子どもの死亡率、家族計画)をしました。その後半年程、世界保健機構西太平洋地域事務所で勤務した後、LSHTMの博士課程に進みました。博士論文のテーマとして、DHS(Demographic and Health Surveys)を使ったアフリカの出生力転換の再検討をしました。


2、 現在の仕事内容

仕事の内容は、他の大学と同様に研究と教育ですが、LSHTMはリサーチを中心とした大学なので、仕事のうち研究が高い割合を占めています。スタッフにもよりますが、LSHTMでの働き方は、大学職員というよりも開発コンサルタントに近いと想像してもらった方がわかりやすいと思います。各国政府、国際機関、民間の慈善基金団体から研究業務を受注しています。

私の専門は、人口学で、主にサブサハラ・アフリカの出生力の動向、リプロダクティブヘルス、家族計画、望まない妊娠等についての研究をしています。例えば、日本のJICAに当たる英国のDFIDのプロジェクトでは、米国、ケニア、バングラディッシュの研究機関、英国のNGOと共同して、サブサハラ・アフリカとアジア5ヵ国における望まない妊娠、家族計画に関する研究をしています。ゲイツ財団のプロジェクトではアフリカ6ヵ国のHIV・AIDSに関わる保健サービスの評価をしています。また英国公的機関とヒューレット財団から資金を受けたプロジェクトでは、マラウイでの望まない妊娠がどう家庭に影響を及ぼすか等を研究しています。

今の仕事の醍醐味は、世界100ヵ国以上から来ている学生と職員がいる国際的な組織でありながら、今までの勤務先と違って、日本人だからこうしなければならないと気負う必要がなく、同時に日本人であるからと守られることなく、個人の経験、専門性と人脈で、様々な機関の人と仕事ができることです。また、議論を発展させるために、人と違う意見・考え方を持ち発言すること、論理的に人の意見を理解し自分の意見を説明することが訓練されることもこの仕事の面白さだと思います。


3、就職までの流れ

博士課程に在籍中、同じグループのスタッフに声をかけられたことをきっかけに、あるプロジェクトの研究員として雇用していただきました。この研究の提案書を出す時点で共同研究者として名前を入れてもらったので、公募のポストのような選考過程はありませんでした。しかしこのようなプロジェクトベースという形態の雇用契約は短期間なので、常に次の研究プロジェクトを探していかなければなりません。


4、 在学中にしておいてよかったこと、またやっておけばよかったこと

[在学中しておいてよかったこと]

DHSのデータを使った研究と、ティーチング。DHSは途上国の保健に関する主要なデータソースで、ミレニアム開発目標の指標など国際的な統計の多くはこのデータを使っています。そのため、DHSのデータを使った研究は多く、共同研究をさせていただく機会が多くあります。また、ある分野の専門家になると、教育機関以外に勤めていても、何らかのかたちで人に教える機会があると思いますので、ティーチングの経験はとても役に立ちます。多様なバックグランドを持ち異なる教育を受けてきた人々と接するのはとても面白いですし、そのような学生達を指導することで自信もつきました。

[在学中しておけばよかったこと]

英語力をきちんと向上させること、フランス語の基本が理解できるレベルまで勉強すること。周りには、3-5ヵ国語を話せる人が多くいますし、西アフリカの人と共同研究することも増えてきているので、フランス語ができないことは仕事上バリアになってきています。また、英国のPhDは必修の授業がないので、もっと積極的に大学内外で研究の方法について色々と学んでおけばよかったと思います。


5、 今後のキャリアプラン、将来の夢など

今後3年程は、出生力研究の専門家としての軸をきちんと確立して、独立した研究者になれるよう努力する考えです。その過程で途上国の人口問題、リプロダクティブヘルスの改善に向けて、有用で影響力を与えられる研究ができればと思います。専門性がしっかりしてきたら、フィールドで現地の人々と働くか、政策形成及び評価に近いところで働けたらと思っています。また、今までアフリカの研究が中心でしたが、日本、アジアにおける少子化も重要な問題ですし、他の途上国でも少子・高齢化の問題が深刻化してきているので、アジア、アフリカの両地域で仕事ができればと思います。


6、これから留学する 学生、在学中の学生に一言

10-20代のうちに、何がしたいのか、得意なのか、好きなのか、次の10-20年の間に世界で何が重要になるのか、私生活で重要なことは何か等を鑑みて、将来のキャリア&ライフをとことん考え抜き、行動するとよいと思います。それは色々な人と会って、実際にいくつかの所で働いてみて、初めてわかってくることです。国際開発の仕事を見つけることはあくまでもスタートで、特に専門家になりたい場合は、その中でパッションを持ち続けられる分野を見つけていくかがより大事だと思います。そして実際にそのエリアに居続けることはとても大変なことだと思います。私は、中学生の頃から国際開発に興味がありましたが、修士を終える頃になって、国際保健の中でも人口学、家族、特に出生の分野をライフワークにしたいということがわかりました。いつ、何人の子どもを持つ、持たないというのは、万国共通かつとてもプライベートなことですが、マクロレベルで見ると、政治経済及び環境に大きな影響を及ぼし、また受けるので、とても重要で面白い分野だと思っています。

また、特に公衆衛生分野はそうですが、どこの機関で働くかというのはあまり重要でなくなってきているように思います。私の仕事では、政府機関、国際機関、NGO、民間団体が一緒に働いており、同じような仕事をし、経験、専門性を求められ、人の移動・異動も多くあります。組織の改編もありますので、何がしたいのか、どの分野で自分が貢献できるのか、日々の生活で自分が納得し、幸せを感じられる環境を模索し、見つけていくのが重要かと思います。