JICA青年海外協力隊(感染症・エイズ対策/マダガスカル)

執筆:2013年3月

「MA Gender and Development, Institute of Development Studies (IDS), University of Sussex」

(サセックス大学 開発学研究所 ジェンダーと開発 修士課程)

岡崎 有香(おかざき ゆうか)さん

1. 自己紹介

学部時代に、国際政治、地域研究、比較文化、英語訓練等、国際関係を広く学びました。それを通じて、自分が想像していた以上に、外交やグローバル経済が複雑で、理想と現実のギャップが多く存在しているということを知りました。また課外活動では「模擬国連」という国際政治の場で取り上げられている課題について討論するサークルに参加し、実際に自分の頭で考えるという習慣を身につけました。それらのなかでも、やはり高校時代から関心を抱いてきた、開発・国際協力というテーマに強くひかれ、ゼミや卒業論文のテーマを「国際協力」に絞っていきました。学部時代に行った1ヶ月のブラジルアマゾンでのフィールドワークが印象的で、自分が今学んでいることに実際に関わってみることへの強い希望が生まれました。同時に、将来的に国際協力の分野で働きたいと思い、長期間の現場経験を積もうと決心し、青年海外協力隊に申し込みました。


2. フィールドワークまでの流れ

JICAボランティアである青年海外協力隊事業は、年に2回募集をしており、私は春募集に申し込みました。5〜6月が出願期間で、履歴書や応募動機等を書き込んだエントリーシート、推薦状や成績証明の書類を揃えて郵送しました。他の企業と異なることは、希望する仕事分野にもよりますが、小論文やテストの回答も添付しなければならなかったことと、病院に行って健康診断を受け、その結果も送らなければならなかったことです。それらの書類審査に通過し、7月に英語能力テストと、面接(個人とグループ)を受け、8月に合格通知を受け取りました。その次の6月にフィールドへ派遣される予定だったので、事前研修が3月に数週間と、4月〜6月の3ヶ月間があり、それにも参加しました。そこでは、職務に関する訓練と、語学レッスンを主に受けました。そして応募から一年後の6月に現地へ赴きました。


3. フィールドワークの概要

渡航や配属先等はJICA本部と派遣先であるJICAマダガスカル事務所が手配します。契約は2年間現地で、「HIV/AIDS対策」の要望に基づいたボランティア活動を実施することです。配属先は現地NGOで、国内では最大規模の社会開発全般を扱うキリスト教系列の団体でした。そこの首都本部の保健課(他には教育課、環境課、村落開発課等がある。)に私は配属されました。オフィスは建物のワンフロアで、課長2名、スタッフが5名ほど。その他に秘書や運転手、総務の仕事をこなす人が3人ほどいます。担当したプロジェクトは配属先NGOがUNFPAマダガスカル支局に委託された「青少年リプロダクティブヘルス教育」でした。ピアエデュケーションの手法を用い、NGOが市内にある高校や教会の15名の若者を対象に研修を開き、彼らが地元に戻り、同年代の若者に研修で学んだ情報を伝えていくというものでした。知識の伝達だけでなく、思春期特有の悩みについてのカウンセリング、意識改革も含め、NGOが後押しする形で、若者同士の学び合いの場を強めるという概要のプロジェクトでした。実際にこのプロジェクトに関わっていたのは、NGOスタッフ2名、学校の教師1名(×3校)、若者有志グループ5名(×3校)でした。教育の対象となるのは、14歳から20歳前後の男女、3校合わせて、500名ほど。予算は、研修開催費が主で、その他印刷代やガソリン代の雑費、イベント等は毎時特別経費がおります。NGOがこのプロジェクトを扱う歴史は10年以上に渡り、現在でも活発に地元の若者たちの支援に励んでいます。


4. 現地での活動内容

派遣期間が2年あったので、まずは現状調査として、マダガスカルの若者の性教育事情についてのリサーチを行いました。聞き取り調査、アンケート、関連資料のまとめなどです。NGOスタッフが地元の地理に詳しい分、外国人である自分は新しい視点を導入するよう心がけました。若者対象の研修に参加して、プロジェクトリーダーに任命されてからは、一連の過程の見直しにとりかかり、ターゲットを「若者リーダーからの地元の同級生に対するピアエデュケーションの流れを強化する」ことに設定しました。これらの作業も含め、赴任後半年間は、カリキュラムの改訂、関係者のモチベーションアップとプロジェクトへの理解力促進の工夫、定期的なアクティビティーを導入する準備、パイロット授業の実施等を行いました。関係者との密な連携を通して、その後約1年半かけて、3校においての「リプロダクティブヘルス教育」授業を実施しました。授業内容は、思春期の体の発達、妊娠のしくみ、避妊の方法、将来計画、性教育、男女交際についての理解力増加などです。ひとクラスにつき、週に一回の授業枠を設け、クリップや黒板を使ってレクチャーをしたり、参加型のグループワークを交えたりしながら「面白い」授業を心がけました。半年に一度の割合で、理解度チェック試験、学校全体でのイベント実施、保護者会議等を実施しました。自分の役割としては①起爆剤。リーダーとして関係者のモチベーションをあげる工夫をしつづけました。②アイデアメーカー。外国人ならではの新しい手法をたくさんとりいれました。③持続可能性について問題提起する係。どのやり方が一番現地に合って、今後も続くだろうかを考えていました。


5. 体験を通じて学んだこと

「現場を知る」

まず、自分が今後も開発の分野で働く気持ちが強かったので、それを事前に関係者に伝えていました。その結果、多くの機関の関わるプロジェクトで仕事ができたことは光栄だったと思います。国連やJICAの援助機関としての特徴、現地NGOの特性、予算や評価の仕組み、草の根活動の難しさと面白さ、等。現場で学んだことすべてが今後に生きてくると思います。

「悔しかったこと」

何度も失敗しました。自分の仕事を確定するまでにも苦労したし、上司や同僚が突然変わるなど未知との遭遇がたくさんありました。その中で自分のやりたいことを何としてでも達成しようとしましたが、その気負いが逆に裏目に出た時もありました。例えば、HIV感染予防としてはコンドーム使用が有力なので、それを積極的に押し進めようとしたら、現地では保守的な宗教観を持つ人々が多かったために(NGOスタッフや学校の先生など)、実施が困難でした。ボランティアといえども、仕事なのでしがらみやプレッシャーによって、計画通りにすすまないことがありました。

「失敗できる」

ただ、2年間という時間は決して短くないので、失敗してやり直す努力をすることができます。同僚に相談したり、自分の意図をわかってもらうための信頼関係を構築したり、ひとつのゴールでもたくさんのアプローチを試してみたり、とチャレンジするチャンスがたくさんあって、とても幸せでした。


6. フィールドワークをめざしている人へ一言

フィールドへぜひ行きましょう!そこで気づくこと、感じることを、ぜひ大事にメモしておいてください。そしてできるだけ、偏見や先入観をもたずに、現地の人と友達になってみてはいかがでしょうか?さらにフィールドワークにも熱がはいると思います。ひとつアドバスすることがあるとすれば、できるだけ早く現地に慣れる工夫をしてみてください。ホームシックの克服、現地の食事を気に入るようになる、日常会話ができるようになる、関係者にできるだけ笑いかけ、仕事が円滑にすすむようにする、等です。スタートダッシュをいかに早く切れるかどうかで、その後の充実度が変わってくると思います。ぜひ楽しんでください!